小口幸人(弁護士)

 テロ対策にならない「共謀罪」が成立しました。政府与党は、最後まで「テロ対策」として成立させました。この事実は、二つのことを物語っています。

 一つは、安倍政権はテロ対策を真面目にやっていないということです。一国民としてはとても心配ですが、裏を返せば、日本でテロが行われるという危険はそこまで差し迫っていないということなのかもしれません。

 もう一つは、目的不明の共謀罪が成立したということです。任意捜査の名の下に警察による監視活動が広がることは止めようもありませんし、通信傍受法改正も数年以内に行われるでしょう。

 将来、どの政権が共謀罪を戦前の治安維持法のように乱用的に使い始めるかはわかりませんが、そのボタンはセットされてしまいました。

 そのボタンが押される対象としては、沖縄の辺野古新基地建設反対運動が最有力でしょうが、原発再稼働反対運動もその候補です。今後予定されている、核のゴミの最終処分場選定にまつわる反対運動も候補でしょう。

 望み薄だとは思いますが。乱用される前に、警察が「任意捜査」の名の下に行う捜査・監視に法規制をかけることで実質的に法の支配を確保し、捜査の必要と人権保障を適正に両立できるようになることを期待したいと思います。※以上6月15日追記、以下は法案成立前に執筆

「テロ等準備罪」法が成立。記者団の質問に答える安倍晋三首相=6月15日、首相官邸(酒巻俊介撮影)
テロ等準備罪法が成立。記者団の質問に答える安倍晋三首相
=6月15日、首相官邸(酒巻俊介撮影)
 政府は、テロ等準備罪(共謀罪)法案は、国際組織犯罪防止(TOC)条約の批准に必要だとし、TOC条約に批准することがテロ対策になるとしています。しかし、TOC条約を批准している国でテロが起きています。共謀罪発祥の地とも言われるイギリスでもテロが続いています。

 TOC条約や共謀罪がそろっている国でなぜテロが起きているのか。答えは簡単です。TOC条約はテロ対策ではないからです。共謀罪もテロ対策の役に立たないからです。政府は事実と異なる説明をしているということです。

 TOC条約がテロ対策でないことは、条約の立法ガイドを書いた張本人であるニコス・パッサス教授が断言したことで、議論の余地がないほどはっきりしました。疑問に思われる方は、ネットで検索して外務省のホームページから和訳を読んでください。最初の数条を読めば、経済目的の犯罪対策、つまりテロ対策ではなくマフィア対策であることがおわかりいただけます。