筋肉のもとである筋タンパク質は、トレーニングとタンパク質の摂取によって、その合成作用を増加させ、筋肉を肥大させます。
筋タンパク質の合成作用 = トレーニング × タンパク質の摂取
トレーニングの成果を最大にするためには、摂取するタンパク質の摂取量やタイミング、パターンなどとともに「品質(Quality)」を考慮しなければなりません。
タンパク質の摂取 = 摂取量 × タイミング × パターン × 品質(Quality)
これまでにスポーツ栄養学やスポーツ運動生理学の多くの研究において、動物性や植物性のタンパク質がトレーニング後の筋タンパク質の合成作用を増加させることが報告されています。
これらの研究のもと、現在ではサプリメントとして数多くのプロテインが販売されています。その多くが乳タンパク質のホエイやカゼイン、大豆(ソイ)タンパク質です。
そこで話題になるのは、どのタンパク質が筋タンパク質の合成作用をもっとも高めるのか?という問いです。
この問いに対して、テキサス医科大学のReidyらは、タンパク質の品質について検証したシステマティックレビューを2016年に報告しました。54もの論文をもとに検証した結果、見えてきた答えが「ふたつ」があったのです(Reidy PT, 2016)。
今回は、Reidyらのシステマティックレビューを参考に、タンパク質の品質(Quality)について考察していきましょう。
Table of contants
◆ 筋タンパク質の合成作用を高める高品質なタンパク質とは?
タンパク質の品質は、アミノ酸組成と消化速度によって決まります。
タンパク質の品質 = アミノ酸組成 × 消化速度
アミノ酸組成とは、アミノ酸の成分構成を示したものであり、筋タンパク質の合成には、必須アミノ酸の中でも分岐鎖アミノ酸(BCAA)が重要とされています。乳タンパク質のホエイやカゼイン、大豆(ソイ)タンパク質は、すべてBCAAを含んでいますが、それぞれの消化速度が異なります。
ホエイは、消化速度が急速であり、摂取直後から血中のアミノ酸濃度を上昇させます。この効果は一時的であり、3時間前後で通常のレベルに戻ります。そのため「ファスト」タンパク質と言われています。
これに対して、同じ乳タンパク質のカゼインは「スロー」タンパク質と言わるほど、吸収速度が遅く長い特徴をもっています。血中のアミノ酸濃度が通常レベルに戻るまでに6時間ほどかかるとされています(Boirie Y, 1997)。
ソイは、ホエイとカゼインの「中間」の消化速度を有しています。またホエイやカゼインとは異なり、特有な抗酸化・抗炎症化作用などをもっています(Bos C, 2003)。
では、ホエイ、カゼイン、ソイによる筋タンパク質の合成作用への影響はどうなのでしょうか?
2005年ごろからアミノ酸安定同位体による筋タンパク質の合成作用の計測が可能となり、筋タンパク質の合成作用の研究成果が報告されるようになりました。
2007年、マクマスター大学のWilkinsonらは、ホエイとカゼインをブレンドした乳タンパク質とソイによる筋タンパク質の合成作用を比較した研究を報告しています。
Wilkinsonらは、トレーニング歴のある被検者をホエイとカゼインのブレンドを摂取するグループとソイを摂取するグループの2つに分けました。レジスタンストレーニング後、それぞれのタンパク質を摂取し、3時間後の筋タンパク質の合成率を計測しました。その結果、ホエイとカゼインのブレンドはソイに比べて有意に筋タンパク質の合成率を高めることがわかりました(Wilkinson SB, 2007)。
FIg.1:Wilkinson SB, 2007より引用改編
2009年には、Tangらによりホエイ、カゼイン、ソイのそれぞれのタンパク質摂取による筋タンパク質の合成作用が検証されています。
トレーニング歴のある被験者を異なるタンパク質(ホエイ、カゼイン、ソイ)を摂取する3つのグループに分けました。トレーニング直後にそれぞれのタンパク質を摂取し、3時間後の筋タンパク質の合成率を計測しました。その結果、筋タンパク質の合成作用はホエイがもっとも高く、次いでソイ、カゼインの順となったのです(Tang JE, 2009)。
Fig.2:Tang JE, 2009より引用改編
これらの結果から、現在ではホエイがアミノ酸組成が豊富で、吸収速度が速く、筋タンパク質の合成作用が高い高品質なタンパク質とされているのです。プロテイン・サプリメントでもホエイが人気なのは、これらの研究結果が根拠になっているのです。
Fig.3:Phillips SM, 2013より筆者作成
しかし、これに疑義を表明したのがテキサス医科大学のReidyらです。
Reidyらは、過去20年の間に報告された大部分の研究が「3時間以内」の短期効果しか見ていないことを指摘したのです。
◆ 短期ではなく長期効果を見ることで本質が見えてくる
「3時間以内」の短期効果しか見ていないという偏った検証方法に警鐘を鳴らしたReidyらは「4〜6時間の長期効果で見てみると結果は異なってくる」と述べています。
この検証を行ったのがコペンハーゲン大学のReitelsederらです。2011年、Reitelsederらはホエイとカゼインによる筋タンパク質の合成作用の長期効果を調査しました。
被験者はトレーニング後にホエイを摂取するグループ、カゼインを摂取するグループ、水を摂取するグループ(コントロール)に分けられました。タンパク質を摂取し、3時間後、6時間後の筋タンパク質の合成率を測定してみると意外な結果が示されました。
1-3時間の短期効果では、過去の報告と同様にホエイがカゼインよりも筋タンパク質の合成作用が高いという結果が得られました。しかし、4-6時間の長期効果では、なんとカゼインがホエイの筋タンパク質の合成作用を超え、1-6時間の合計においてもカゼインがホエイの合成作用を上回ったのです(Reitelseder S, 2011)。
Fig.4:Reitelseder S, 2011より引用改編
また、ソイ単独の長期効果を示した報告は今のところありませんが、ソイに少量の乳タンパク質をブレンドし、ホエイと比較した長期効果(4時間)の検証結果では、ソイブレンドがホエイよりも筋タンパク質の合成作用を高めることが示唆されています(Reidy PT, 2013)。
Fig.5:Reidy PT, 2013より引用改編
これらの結果もとにReidyらは、タンパク質の摂取による短期効果と長期効果では結果が異なることを示唆してるのです。
トレーニングによる筋タンパク質の合成作用の増加は24時間つづきます。この24時間で如何に筋タンパク質の「合成量」を高めるのかが、トレーニングの効果を最大化させる条件になります。つまり、筋タンパク質の合成量の合計を高めるためには、最大値(ピーク)を求めるのではなく、時間でみる積分値(インパルス)が重要になるのです。
タンパク質の摂取から3時間という短期効果では、消化速度がファストなホエイが筋タンパク質の合成作用を増加させますが、これはピークが高いことに起因しています。6時間という長期効果ではスローなタンパク質であるカゼインがホエイを超える合成量を示します。これは時間的なインパルスにおいてカゼインがホエイを上回るためです。
これらの結果を参考にすると、タンパク質の摂取パターンによってタンパク質の品質を選ぶことができます。筋タンパク質の合成にベストと言われる3時間おきの摂取パターンでは、ホエイが最適になります。5-6時間といった毎食ごとの摂取パターンでは、カゼインが最適になるでしょう。
『筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう』
どのタンパク質が筋タンパク質の合成作用をもっとも高めるのか?
この問に対して、Reidyらは、このような背景から「タンパク質の種類は関係ない」と答えています。そして大事なことは「もうひとつ」の答えにあると。
次回は、Reidyらの「もうひとつ」の答えとともに、これらの知見を参考にしたプロテイン・サプリメントの選び方について考えていきましょう。
◆ 読んでおきたい記事
シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう
シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう
シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう
シリーズ④:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう
シリーズ⑤:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取を知っておこう
シリーズ⑥:筋トレの効果を最大にする就寝前のプロテイン摂取の方法論
シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう
シリーズ⑧:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)の実践論
シリーズ⑨:筋トレの効果を最大にするセット数について知っておこう
シリーズ⑩:筋トレの効果を最大にするセット間の休憩時間について知っておこう
シリーズ⑪:筋トレの効果を最大にするトレーニングの頻度について知っておこう
シリーズ⑫:筋トレの効果を最大にするタンパク質の品質について知っておこう
References
Reidy PT, et al. Role of Ingested Amino Acids and Protein in the Promotion of Resistance Exercise-Induced Muscle Protein Anabolism. J Nutr. 2016 Feb;146(2):155-83.
Wilkinson SB, et al. Consumption of fluid skim milk promotes greater muscle protein accretion after resistance exercise than does consumption of an isonitrogenous and isoenergetic soy-protein beverage. Am J Clin Nutr. 2007 Apr;85(4):1031-40.
Tang JE, et al. Ingestion of whey hydrolysate, casein, or soy protein isolate: effects on mixed muscle protein synthesis at rest and following resistance exercise in young men. J Appl Physiol (1985). 2009 Sep;107(3):987-92.
Phillips SM. A brief review of critical processes in exercise-induced muscular hypertrophy. Sports Med. 2014 May;44 Suppl 1:S71-7.
Boirie Y, et al. Slow and fast dietary proteins differently modulate postprandial protein accretion.Proc Natl Acad Sci U S A. 1997 Dec 23;94(26):14930-5.
Bos C, et al. Postprandial kinetics of dietary amino acids are the main determinant of their metabolism after soy or milk protein ingestion in humans. J Nutr. 2003 May;133(5):1308-15.
Reitelseder S, et al. Whey and casein labeled with L-[1-13C]leucine and muscle protein synthesis: effect of resistance exercise and protein ingestion. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2011 Jan;300(1):E231-42.
Reidy PT, et al. Protein blend ingestion following resistance exercise promotes human muscle protein synthesis. J Nutr. 2013 Apr;143(4):410-6.