全体表示

[ リスト ]

 日本原子力研究開発機構(JAEA)大洗研究開発センターで6月6日に起きたプルトニウム飛散事故に際しての肺モニターによる放射性物質の吸入量の発表について,どうしても解せないことがあるのでメモ書きしておく。

 JAEAによるプレスリリースや報道発表にあるように,体内に取り込まれたプルトニウムの測定は大変困難である。一部の報道に,「プルトニウムからのLX線を測定する」との記述を見かけたが,正確には,239Puの場合,α崩壊直後に反跳エネルギーを受け取って励起された娘核種235Uからの17.22 13.61〜20.17 keVのLβ線群を測定する(このページの(5)参照)(注1)。これは原子核内部から放射されるガンマ線と異なって,軌道電子遷移による元素固有のエネルギーを持つ特性X線である。つまり,ウランの同位体はどの核種も同じエネルギーのX線を放射する。このことは,検出されたX線が必ずしも235Uのものとは断定できないことを意味する。例えば,238Puの娘核種である234Uや240Puの娘核種である236Uと区別できない(注2)

 ところで,先の投稿では保管されていたプルトニウムの同位体組成を加圧水型原子炉に用いられるの使用済み燃料から分離されたものを仮定して計算した。付表には放射能(Bq)の現在値も示したが,239Puが2.55E+11 Bqであるのに対して半減期の短い238Puは1.82E+12 Bqと一桁も多く,240Puは2.81E+11 Bqとほぼ同程度になる。沸騰水型原子炉の使用済み燃料から分離されたプルトニウムの場合はさらに顕著で,これら三種の核種の中で239Puの放射能は相対的には顕著に小さな値となる。高速増殖炉に用いられるの使用済み燃料から分離されたプルトニウムの同位体組成はこれらと異なって,238Pu: 0.03%,239Pu: 74%,240Pu: 23%,241Pu: 3%,242Pu: 0.5%であるらしい。この場合は238Puはかなり少なくなるが,240Puの方は239Puよりも明らかに多くなる。

 したがって,発電用原子炉で用いられるの使用済み燃料から分離されたプルトニウムに近い組成か,あるいはこれらよりも239Puの濃縮率の低い廃棄物のようなものであれば,肺モニターでの検査で17 keVのX線が検出されたとき,239Puが検出されたと発表するのは明らかにおかしいのである。唯一,このような発表が納得されるのは,239Puを90%以上濃縮した核兵器級プルトニウムを前提とする場合に限られる。何度もくりかえすが,JAEAは内容物の組成とその来歴を直ちに公表すべきである。

以下,追記(6月15日)

 JAEAからはその後2件の発表があった。


 続報4によって,PuとUの元素比が26.9%:73.1%であることが公表されたが,相変わらず核種の構成比(同位体比)は非公表となっている。おしどりマコさんのツイキャスをご覧になったみーゆさんのtweet によると以下の発言があったらしいが,確かに意味不明である。

今後の原因究明で核物質の総量を明確にすることになると、比率等で核物質防護上公開できない値が算出できてしまうことになる。従って、核不拡散上からも現状は公開を差し控えたい。原因究明等で明らかにできるかどうか判断できるようになった際に説明できる範囲で説明する。

 肺モニターにおいてα崩壊した直後の娘核種ウランからのLX線を測定する際,ウランの混合比が大きいと291Pu からの 20.78 KeV のβ線によって既存のウランの電子軌道のLII殻とLIII殻が励起される。また,プルトニウムとアメリシウムのLIII殻も励起され,LX線が放射される。さらに,241Amからの59.54 keV(放射率:35.9%)のγ線によってもこれら三元素のL殻が励起され,LX線が放射される。従って,LX線を測定することによってプルトニウムを正確に定量しようとするなら,ウラン・プルトニウムの混合比とプルトニウムの同位体比が予めわかっていなければならない。しかし,もしこれらの比が予め分かっているとしたら,吸収による減衰の少ない59.54 keVのγ線でAmを定量し,その値から他の元素・同位体比を見積もるというのが現状で最も正確な測定法であろう。JAEAはそのことを分かっている筈なのに,なぜ,239Puだけを問題にするのか。


(抜粋)さらに、今回、26年間開封しなかった容器の中にプルトニウムが収められていたことも問題である。日本は、「利用目的のないプルトニウムは持たない」との国際約束を掲げてきたからだ。26年間開封せずに放置されてきたプルトニウムの利用目的は一体何だったのか。利用目的のないプルトニウムを持たないことを判断する行政機関であるところの原子力委員会には、このプルトニウムは一体何なのかの確認を求めたい。

---------------------------------------------
注1)ウランの主なL線は,Lα1:13.6147 keV,Lα2: 13.4388 keV,Lβ1: 17.2200 keV,Lβ2: 16.4283 keV,Lγ1: 20.1671 keVであり,ウランの同位体はどれもこの精度で同じエネルギーになる。体内からの放射では吸収のためにLα1ではなくLβ1が一番強く,これ以外は強度が極端に弱い。

注2)ここに高分解能での新しい測定法についての解説があるが,その補足説明に「本研究では、開発したTES型マイクロカロリーメーターを使ってPu(238Pu、239Pu)及び241Amの線源から放射されるLX線の測定実験を実施しました。測定実験の結果、半値幅約50 eVのエネルギー分解能でスペクトルを測定し、それぞれのLX線を分離測定することができました」とある。これは238Puと239PuからのLX線さえも分離できたと誤解されかねない記述であるが,よく読めばわかるように,区別できたのはPuとAmである。付図のスペクトルチャートにウランの上記 L線のピークが明瞭に現れている。

この記事に

閉じる コメント(0)

コメント投稿

顔アイコン

顔アイコン・表示画像の選択

名前パスワードブログ
絵文字
×
  • オリジナル
  • SoftBank1
  • SoftBank2
  • SoftBank3
  • SoftBank4
  • docomo1
  • docomo2
  • au1
  • au2
  • au3
  • au4
投稿

.
さつき
さつき
非公開 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30

過去の記事一覧

 今日全体
訪問者18184599
ブログリンク013
コメント0809
トラックバック043


みんなの更新記事