スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます
作者:
月夜 涙(るい)
第二章:【錬金】のエンライト、ニコラ・エンライトは織りなす
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第十八話:スライムは大きくなる
デニスとオルフェが工房のほうに消えていった。
そこで詳細に煮詰めていく。
もしものときに備えてシマヅもついていく。
俺もいくべきだが、隙をついてぴゅいっと抜け出す。
そして、体を潰して物置の下に隠れる。
「スラちゃん、どこいったの」
オルフェが探している。
その間に……
中身を空気で膨らませた中身がからっぽの張りぼて偽スラちゃんを【分裂】して残し、偽スラちゃんをオルフェのほうに向かわせる。
「あっ、いた。スラちゃん、勝手にどこかにいっちゃだめだよ」
「ぴゅいぴゅー」
よし、偽スラちゃんに気付いてない。
これで俺は自由に行動できる。
シマヅは当然のように気付いているが、あえて見逃してくれた。
俺には俺でやるべきことがあるのだ。オルフェは偽スラちゃんに任せて、オルフェたちが部屋を出たのを見てから動き出す。
「ぴゅい」
ヴィリアーズの屋敷を抜けて森のほうに向かう。
俺は今から魔物を食べて栄養をたっぷりつけたい。
分裂体を作る必要があるのだ。
……それはニコラの竜殺しの兵器、強化外骨格に必要だから。
あれの難点は、使用者が耐えられないことだ。
音速を超えた代償に、使用者にすさまじいGがかかる。
ニコラはGを打ち消す機構を考えているようだが、それは非常に難しい。どうしようと機構は複雑化し重量が増す上、ただでさえ使用者には高度な演算を要求するのに、さらに悲惨なことになる。
重量を上げると、劣悪な燃費の悪さに拍車がかかり、さらには小回りが利かなくなるというデメリットもある。
ここは逆転の発想をするべきなのだ。
Gを打ち消すのではなく、中の人間がGに耐えられるようにする。
そのためには、この身が必要だ。
「ぴゅいっぴゅー(まあ、シマヅなら無茶もできるか)」
シマヅなら短時間なら素で耐えられるかもしれない。
【身体能力強化】。
それは、単純そうに見えて極めて高度な魔術だ。
ただ、筋力を強化すればいいわけではない。
たとえば、数十メートルの高さまで跳ぶとしよう。それだけの力で地面を蹴れば、体にそれ相応のダメージを受けるし着地時にも同じダメージを受ける。
たとえば、時速数百キロで失踪し、ブレイキをかけたとしよう。そうすれば全運動エネルギーが肉体に襲い掛かる。
筋力だけでなく、耐えれるように肉体を強化しないといけない。
だが、常に全身筋力と耐久力の強化をすれば、一瞬で魔力なんて尽きてしまう。
【身体能力強化】を使いこなすなら、使用する筋力とダメージを受ける箇所のみを強化し続けないといけない。
筋肉も衝撃も連動する。それらの見極め、刹那の切り替えを継続的に全力の戦闘の中で行う。それも耐久力の強化の幅も、魔力を有効活用するために最小限に絞って。
ある意味、【身体能力強化】というのはもっとも難易度が高い魔術なのだ。
ほとんどのものは、漠然と全身の筋力と耐久力を上げる。たとえ大した強化ができなくても、それしかできないから。
シマヅの恐ろしさはそこにある。常に全力で戦闘行動をしながら、最高率で【身体能力強化】をし続ける。そんな真似をできるものは数人といない。
そんなシマヅなら、あれを使える可能性はある。
「ぴゅいぴゅー(とはいっても、使うだけでしんどいのは兵器失格)」
相手は、【嫉妬】の邪神レヴァイアタン。
さまざまな武器を隠し持っている。操縦に気を取られて勝てる相手ではない。
だから、俺を使うのだ。
「ぴゅいぴゅー」
体を変形させる。
さらに、硬さや質感を変更。
だいぶ自由自在に動かせるようになってきた。毎日の地道な特訓のおかげだ。スライム体操や触手にゅるにゅるは案外馬鹿にできない。
硬さと質感を変えた体を【分裂】させる。
分裂体が、目の前の大きな岩を包み込んだ。
「ぴゅむぴゅむ」
思った通りだ。
【硬化】した状態で俺は岩に体当たりした。
岩が纏った分裂体に、衝撃が優しく受け止められる。
「ぴゅいっぴゅー(この身は最上の衝撃緩和剤になりえる)」
そう、シマヅが俺を着ることにより、スライムボディが衝撃緩和剤となり、大部分のGを緩和できる。
俺の【分裂体】ならその場、その場リアルタイムで適度な硬さに可変できるという強みもある。
そして……。
「ぴゅいぴゅい(俺自身が乗り込むのもありだ)」
強化外骨格の中に俺自身を流し込み、身体能力を強化して操作するのだ。
スライムボディならGなど屁でもない。百パーセント、ニコラの強化外骨格の力を発揮できる。
そのためにもたっぷりと大きくならないといけない。
今の体では小さすぎる。
強化外骨格を満足に動かすためには、隙間なく中身を埋める必要があるし、シマヅにまとわせる分裂体も考えるとさらに大きくならないと。
スライム細胞を増やて大きくなる方法はただ一つ。
たっぷりと食べることだ。
そのために、魔物がいる森の中に来た。【気配感知】で魔物を探す。
オルフェのごはんも美味しいが、今は量がほしい。魔物をまるごとぼりぼり行きたい
見つけた!
「ぴゅふふー」
おいしそうな魔物だ。
見つけたのは熊の魔物、大物だ。メタルコートベア。
その名のとおり、鋼のような体毛を纏う怪力自慢。
その気になれば腕の一振りで大木をなぎ倒す。
何より、その防御力が厄介だ。
さて、アレをどう突破するかだ。あいつの体毛にはスラビームは通用しない、スラミサイルも通るか怪しい。
からめ手、例えば口の中に入り込んで窒息死を狙うのもありだが、試してみたい技がある。
体を変形させる。
巨大な筒型になる。
「ぴゅっぴゅい、ぴゅー(大砲モード)」
変形の自由度が上がったので一度やってみたかったのだ。
大砲に体を変形させ、大砲内に【分裂体】をセット。
分裂体は流線形にし、さらに貫通力と直進性を上げるために、ライフリングの溝を彫る。
もちろん、硬度を最高にするためにオリハルコンコーティングを忘れない。
スラミサイルは、己の筋力で飛ばしたが、俺は【風刃】というスキルを得たことで、魔術回路と【風】属性の魔術を手に入れた。
筋力だけで飛ばすのではなく、密閉された大砲の中に風の塊を凝縮する。
熊の魔物は暢気にマーキングを続けている。
俺は気配を消しながら、照準する。
狙い撃つぜ!
「ぴゅいぴゅっぴゅー!(スラ大砲)」
筒の中で限界まで凝縮された風の塊がはじける。
すると、流線形の砲弾が高速回転しながら吐き出される。
音速を超えた特大の弾丸はソニックブームで周囲の木々をずたずたに切り裂く。
弾丸は回転しながら直進し、鋼の硬度を持つメタルコートベアに大穴を開けて突き抜けて行った。
「ぴゅいぴゅ(これは使えるな)」
密閉空間を用意する必要があるため、スラミサイルより手数は劣るが威力はずっと上だ。
この破壊力は侮れない。
鋼すら打ち抜く、スラ大砲。今後の切り札にしよう。
遥か彼方に跳んでいった分裂体は、変身をといてけなげにぴょんぴょん跳ねてこちらに戻ってきている。
弾丸を消費しないのも素敵だ。
それに、スラ大砲にはさらに先がある。
案外、身近なものに爆弾の材料はあったりする。極論を言えば、生き物の死体だけで爆弾を作れるのだ。今までたっぷり魔物を食ってきた腹の中には体力の爆薬の成分が溜まっていた。爆弾を体内で製造可能。
風と爆薬を併用することで、スラ大砲はまだ威力が増す。
「ぴゅふふー」
楽しみになってきた。
それより、ひとまずは。
ごちそうの時間だ。
スライム跳びで大穴をあけたメタルコートベアのところにいき、もぐもぐ。
うーん、獣臭いけどなかなか美味しい。
特に腕の部分がたまらない。肉球から仄かにハチミツの味が。これは癖になる。
ぴゅいぴゅいもぐもぐ。
なにより、なんてボリュームだ。
大型の熊さんなので数百キロある。
夢中になって食事をしていると、砲弾にした分裂体が戻ってきた。
俺の体に飛び込んできて合体! 体のサイズがもとに戻る。
それから五分間。メタルコートベアーを平らげる。
「ぴゅふー(お腹いっぱい)」
おっ、スキルを得た。
【剛力Ⅱ】。
もとから持っていた【剛力Ⅰ】が強化された。それだけでなく筋力のステータスがあがったようだ。
今は少しでも力がほしいので助かる。外骨格に乗り込んで操作する以上、筋力がいるのだ。
さらに、メタルコートベアーが硬い体毛を掴むメカニズムを理解した。これは勉強になる。
さすがに熊一匹は重いが、おかげで微妙に体が大きくなった。
あと二匹ぐらい魔物を食べたら、ヴィリアーズの屋敷に戻ろう。
空気で膨らませた、はりぼてな偽スラちゃんのことがオルフェにばれかねない。
勝手に抜け出したとばれたら、夕食を抜かれかねない。
オルフェの作ってくれる食事は、スライム生の最大の楽しみ。そんな悲しいことを許すわけにはいかない。
さて、頑張って狩りを続けて急いで戻るとしよう!
◇
そから、三時間ほどで三匹ほど魔物を狩った。
新顔の魔物はおらずに、新たなスキルを得られなかったが、栄養をたっぷり得て、かなり体が大きくなった。
大きくなった体を見て怪しまれかねないので、もとのスラちゃんの大きさに戻るために【分裂】。分裂体には先に屋敷に戻って隠れるように命令する。
そしらぬ顔でヴィリアーズの屋敷に戻り、張りぼてスラちゃんを吸収し、オルフェの胸に飛び込む。
オルフェはしばらくの入れ替わりに気付いていないようだ。
「あれ、スラちゃんちょっと太った?」
「ぴゅふぃ!?(知らないよ!?)」
「そっか、気のせいだね。ちょっと重い気がしたんだ」
ふう、危ない危ない。
オルフェはデニスと作業分担をすることに決めたようだ。
オルフェは、自分に分担された作業を屋敷で行うらしい。
なので、みんなで屋敷に戻る。
シマヅがオルフェに問いかける。
「オルフェの見立てではどうにかなりそう?」
「ぎりぎりってところだね。今から全力で協力して、成功率は六割ってところ。だから、残された時間で邪神を消滅寸前まで弱らせる術式も一緒に試すつもり」
だいたい、俺の見立てと一緒だ。
オルフェが協力しても、七割には届かない。
それでも大きな進歩。
「……邪神を消滅寸前まで弱らせることができるのは驚きの」
「うん、邪神同士にも相性があってね。【嫉妬】の邪神レヴィアタンは私の中にいる【傲慢】の邪神サタンの力にひどく弱いから、邪神が宿った私の血とか魔力でいい感じになりそうだね」
それは意外だ。
俺ですら気づかなかったことだ。
少しだけ希望が見えた。これでたとえ失敗してもなんとかできそうだ。
「なら、私はオルフェの邪魔をさせないようにがんばるわ」
「そうして、シマヅねえさんが居ないと怖くて出歩けないよ。相手は公爵だもん、手段を選ばないならなんだってできるしね」
デニスのことを信じたいが備えは必要だろう。
オルフェは暗殺者に狙われたら一たまりもない。
そうして、三人で家路に向かう。
その途中で、オルフェは夕食の買い物を済ませた。
◇
夕食を終えると、すぐにニコラは工房に戻っていった。
顔をみるとわかる。
研究はうまくいってないようだ。
俺はその後ろをついて行く。
「スラちゃん、ニコラの邪魔をしちゃだめだよ!」
「ぴゅいっ!」
わかってると返事をした。
邪魔じゃない。応援だ。
あの子は自分で自分を追い詰めるの得意だ。
きっと、今頃かなり荒れている。
さあ、今から救いの手を差し伸べよう。
この身はスライム、言葉では伝えられないから実演する必要がある。どうすれば俺の意図が伝わるか……よし、いいことを思いついた。
待っていてくれ。ニコラ。
お前の悩みはすぐに解決する。
俺はぴゅいっと全力でスライム飛びした。
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種族:スライム・カタストロフ
レベル:25
邪神位階:卵
名前:マリン・エンライト
スキル:吸収 収納 気配感知 使い魔 飛翔Ⅰ 角突撃 言語Ⅱ 千本針 嗅覚強化 腕力強化 邪神のオーラ 硬化 消化強化Ⅱ 暴食 分裂 ??? 風刃 風の加護 剛力→剛力Ⅱ 精密操作
所持品:強酸ポーション 各種薬草成分 進化の輝石 大賢者の遺産 各種下級魔物素材 各種中級魔物素材 邪教神官の遺品 ベルゼブブ素材 人形遣いの遺産 海水
ステータス:
筋力B→B+ 耐久B 敏捷B+ 魔力C+ 幸運C 特殊EX
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