6月5日に中国の動物園で撮影された動画がインターネット上で拡散し、非難が殺到している。来園者の目の前で、生きたロバがトラに餌として与えられるというものだ。この施設だけでなく、中国の動物園全般での動物福祉について、懸念の声が高まっている。(参考記事:「【解説】サファリパークでトラに襲われ死傷、中国」)
報道によると、この動画は上海郊外のサファリパーク「淹城野生動物世界」で一般客が撮影した。レインコートを着た数人の男性が木の板のスロープを使い、トラの飼育場を囲む堀にロバを落とすと、2頭のトラがロバに襲いかかった。一時、ロバは水中でもがいている。
この映像には事件の初めしか映っていないが、香港の英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」は、ロバが死ぬのに30分かかったと報じている。
動物園の声明(中国語)によると、この「事件」を起こしたのは不満を抱く株主だという。同園からの金銭的リターンが得られないことに腹を立てた株主が、勝手に男性たちを手配。当初、ロバを含む数種類の動物を園内で捕獲して、外へ売ろうとした。しかし、園の警備員に止められたため、せめて「餌の節約のため」とロバをトラの囲いの中に落としたと、株主の1人が英紙「ガーディアン」に話している。(参考記事:「ゴリラが脱走、動物園の対応に市民安堵」)
「あらゆる関係者が傷ついている、本当に悲しい映像です。ロバもトラも、これを見せられた来園者も被害者です」と話すのは、世界動物園水族館協会(WAZA)のCEO、ダグ・クレス氏だ。WAZAは世界各地の動物園に認証を行う団体だが、淹城サファリパークとのつながりはない。(参考記事:「世界で相次ぐ動物園事故、ゴリラ射殺は氷山の一角」)
クレス氏は、こうした事件は絶対にあってはならないと力を込める。「動物園が飼育場に適切な障壁を設けていれば、そもそも動物を囲いの外に出すことはできませんし、それをトラの囲いに投げ入れることもできなかったはずです。障壁も安全設備もこの園でちゃんと働いていなかったことは明らかです」(参考記事:「【動画】もう鎖はいらない、ゾウの飼育場に変化」)
ナショナル ジオグラフィックは同園にコメントを求めたが、現時点でまだ返答はない。
対価さえ払えばどんな見世物でも
中国の動物園に動物福祉の規範が欠けているとの評判は以前からあり、そうした批判を呼んできたショッキングな出来事が、今回の件でまた1つ増えることになった。クレス氏によれば、この20年で中国に新興富裕層が増えたことが、動物園・水族館ビジネスのブームをもたらした。しかし、動物への敬意や、最良の福祉の原則に対する理解が遅れているのだという。(参考記事:「動物園はノアの箱舟」)
中国の動物園では、来園者が動物に石を投げたり食べ残しを与えたりすることが知られている。動物が客の前で芸を演じさせられることもあり、信頼される認証機関は、こうした行為を動物虐待という理由で批判している。(参考記事:「米テーマパークがシャチショーの歴史に幕」)
香港に拠点を置く非営利団体「アニマルズ・アジア」の動物福祉ディレクター、デイブ・ニール氏は、淹城サファリパークでの事件にぞっとしたが、驚きはしないと話した。以前、ニール氏が同園を訪れたときには、来園者が料金を払い、生きたアヒルやニワトリをライオンやトラの囲いに投げ入れるということが娯楽として行われていた。(参考記事:「トラ寺院さらに窮地に、警察は他の動物園も調査へ」)
まれな例ではあるが、他の施設でも生きたヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシを餌として肉食動物に食べさせるのをニール氏は目にしている。「客側が十分な対価を払えば、どんな見世物でも提供する園が一部にあるのです」と彼は言う。「動物園の教育的価値が損なわれます。このような行為に教育的価値を見出すことはできません」