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『この世界』の絵コンテをパラパラ見てて気づいたが、この作品、俯瞰が実に多い。

所謂『サザエさん』的、『あたしンち』的な俯瞰だ。

やはり家族や食卓を描くには最適なのだろう。
あるいは古くは絵巻物とか、そういった文化史や精神史に裏付けられるものでもあると思う。


まぁ有名な話だが、小津安二郎は俯瞰を徹底的に嫌った。
でも『浮草』で初めてタッグを組んだカメラマンの宮川一夫が、「ダメ元」で撮っておいた俯瞰ショットが使われたというのも有名な話。

一方で俯瞰の画ばかり撮ったのが溝口健二。
クレーン撮影が大好きで、しかもずっとクレーンに乗っていたと言う。

もちろんどちらが正しくてどちらが間違っているという訳ではない。それぞれの美学の表れだ。


『この世界』における俯瞰は、「神の視座」からの慈愛が込められているような気がする。
「神の視座」とは、僕は基本的には冷酷なものだと思う(溝口はそう描いている)のだが、物は使いよう。
いや、神と言うよりこの場合、戦争で散った人々や英霊達の視点、と言うべきなのかも知れない。

この映画のすずさんを、空の上から微笑んで観ている人々が、確かにいるのだ。