初めてパソコンが家に来た日
僕が初めてパソコンに触れたのは、小学5年生のことだ。
西暦2000年のその頃はちょうど一般向けパソコンの出荷台数が急激に増えた時代。
僕の通っていた小学校にも時代の波に乗ってパソコンがやってきた。
授業でたまにお絵かきソフトを使って絵を書いたり、ゲームをしたり、インターネットで検索したりしてからというもの、パソコンの虜になってしまい、とうとう今まで貯めてきたお年玉をはたいてパソコンを購入。
毎日のようにパソコンいじりに勤しみ、富士通の Windows 98 に入っていたソフトはほぼ全て使い倒した。
いつしか学校だけじゃなく、家でもインターネットをやりたいと思うようになった。
そんなとき、確かアットニフティで月5時間までで980円とかそんな時代に、奇跡的に自分の街にCATVというものがやってきて、月2500円くらいで家でもインターネット接続し放題になった。
そこから始まった。
インターネットは迷路のように入り組んでおり、毎日ヤフーという入り口からいろんなサイトをかき分けて進んだ。
当時好きだったアニメや漫画を考察しているファンサイトに入り浸ったし、裏情報サイトや2ちゃんねるという危ないところにも行った。
「ホームページ」というものも作った。
アクセスカウンターが1つ、2つと増えるのを見るたびに胸が躍った。
自分の建てた家に人がやってくる感覚にやみつきになっていた。
そこには現実の水面下で限られた人しか知らなかった世界が広がっていた。
西鉄バスジャック事件
話は代わり、遡ることパソコンを購入する数ヶ月前。
世間に衝撃が走る事件が起こっていた。
「西鉄バスジャック事件」
当時17歳の少年がバスをハイジャックし、乗客3人を切りつけ、1人が死亡するという衝撃の事件だ。
あとで知ったことだが、この犯罪を起こす前に犯人が2ちゃんねるに犯罪予告を書き残しており、2ちゃんねる、そしてインターネットが世間の今まで浸透していない層にまでに大きく認知されるきっかけとなった。
過去のログを見ると、2ちゃんねるでは「祭り」が起こり、連日賑わっていた。
そして、インターネットの掲示板による犯罪予告も広まった。
それから僕の町にも犯罪予告があり、午後から学校が休講になったこともある。
インターネットが広く世の中に影響し始めていることを初めて感じたのも、この2000年のことだった。
世間に認知されていく2ちゃんねる
みるみるうちにネット上の話題が世間に明るみに出るようになった。
当時流行っていた「エンタの神様」というお笑い番組で青木さやかが、「2ちゃんねるに書き込むぞ!」と発言して笑いを得ていたのは衝撃だった。
今までインターネットは一部の好きな人が影でやっていることであり、あまり良いイメージではなかったようにも思う。
それがとうとうお笑い芸人のネタとなり、そして2ちゃんねるの存在をわりと多くの人が知っていることにも衝撃を受けた。
そのうちライブドアブログのCMがテレビに出るようになり、当時はまだ世間に認知されていなかったホリエモンがテレビに出ていた。
あと、サイバーエージェントの藤田社長がITを取り上げるニュース番組か何かに登場して、まだこの頃は緊張してインタビューに慣れていないようすだったのが今でも目に焼き付いている。
あのインターネットがテレビに映るというだけで新鮮だった。
電車男もこの頃だ。
2ちゃんねるの書き込みが書籍になり、夢があった。ワクワクした。
移り変わるインターネット
一方で、新しく生まれるものもあれば消えるものもあった。
黎明期のインターネットを支えていた「侍魂」などのテキストサイト、若い女子向けの「ふみコミュニティ」で流行ったキラキラしたサイトは流行らなくなっていた。
それに合わせて「0574 Web Site Ranking」や「ReadMe!」の個人サイト向けのランキングサイトもなくなっていった。
ブログやレンタル日記で誰でも手軽にサイトが作れるようになり、一からタグを打ってサイトを作る人は消えていく。
インターネットが整理されてきた。
世間に近づいてきた。
いつしかグーグルの検索シェアがヤフーを超え、ヤフーのカテゴリ一覧のリンクはトップページからなくなった。
人の手でカテゴリ分けしていたウェブサイトたちは、コンピュータで自動的にランク付けされ、区画整理されるようになった。
万人向けじゃない情報は片隅に追いやられ、インターネットは世間の多くの人にウケるツールとなった。
できることはほとんどやって、インターネットが落ち着いてきた。
それでもデバイスの進化やインターネットの接続スピードが上がることで、オンラインゲーム対戦ができるようになったり、ネットで株の取引ができるようになったり、巨大な動画配信サイトが生まれたり、少しずつ進化はしたけれど、大きな感動はなくなった。
インターネットでなんでもできるようになった。
インターネットは使い倒され、新鮮なのはインターネットを使ってどんな新しいコンテンツが配信されるかというところだけ。
そういえば、ネットがまだ発展途上のころ、毎週のように新しい発見があった。
「インターネットでこんなこともできるんだ」
と、限られたリソースで試行錯誤していた時代、あのときはインターネット自体が面白かった。
毎日、楽しかった。
「インターネットが世界を変える」という一方通行だったのに、「世界がインターネットを変える」ようになってから、インターネットで遊んでいた人たちは消えて別のところに行ってしまった。
自分の幼少期は世間より、インターネットの方が変化が大きかったもんだから、こっちのほうがセピア色に輝いて見える。
青春のインターネットだった。
いまはユーチューブで動画を見たり、ブログを書いたり、仕事に使ったりする今日この頃、あのときの圧倒的なワクワク感をもう一度体験したいとふとそんな気持ちになって書き殴ってみました。