日経ビジネス6月12日号の特集「『空飛ぶクルマ』の衝撃 見えてきた次世代モビリティー」では、米シリコンバレーなどで進む「空飛ぶクルマ」の開発競争、中国での急速な電動化など100年に1度ともいわれる自動車産業の変革の現場を取材し、部品メーカーが形成するピラミッド構造が覆されつつあることを詳報した。
こうした変化の波に乗って成長を図っている日本企業は、電気やIT(情報技術)産業からの参入組、或いは幅広い技術体系を持ち変化に柔軟に体系できる企業グループが多い。これまで完成車メーカーと歩調を合わせてきた自動車専業の部品メーカーほど悩みは深い。
トヨタ自動車グループの内装メーカー、トヨタ紡織は昨年、シリコンバレーにマーケティング拠点を開設した。なぜ内装業者がITの聖地に赴くのか。そこには理屈だけでは語れない、伝統企業の焦りがあった。
「トヨタさんだって、今の基本路線はHV(ハイブリッド車)でしょう?EV(電気自動車)が一気に普及して、我々の仕事がすぐになくなるなんてことはきっとない」。中国地方のあるエンジン部品メーカーのトップはこう話す。これは多くの地方部品メーカーが抱いている本音ではないだろうか。
バッテリーの重量やコスト、航続距離、長い充電時間──。確かにEVはまだ課題の多い技術だ。発電時の二酸化炭素排出量まで考慮に入れれば、HVが環境性能でも優位にあるとみる専門家も多い。仮に急速にEVが普及したとすれば、そもそも国全体の発電能力が足らなくなるとする試算もある。
一方、内燃機関の技術の積み上げがない中国、独フォルクスワーゲンの排ガス不正でディーゼル車の看板に傷が付いた欧州は、急速なEV推進策に取り組み始めた。技術的な論争をよそに、次代の環境技術の覇権争いは日本が不得手な政治的パワーゲームの様相を呈している。部品メーカーも完成車メーカーの威光に甘んじることなく、新たな成長の道を探らなければならない。
トヨタ自動車グループといえどそれは変わらない。主要8社の一角で、グループの源流である豊田紡織の名を引き継ぐトヨタ紡織は昨春、米シリコンバレーにマーケティング拠点を開設した。シートなどを手掛ける内装業者がなぜ、IT産業の聖地に赴くのか。発案者の堀弘平副社長は「切迫感があった」と赤裸々に語る。