パッチ(Patch)といえば、デジタルメディアでローカルニュースを扱うという厄介な問題を解決しようとする危険についての教訓を示す存在だった。
だが、かつてAOLが苦しんだハイパーローカルニュースの実験は、2014年の売却を経て再び勢いを取り戻した。黒字化を果たしたパッチは、地方紙などほかのローカルニュースサイトの生き残りを手助けしようとしている。
パッチが歩んできた道
最初に、パッチのこれまでの歩みを振り返ってみよう。最盛期の2014年、パッチは540人の従業員を抱え、23州の900のローカルニュースサイトで地元の事件、火災、政治、三面記事、イベント情報を扱っていたが、数百万ドル(数億円)の赤字を出していた。現在は、(AOLはまだ株式のかなりの部分を保有しているが)投資会社ヘール・グローバル(Hale Global)の投資を受けて、パッチは従業員を130人(うち30人はフリーランス)にまで減らしながら、1030のローカルニュースサイトを運営している。
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だが、それ以上に重要なのは、パッチが収益モデルを理解したという点だ。パッチは、少なくとも4000ドル(約45万円)以上の支出を要求して利益をもたらさない広告主を排除し、地元のイベントやその他の告知をするためにお金を払うことを厭わない小規模な広告主や一般市民向けのセルフサービス型プラットフォームを作った。ニューヨークに本拠を置くパッチは、2016年通期で黒字を計上し、2017年第1四半期も毎月利益を出している。パッチは、GoogleやFacebookにとっての脅威にはならないが、ローカルニュースに関しては、まれに見るサクセスストーリーと呼べる地位に近づきつつある。
ベンチャーの支援を受け、収益より規模を第一に追い求める多くのパブリッシャーとは異なり、パッチは保守的なアプローチを取ってきた。2016年に米テキサス州オースティンで最初のローカルページを開設したあと、ヒューストン、オレゴン州ポートランド、マイアミ、ノースカロライナ州シャーロット、フェニックスなどでもページを開いた(さらに休止中だったニューヨークのページも復活させた)。かつてAOLに所有されていた当時、パッチは(中央集権的に)ローカルエディションとして市場を広げていた。これで知名度は上がったが、経営的には持続性に欠けていた。
採用モデルの見直し
ヘール・グローバルの会長であるチャールズ・ヘール氏によると、新しいローカルページを開設するにあたり、パッチは「採用モデルを逆」にし、ひとつの市場につき編集者ひとりからスタートして足がかりを作り、オーディエンスが増えるにしたがいスタッフを追加することにしたという。
ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)の元記者でパッチの最高経営責任者(CEO)を務めるウォーレン・セント・ジョン氏は、「実現できないことを約束するのではなく、毎日、より良くなって行きたいと思っている」と述べている。
社内で「発芽作戦(Operation Sprout)」と呼ばれている次の段階で、パッチは、アイダホ州ボイシやニューオリンズのように、いままで扱ったことがない125の地域のローカルページを作り、トラフィックが見込めるようであれば編集者を送り込む計画でいる。パッチではこうした拡張に備えて、過去3カ月のあいだに20人のジャーナリストを雇い入れている。
地方紙との連携計画
財政基盤ができたことを受け、パッチは、地方の報道機関、特にプログラマティック広告やソーシャル配信が重視される現在のメディア界で、パブリッシャーに必要なコストのかかるインフラを用意できない独立系の地方紙と、双方にメリットのある協力関係を確立する方法に目を向けはじめた。
「テクノロジーをもたないローカルパブリッシャーは多い。ローカルパブリッシャーの規模の問題を解決する大きなチャンスがある」と、セント・ジョン氏は語る。
作戦の第1段階では、パッチがほかのローカルパブリッシャーのリンクを配信する。ページビューはローカルパブリッシャーのものとしてカウントされ、ローカル版パッチはサイトに掲載できるコンテンツを増やせるという仕組みだ。
2017年下半期に始まる第2段階では、ローカルニュース提供者にサイトをパッチへ移転するよう呼びかける計画だ。この発想は、ブログプラットフォームのミディアム(Medium)がパブリッシャーのホスティングを開始し、ネットワーク効果の利点を提供したのと似ている。だが、実際に移転したパブリッシャーにはトラフィックの減少に見舞われたところもあった。
地方紙の苦境を救う
ピュー研究所(Pew Research Center)によると、新聞業界は長引く構造的衰退に見舞われているという。同研究所は「エディター&パブリッシャーデータブック(Editor & Publisher’s DataBook)」のデータを引用し、2014年に発行されていた日刊紙は、2004年から126紙減って1331紙となり、赤字決算を発表する新聞社の数が2014年から2015年のあいだに急増したと指摘する。新聞の売上の4分の1をデジタルが占めるまでになっているが、それはデジタルの売上が増えたというより、印刷版の売上が減少したせいだ。
セント・ジョン氏は、2004年と2009年にブックツアーに出向いた際に、地方紙の衰退を肌で感じたと言い、「2009年のときは、書評家がいなかった」と述べた。
ハイパーローカルニュースが規模を拡大するために必要な技術的バックボーンとソーシャルメディアのスキルがパッチにはあり、地方の報道機関はそこから恩恵を受けられる、というのが同社の宣伝文句だ。パッチは、単一の編集プラットフォームを持つことで、1030あるローカル版パッチから手軽にAppleの「News」でコンテンツを公開できる。
「道のりはまだ先が長い」
コムスコア(comScore)によると、3月のパッチのユニークユーザー数は1400万人で、1年で19%増加していたという(パッチの「Googleアナリティクス」ではこの数は2200万人となっていた)。パッチは、ひとつのトラフィックソースに過度に依存することを避けている。トラフィックの25%はFacebook経由だ(それは完全にオーガニックだ、とパッチは自慢している)。検索とメールによるニュースレターがそれぞれ30%ずつで、残りのトラフィックは直接または参照トラフィックだ。
パッチのリーダーたちは負け組のふりをするのが好きだが、3年前に所有者が変わって以来、自己主張をしはじめた。その前には、ハイパーローカルを修正する能力が自分たちにあるのか、自分たちでさえ疑問を感じていた。
セント・ジョン氏は次のように述べる。「当時の私なら、『わからない』と言っただろう。だが、いまなら、パッチはハイパーローカル・ジャーナリズムで重要な役割を果たしているし、これからも果たし続けると言える。我々には継続的な投資を可能にするビジネスモデルがある。我々はいいところに目をつけたと思う。だが、我々が進むべき道のりはまだ先が長い」。
Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)