【ロンドン火災】 なぜ高層住宅にスプリンクラーがついていないのか
高層建築で火災の拡大を防ぐのに最も効果的な装置の一つが、スプリンクラーだ。しかし、14日未明に出火したロンドン西部のグレンフェル・タワーをはじめ、英国内に数千とある高層住宅の多くには、スプリンクラーが設置されていない。それはなぜなのか。
イングランドでスプリンクラーの設置が義務付けられているのは、2007年以降に建てられ、高さ30メートル以上の建物のみだ。この決まりは過去にさかのぼって適用されないため、1974年に完成したグレンフェル・タワーにも適用されなかった。建物の構造や使用方法に根本的な変更を加える場合は、既存の高層建築にもスプリンクラーを設置しなくてはならない。
北アイルランドでも同様の決まりだ。スコットランドでは、高さ18メートル以上の新築住宅にはスプリンクラーが義務付けられている。ウェールズでは昨年以来、すべての住宅建築は新築・改築を問わず、スプリンクラーを設置しなくてはならない。
しかし、英国内では地方を問わず、既存の建物にスプリンクラーを後付する義務はない。
どれくらいかかるのか
スプリンクラーのある公営高層住宅は全体の1%に満たない。では、古い建物に新しいスプリンクラー・システムをつけるには、いくらかかるのか。
2009年にロンドン南部で発生した公営高層住宅「ラカナル・ハウス」火災について調査報告書をまとめたサー・ケン・ナイトによると、建物内の延焼を防ぐ手段としてスプリンクラーなどの有効性は相当の証拠で支えられていたものの、すでに建っている高層住宅すべてに、消火装置の設置を事後的に義務付けるのは「現実的でないし、経済的にも難しい」と考えられていた。
消火スプリンクラーの業界団体「英自動消火スプリンクラー協会(BAFSA)」は、グレンフェル・タワーにスプリンクラーを設置する費用を20万ポンド(約2800万円)と見積もっている。
費用は建物によって異なる。2010年に英南部サザンプトンの「シャーリー・タワーズ」で起きた火災の後(消防士二人が死亡)、管理する行政区は高層住宅3棟にスプリンクラーを設置。費用は100万ポンド(約1億4000万円)だった。
グレンフェルのようにコンクリートと鉄でできた建物の場合、設置作業が困難で時間がかかるため、費用がかさむこともある。そのため、延焼の防止にはスプリンクラー以外の方法が優先されてきた。
全国消防署長会議のロイ・ウィルシャー委員長はこれに対して、従来の方針を「あらめて検討し直す必要がある」と認める。
ウィルシャー委員は一方で、グレンフェル・タワーでは炎が外壁を伝って拡大したように見えることを指摘。その場合、スプリンクラーがあっても大きな違いはなかったかもしれないという。
グレンフェル・タワーの火災は、2015年末から2016年元日にかけてドバイで起きた高層ビルの事例と似ている。高級ホテル「アドレス・ダウンタウン・ドバイ」(63階建て)とグレンフェル・タワーの違いは、ドバイのビルには「スプリンクラーがあり誰も死ななかった」ことだと、欧州消火スプリンクラーネットワークのアラン・ブリンソン氏は言う。
全英消防職員協会の報道担当は2015年、「スプリンクラーが適切に設置され、きちんと作動する」英国内の建物で、火災による犠牲者が出たことはないと表明している。
<解説> マーサ・キアニー、BBCラジオ4
過去にも公営高層住宅で火事が起きては、警告が無視されていたことが発覚してきた。
グレンフェル・タワー火災の7年前、2010年4月に南部サザンプトンのシャーリー・タワーズで起きた火災で、消防士二人が死亡した。検死官は「公営住宅の供給担当は、高さ30メートル超のすべての既存高層住宅について、スプリンクラーの設置を検討すべきだ」と勧告した。
2005年にはロンドン北郊スティーブネジの「ハロウ・コート」で火災があり、女性一人と消防士二人が死亡した。地元の消防当局は英消防士協会に対して、「スプリンクラーの設置」を含めた高層建築対策を検討すべきだと提言した。
2009年にロンドン南部の公営高層住宅「ラカナル・ハウス」で6人が死亡した後、検死官は「(コミュニティ・地方自治省は)、高層集合住宅の供給事業者に対して、スプリンクラーの設置を検討するよう促すべき」だと勧告している。
(英語記事 Reality Check: Why don't all high-rises have sprinklers?)