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日本原子力研究開発機構(JAEA)大洗研究開発センターで6月6日に起きたプルトニウム飛散事故に際しての肺モニターによる放射性物質の吸入量の発表について,どうしても解せないことがあるのでメモ書きしておく。
JAEAによるプレスリリースや報道発表にあるように,体内に取り込まれたプルトニウムの測定は大変困難である。一部の報道に,「プルトニウムからのLX線を測定する」との記述を見かけたが,正確には,239Puの場合,α崩壊直後に反跳エネルギーを受け取って励起された娘核種235Uからの
ところで,先の投稿では保管されていたプルトニウムの同位体組成を加圧水型原子炉
したがって,発電用原子炉
以下,追記(6月15日)
JAEAからはその後2件の発表があった。
続報4によって,PuとUの元素比が26.9%:73.1%であることが公表されたが,相変わらず核種の構成比(同位体比)は非公表となっている。おしどりマコさんのツイキャスをご覧になったみーゆさんのtweet によると以下の発言があったらしいが,確かに意味不明である。
肺モニターにおいてα崩壊した直後の娘核種ウランからのLX線を測定する際,ウランの混合比が大きいと291Pu からの 20.78 KeV のβ線によって既存のウランの電子軌道のLII殻とLIII殻が励起される。また,プルトニウムとアメリシウムのLIII殻も励起され,LX線が放射される。さらに,241Amからの59.54 keV(放射率:35.9%)のγ線によってもこれら三元素のL殻が励起され,LX線が放射される。従って,LX線を測定することによってプルトニウムを正確に定量しようとするなら,ウラン・プルトニウムの混合比とプルトニウムの同位体比が予めわかっていなければならない。しかし,もしこれらの比が予め分かっているとしたら,吸収による減衰の少ない59.54 keVのγ線でAmを定量し,その値から他の元素・同位体比を見積もるというのが現状で最も正確な測定法であろう。JAEAはそのことを分かっている筈なのに,なぜ,239Puだけを問題にするのか。
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注1)ウランの主なL線は,Lα1:13.6147 keV,Lα2: 13.4388 keV,Lβ1: 17.2200 keV,Lβ2: 16.4283 keV,Lγ1: 20.1671 keVであり,ウランの同位体はどれもこの精度で同じエネルギーになる。体内からの放射では吸収のためにLα1ではなくLβ1が一番強く,これ以外は強度が極端に弱い。
注2)ここに高分解能での新しい測定法についての解説があるが,その補足説明に「本研究では、開発したTES型マイクロカロリーメーターを使ってPu(238Pu、239Pu)及び241Amの線源から放射されるLX線の測定実験を実施しました。測定実験の結果、半値幅約50 eVのエネルギー分解能でスペクトルを測定し、それぞれのLX線を分離測定することができました」とある。これは238Puと239PuからのLX線さえも分離できたと誤解されかねない記述であるが,よく読めばわかるように,区別できたのはPuとAmである。付図のスペクトルチャートにウランの上記 L線のピークが明瞭に現れている。
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