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【ふくしま便り】私塾「福島駅前自主夜間中学」 震災でも途切れず8年目
さまざまな事情で義務教育を修了できなかった人のための学びの場、自主夜間中学が福島にもある。「自主」と付くのは、元教員などのボランティアが手弁当でつくり上げ、続けている私塾だからだ。学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設問題で「行政がゆがめられた」と訴えている前川喜平・前文部科学省事務次官も、ここに通ったボランティアの一人だった。何を求めたのか。答えを探して、授業の様子を見せてもらった。 JR福島駅に近いビルの一室。午後六時に自主夜間中学は始まった。教師と生徒、一対一の学習が原則で、六組ほどのペアが肩を並べて教材をのぞき込む。英語のアルファベットを学ぶ組、新聞を材料に時事問題を読み解く組など。休憩を兼ねた十五分のお茶タイムを挟んで二時間、静かだが熱気に満ちた学習が続いた。 生徒の年齢は二十代から八十代まで。教師役は、教員を定年退職した人が多い。 運営母体の「福島に公立夜間中学をつくる会」が活動を始めたのは二〇一〇年八月だった。 文科省が設置した公立夜間中学は全国に三十一校。大部分が首都圏、関西圏に集中し、東北以北には一つもない。 設立メンバーの大谷一代さん(54)は、七年前に亡くなった実弟が不登校の末に苦しむ姿を目の当たりにした。「弟と同じ境遇の人たちを救いたい。夜間中学を」と仲間に呼びかけたのが、きっかけとなった。 自主夜間中学は月に四回。授業料は無料。東日本大震災があっても途切れず、生徒は二十人ほどに増えた。 この小さな私塾に、思いもよらぬ「贈り物」があった。
前川氏の講演「夜間中学と日本の教育の未来」を東京で聞いた大谷さんが「ぜひ、福島でも」と直談判した。前川氏はあっさりと快諾。今年一月十四日、文科省事務方のトップが福島を訪れ、講演が実現した。このとき関係者を驚かせたのは、前川氏が「退省したら福島の夜間中学の活動に参加したい」と申し出たことだった。 前川氏が天下り問題の責任を取って辞職したのは、この約一週間後。そして二月一日、今度はボランティアとして福島に姿を見せた。 マンツーマンの授業を受けたのは渡辺宏司さん(78)だった。 「講演の内容がさっぱり理解できなかったと話したら、一緒に新聞を読みながら解説してくれたんだよ。偉ぶるところのない、温厚な人だったな」 渡辺さんは、中学を卒業したものの、自動車染色工になるために高校進学を断念したことを今も悔いている。生徒の中には、そんなお年寄りが多い。 この後、週に二回ずつ合計十回にわたって、前川氏はボランティアにやってきた。 最後は五月十二日。数日後、「しばらく忙しくなります」と、運営母体の会の代表、菅野家弘さんに電話があった。前川氏が加計学園問題で記者会見したのは、同二十五日のことだった。 「驚いたな。暇になったら、また来てくれないかな。待っているよ」と渡辺さんは話した。 夜間中学を巡っては二〇一六年十二月に教育機会確保法が成立。これを受け、文科省は、各都道府県に少なくとも一つ、公立夜間中学を設置するよう検討を進めている。 × × × 福島駅前自主夜間中学では生徒、ボランティアを募集している。連絡先は大谷さん=電090(2025)5287=へ。 (福島特別支局長・坂本充孝) PR情報
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