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【コラム】

筆洗

 劇作家の別役実さんの『当世悪魔の辞典』を開けば、「目」は、こう定義されている。<自分自身であることが最も自然に感じられる器官。危険に遭遇して我々が目をつむるのは、そうすることによって我々自身をそこから消し去ることが出来ると信じているからである>▼なるほど最近の政治の危うさを見れば、思わず目を閉じたくなる。疑問と不安が解消されないまま、「共謀罪」法案は強引に可決された。獣医学部新設をめぐる疑惑をめぐっては、政府に真相を究明しようという真剣さは見当たらぬ▼国会で疑惑を追及された首相は「野次られると答弁しにくい」と言いつつ、自分は質問者に野次を飛ばしていた。その隣で財務相が目をつむり、にやにや笑っていた。本当に目を閉じたくなる光景だ▼実のところ政府与党の皆さんは、国民に目をつむってほしいのだろう。質(ただ)すべき事は山とあるのに、早々に国会審議を終わらせた。都議選も近い。乱暴な国会運営も疑惑もすぐ忘れられるだろう…と▼面白い研究がある。英国の心理学者が、犯罪の場面を再現した映像を人々に見せ、どれだけ覚えているかを調べた。すると、ある動作をするだけで正答率が二割上がった。「目をつむる」という簡単な動作が、記憶を助けていたのだ▼政治の危うさをいっとき忘れるためでなく、しっかりと覚えておくために、目を閉じようか。

 

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