厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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zoom RSS メルカリで売られる議決権行使権限

<<   作成日時 : 2017/06/16 06:45  

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正確には議決権行使書が出品されているようです。メルカリというのはもちろんみなさんご存知でしょうけれど、民間の「フリーマーケット」サイト。最近では現金がプレミアム付きで販売され、クレジットカード与信枠のマネタイズの手法として結構話題になりました。

議決権行使書とは、株主総会における株主の議決権行使を、出席できない場合などについて書面で行えるようにしたものです。経団連ではこれのひな型を用意していて、(下記リンクの91ページ以下)これによると株主はそこに名前などと具体的な議案の賛否およびその他(別途の株主提案など)を書き入れて返送することになっています。(総会に出席の場合は一般的に受付で提出します)。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2007/010.pdf
議決権行使書の売買はなかなか興味ある論点ですが、一応、株主でない場合は委任されない限りは議決権を代理行使できないというまあ当然の原則があります。ただ、法律論的には契約は日本の場合諾成主義ですし、行使書の売り手(つまり真の株主)と買い手との間に暗黙の委任があったとみなせる可能性は残されております。
総会に出席して議決権を行使する場合は、法律は委任を受けた代理人として出席する場合には委任状が必要とされるので(会社法第310条第1項)やはりメルカリで取得した行使書をもって出席しようとするとおおっぴらには「代理人」にはなりにくいだろうと思います。とはいえ、あくまで総会に出席して議決権を行使する場合に委任状が必要とされるので、郵送などでの議決権行使書による書面行使だと、委任状がなくても(委任の意思が推認できれば)いいとも思えます。

ワタクシの経験した実務では、総会に出席時、受付で(株主本人の名前=組織名のある)行使書を手渡して、会場に入りました。特に本人確認はなかったと思います。さすがに組織が株主で組織の代表として出る場合は名刺ぐらい渡すのかなとは思いますが。つまり、書面行使と議場出席行使との境目は結構微妙ですが、会社側としてはおそらく書面でもらっておいた方が、一般に票のカウントの裏付けが取れやすいということではないか、と思います。

まあ、今はメルカリで取引される動機が、買い手がお土産やら総会後のイベントやらが目当てで買うというもので、あまり目くじらを立てるような話ではないのでしょうが、逆の視点で、企業側に対し経営介入したい主体が、お金を払って行使書面だけ集める、というやり方はありなのかどうなのか?というのも考えてみる必要がありそうです。個人株主の多くは、一般に興味がないということでお金をもらえるのであれば喜んで売る可能性もあり、議決権の書面行使を認める会社ではそのことが起こるリスクはあると思います。しかも、総会出席でなければ委任状が必要ないため、行使書をかき集めて一定のパワーを得ることは法律的にも(行使書を譲渡した段階で黙示的な委任があるとみて)可能なのかもしれないと思ったりします。このへん、定款などで縛りを設けることが出来るのかどうか、またその縛りを実効的にする手段があるのかどうかも良くわかりません。ましてや電磁的方法での(つまりインターネットを通じての)議決権行使を認めている場合は、行使書に付属するIDとパスワードが使用されている限りそれは株主本人の意思表示として認めざるを得ないのではないでしょうか?

むかし「闇株新聞」さんのブログに下記のような記事がありました。
http://yamikabu.blog136.fc2.com/blog-entry-1119.html
つまり、計画的にある程度の株式(たとえば提案権を持つ1%以上とか)を買い集めておき、それこそオークションサイトやフリマなどでこっそり裏で議決権行使書の高値買取を持ちかける。本来は株式を市場から買い集めて初めて可能になるさまざまな行為(経営への介入)が結果としてできてしまうことになる。まさにそこに書かれているような話ではないかと思います。

株主の権利とはなにか、みたいな本質的な話になってしまうのですが、教科書的には株主の権利は自益権、共益権に分かれ、自益権の代表が利益配当請求権、共益権の代表が議決権ということになろうかと思います。
議決権行使権限だけの譲渡はそもそも可能なのでしょうか?上記のように「実際問題」はできてしまうところがあると思います。
最高裁の判例では、共益権の所属は当人たちの合理的な意思によって帰属するとしており、あくまで傍論でありますが、合意で決められると考えているようにも読めます。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/044/050044_hanrei.pdf
この判例は譲渡担保を株券に設定した(つまり形式上株券を債権者に譲渡した)のち、債務者である本来の株主(非公開会社の支配株主)があくまで自分に共益権があると考えて勝手に株主総会でいろいろなことを決めて登記したことが「公正証書原本等不実記載」罪にあたるかどうかが争われたもので、民事の複雑な解釈が刑事で争われるというやや珍しいケースだと思いますが、最高裁は譲渡担保の趣旨は「経営権を担保にとっている」ということから、共益権は譲渡担保の設定によって債権者に移っており、債務者による行為が「不実記載」にあたると認定しました。

とはいえ、これはきちんとした株の譲渡契約があったものです。そうしたきちんとした譲渡契約(譲渡担保を含む)も株そのものを譲渡する意図もない場合、やはり問題は残ります。

もう一つの論点は米国などでよくある「議決権信託」との関係。
http://www.u-ap.com/report/archives/2008/09/30/vol36-1/
日本でも可能ですが、これも株券を「信託」しなければ代わりに人が行使することはないのであって、ただ単に行使書を譲渡しただけでは始まりません。

したがって株主の権利の一部である議決権だけを切り取って「譲渡」することは想定されていないといえます。

とはいえ、繰り返しになりますが、株主が記名(押印)した行使書をそのまま(議案への賛否を書かずに)譲渡した場合、あるいは同様にIDとパスワードを教えた場合は、議決権行使に対して有効に白紙委任が成立する可能性があると思います。つまり譲受側が有効に自分の意思を反映できる可能性があるということです。株主権の一部譲渡は無理でも、委任なら十分可能であろうと思いますので、闇株新聞さんがお書きになったように、一定の株式を所有している主体ならわずかのお金で上場企業を支配するという図が合法的に可能となる構図が(まあ実際はなかなか難しいかもしれませんが)考えられるとは思いました。まあ素人考えなので穴だらけかもしれませんが、専門家の方のご意見をお聞きしたいところです。

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