売り上げの6割以上を海外で上げる世界的メーカー・ぺんてるを取材した。ゲルインキボールペン「エナージェル」は、滑らかな書き味と速乾性が評価され全世界で人気化。また芯が折れにくく、0.2mmの極細芯で書くシャープペンシル「オレンズ」で市場を刷新するなど、現在も快進撃を続ける。タッチパネルなどハイテク分野にも進出する同社を支えるのは、現場生え抜きの和田優社長(65歳)だ。
【垂直統合】
あまり知られていませんが、当社はインキやボールペンのボールの生産設備から自社でつくっています。インキは「生もの」。製造する際に温度や湿度が少し違うだけで書き味が微妙に変わります。
ボールペンのインキのねっとり感や、「エナージェル」の滑るような書き味は、自社でしっかり製造を管理し、はじめて出せるのです。もちろんコストはかかりますが、ユーザーの皆さんは、無意識に「書きやすい」と感じるペンを手に取るわけですから、妥協できません。
また、設備からつくることにより開発の自由度も高まるのです。しかも近年は、社内の設備を開発する部門を事業化し、自動車や医療用製品を自動で組み立てる機械の製造・販売も行っていますよ。
【運と縁】
私が当社へ入社したのは、単に「知っている会社」だったから。就職活動の時期がちょうど不況だったので、必死でいろんな企業を受けたのです。
面接で「当社の製品を知っていますか」と聞かれ、言葉に詰まった記憶まであります(苦笑)。しかし工場でシャープペンシルの替え芯を生産する仕事に就くと、働くことが面白くて、面白くて……。「無我夢中」こそが、単なる「運」を、素晴らしい「縁」に変えてくれるのかもしれません。
【プライド】
製造課長になったとき、先輩からもらったアドバイスが今も生きています。「自分が組織の長になったら、一番優秀な人間を外に出し、個性が強くて使いにくい人間をもらってきなさい」と言うのです。ならばと実践すると、本当にいい経験ができました。勤務態度が誉められたものではない社員をもらい、対話しながら付き合ううち、責任ある仕事を任せられるようになったのです。
私なりのポイントは3つでした。まず、育てようとおせっかいを焼かないこと。対等に、お互いがよりよく生きるために話し合うのです。次に、効果的なタイミングで口を出すこと。失敗するかな? と思っても口を出さず、失敗して落ち込んでいるところで対話するのです。
そして、上司に怒られるときは自分一人で行き、誉められるときは一緒に行くことです。
【親分道】
部下が上司の顔色を見る、なんて言いますが、それは逆で、上司こそ部下の顔色を見なければいけないのだ、と思います(笑)。何かよくないことが起きても、しばらくは口を挟まず見て見ぬふり。そして部下が申し訳なさそうに報告してきたら、それが反省してもらえるタイミング。
逃さず「これはチャンスなんだ。原因を探して次はもっといいものをつくろう」などと元気づけます。それから、新製品開発会議にも出席したくてたまらないのですが、私は出ません。軽い気持ちで「これいいね」と言うと、みんなが本心から納得していないのにその方向で進んでしまうことがある。だからあえて、現場に任せています。
【心と体】
休日、仕事を離れて心を落ち着かせるため、シャキッと背筋を伸ばしながら近所を散歩することがあります。心も体も「姿勢」は大事。私は父に「本を読むなら最低でも上・下巻ある長い本を読め」と言われたことがあります。
「さあ読むぞ」と覚悟を決め、姿勢を整え、気持ちを落ち着かせて読むからこそ、言葉が心に入ってくるからです。高校時代に所属していた剣道部でも同じでした。じつは毎日の通勤でも、姿勢を整え「この時間で少しでも体を鍛えるぞ!」と、エスカレーターを使わず階段を昇ったりしています(笑)。