トランプ米大統領の不動産会社、家紋の盗用を非難される
ジョール・ガンター記者、BBCニュース(ワシントン)
ドナルド・トランプ米大統領が最近直面している中で最も過激なスキャンダルではないかもしれないが、トランプ氏の不動産会社が盗作の紋章を使って米国内の商業施設を宣伝していると非難されている。
問題の紋章は1939年にジョセフ・エドワード・デイビース氏が登録した紋章とほぼ同一の模倣であると米紙ニューヨーク・タイムズが報じた。模倣した紋章はゴルフカートからソックスまですべてのものに刻印されており、元の紋章に一つだけ小さな変更をしただけだ。オリジナルには「Integritas(高潔さ)」の文字があるが、模倣版には「Trump(トランプ)」とある。
デイビース氏は米国の外交官で、マージョリー・メリウェザー・ポスト氏の夫であった。ポスト氏は大統領が現在所有する別荘マール・ア・ラーゴを建てた人物だ。そして大統領はおそらくそこで最初に紋章を見たと思われる。2つの紋章の類似性は、デイビース氏の孫で元上院議員ジョセフ・タイディングス氏も同別荘を訪れた際に指摘した。タイディングス氏はニューヨーク・タイムズ紙に、トランプ・オーガナイゼーションが紋章を使うことを許可していないと話した。
スコットランドの紋章を管理する職員が、トランプ氏が模倣した紋章を使ってアバディーンのゴルフ場を宣伝しようとした際に、この件に注目。同氏がコート・オブ・ロード・ライアン(スコットランドの紋章局)に登録していないことに気づいた。この紋章局は紋章の申請すべてを承認し、紋章の不適切な使用に対して提訴する権限を持つ。
イングランド、ウェールズおよび北アイルランドの機関である紋章院に当該の紋章の商標登録が申請されたが、紋章院が既存の紋章からデザインが盗作されていることを指摘し、申請は却下された。トランプ・オーガナイゼーションが変更した文字の部分はデザインの一部とはならないため、当局の目には2つの紋章が同一のものに見える。
紋章院の下級紋章官である「ルージュ・クロワ・パーシバント」のジョン・ピートリー氏は、「これを新しい紋章と認めるわけにはいきません」と話した。「過去承認されたものにはない、少なくとも2つの線が必要です」
ピートリー氏はさらに、トランプ氏が紋章の色を黒と金に変更しただけでは十分ではないと述べた。
紋章の始まりは12世紀までさかのぼる。当初は戦の際、盾に使用された。王族がクレストを使用し始め、貴族へと広まった。国王から一族の男性メンバーに与えらえ、その後男系子孫に受け継がれていった。
最近では、自分が有力な家族、あるいは機関の一員であると考える人は、紋章院に紋章を持つ権利を主張できる。申請者の地位や提出するデザインが検討され、承認されれば、申請者は最上級の紋章官「キングス・オブ・アームズ」から紋章の特許を授けられる。
一方でデザインは好みの問題だ。ピートリー氏は富の象徴について「不適切でしょう。紋章のデザインは適切で趣味の良いもので、不朽であるべきです。50年後か100年後には、現代使われている装飾はあまりよく見えないかもしれません」と言う。
ピートリー氏は紋章のデザインが年月をかけていくらか近代化されたと指摘する。
「過去には許可されなかったようなものが少しずつ加えられるようになりました。国花や国の象徴、これまで知られていなかった動物など」。
英国では他家の紋章を使うのは違法だ。しかしイングランドやウェールズ、北アイルランドでこの違法行為をしても、司法の力が及ぶとは考えにくい。この任務に従事する特別法廷であるロンドンの紋章裁判所が最後に開かれたのは1954年だ。
しかしトランプ氏がゴルフコースの販促材料として借りた紋章を使っていたスコットランドでは、訴訟を起こされる可能性があった。タイディングズ氏はニューヨークタイムズ紙に、訴訟を起こさないよう家族を説得したと話した。「勝てないと説明したんです。訴訟を起こすのに2世代かかると」。
スコットランド紋章局からの申し立てを受け、結局トランプ・オーガナイゼーションはデイビース氏から取ったデザインを変更し、スコットランドから特許を得た。会社のスポークスウーマンは新たなクレストについてこのように述べた。
「このゴルフコースを象徴する重要な要素である空と砂丘、海を示すために3つの山形紋が使われています。双頭のワシはトランプ家の歴史の二面性と国籍を表し、そのワシがゴルフボールをつかみ、ゴルフゲームのすばらしさを引き合いに出しています。標語はラテン語でヌンクゥァム・コンチェデレ、つまりトランプ氏の座右の銘であるネバー・ギブ・アップです」。
しかし米国では紋章に関する法律は緩く、トランプ氏はデイビース家の紋章を商標登録し、各地のゴルフリゾートやホテル、各種商品に貼り付けてしまった。英国ではできないことだとピートリー氏は指摘する。
「他家の紋章を勝手に使うのは間違いなく不適切です。英国では常に自身の紋章を申請すべきだと考えられていますから」
(英語記事 Right to bear arms? Trump accused of plagiarising family crest)