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 沖縄戦での実話を元にした映画に触発され、舞台となった沖縄県浦添(うらそえ)市の浦添城跡周辺を、在沖米軍人らが続々と訪れている。その盛況ぶりを見て、地元は今月下旬の日本公開を前に、市民にも関心を持ってもらおうと取り組みを始めている。

 映画はメル・ギブソン監督の作品「ハクソー・リッジ」。反戦を訴える内容で、今年のアカデミー賞で編集賞と録音賞の2部門を受賞した。ハクソーは弓のこぎり、リッジは崖の意味で、岩が切り立った浦添城跡の丘を米軍は「ハクソー・リッジ」、日本軍は「前田高地」と呼んだ。

 舞台は1945年の沖縄。日本軍の司令部のあった首里(現・那覇市)に向けて、途中にある前田高地を米軍は北側から攻め、激戦となった。主人公は米軍の衛生兵の青年で、宗教上の理由で銃を持たずに戦闘に参加し、敵味方なく75人の命を救ったという。

 米国では昨秋から上映が始まり、沖縄の米軍基地内の映画館でも見ることができる。浦添市国際交流課などによると、公開以降、映画を見た在沖米軍の軍人、家族らが「主人公が活躍した場所が見たい」と、大型バスなどに乗って訪ねてくるようになった。現在は浦添大公園になり、沖縄戦の戦没者をまつる慰霊碑や、住民の避難壕(ごう)になった洞窟がある。アカデミー賞を受賞した2月以降は、訪れる人が一段と増え、多い日には1日数百人に上る。

 日本での公開は、沖縄戦の「慰霊の日」翌日の24日から。映画は米兵からの視点で描かれるが、浦添市は住民から見た沖縄戦の証言映像などを集めた「『ハクソー・リッジ』の向こう側」と題するホームページを作り、市報でも特集を組んだ。19日にある映画の先行上映会でも、戦争体験者や平和ガイドらが登壇して当時のことを話す予定だ。

 浦添村(当時)は激戦地の一つで、市によると住民の44・6%が死亡。一家全滅率は22・6%に上った。市国際交流課の上江洲芳樹係長(37)は「映画では描かれない住民から見た沖縄戦にも関心をもって欲しい」と話す。

 現地の平和ガイド「うらおそい歴史ガイド友の会」の玉那覇清美事務局長(62)は「戦後72年になるが、沖縄戦がこの地であったことを忘れずに、浦添から平和を考えるきっかけになれば」と話している。(山下龍一)