世界で勝ち抜くには
生産性向上が必然である

日本電産が挑む「働き方改革」

残業をゼロにするため、2020年までに1000億円を投資する──。働き方改革が求められる中、日本電産・永守重信会長兼社長によるこの発表は、大きな注目を浴びた。「モーレツ」を代名詞とする同社の永守会長はなぜ、このタイミングで大きな決断を下したのか。そこには、真のグローバル企業になるうえで生産性向上が欠かせないという危機感があった。ベストセラー『生産性』の著者であり、マッキンゼー・アンド・カンパニーで人材育成のマネジャーを務めた伊賀泰代氏が、その真意に迫る。(写真/太田未来子)
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2017年7月号より、1週間の期間限定で抜粋版をお届けする。

目標は生産性の向上
残業ゼロは手段にすぎない

永守重信(ながもり・しげのぶ)
日本電産 代表取締役会長兼社長
1944年、京都府生まれ。職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)電気科卒。1973年、28歳で日本電産を設立。1998年に東京証券取引所1部上場、2001年にはニューヨーク証券取引所に上場。1980年代後半からは、駆動技術に特化した事業の強化・拡大に向けM&Aを積極的に展開し、同社をグローバル企業へと成長させた。著書に『「人を動かす人」になれ!』(三笠書房、1998年)、『情熱・熱意・執念の経営』(PHP研究所、2005年)などがある。

伊賀 日本電産ではこのたび、2020年までに「残業ゼロ」という目標を打ち出されました。永守会長といえば、いわゆる日本的な働き方を肯定的に推奨される経営者というイメージもあり、“宗旨替え”をされたと取る向きもありますが、実際のところはどうなのでしょう。

永守 よく誤解されているのですが、私の意見はいまも昔も変わっていません。「残業ゼロ」についても、それを目標として打ち出したわけではない。

 我が社が目指しているのは、「生産性を二倍にすること」です。残業ゼロはそのための手段にすぎません。

伊賀 最近では政府も「働き方改革」の名の下、残業時間の削減ばかりを謳っています。しかし「プレミアムフライデー」だから早く帰って遊びにいこうと勧めるのは、消費刺激策としては意味があっても、働き方改革の本質とはズレがあると感じます。

永守 生産性を上げずにただ早帰りし、ゴルフだ、飲み会だ、と遊んでいたら、企業は潰れてしまいます。そもそも我が社の場合、生産性向上のための取り組みは、政府の動きがあってから始めたものでもありません。

 最初に残業が常態化している働き方を変えると宣言したのは、2010年です。そこからいろいろと試行錯誤した結果、一年間のトライアルで、業績をまったく落とさずに、残業を半分まで減らすことができました。それで去年(2016年)上期の決算発表の時に、2020年に残業をゼロにすると宣言したのです。

伊賀 しかも今回はさらに、生産性向上のために1000億円もの投資を実施すると表明されました。

永守 実際にやってみると、残業を半分に減らすところまでは比較的簡単にできました。しかし、このまま同じやり方で残業をゼロにまで持っていくのは容易でないこともわかりました。そこで1000億円を投じると決めたのです。

伊賀 具体的には、どのような分野に投資されるのでしょうか。

永守 まず、生産部門に500億円です。たとえば、工場に最新のロボットを導入することで作業の自動化を進めます。それから開発や労務に500億円を投入します。例としては、これまではPCでやっていた解析をスーパーコンピュータで行うなどが挙げられます。また、最新のシステムを導入して、リモートワークに対応できるセキュリティも入れると決めました。

伊賀 1000億円という金額は、生産性向上のための投資としては、かなり大きな規模ですよね。

永守 会社を真剣に変えようと思っているなら、経営者はお金を使わないといけません。それから当然ですが、投資に見合った成果が得られることも確認しています。1000億円投資しても、それによって生産性が上がれば将来3000億円は稼げる。これは間違いありません。だからこそ投資をするのです。

伊賀 社員の働き方を楽にするための労務費的な経費ではなく、企業の業績を大きく上げるための投資だということですね。その意味では、これまでの「必死で働くこと、一生懸命働くことが何より大事」というお考えは変わっていないということでしょうか。

永守 もちろんです。変わったのは、“一生懸命”を測る基準が、労働時間ではなく生産性になるという点だけです。

 私が残業ゼロを目指した2010年とは、日本電産が1兆円企業を視界にとらえた年でした。企業もそれだけの規模まで成長したら、いろいろ変わる必要があるでしょう。また、以前は資金的な余裕もなかったし、何より優秀な人を大量に採用できる状況でもありませんでした。そのため、「働く時間」で勝負せざるをえなかったのです。

伊賀 今後は、働く時間で勝負する社員は評価しないと。

永守 昔はこう言っていました。「同期のA君が午後5時で帰るならば、君は午後8時までやりなさい。それで同じ仕事ができていたら、同じように評価をしてあげよう」。すると、能力が低い人や要領が悪い人でも頑張って遅くまで働き、同じ結果を出してきました。

 でも、そういう時代はもはや終わりました。「これからは午後5時で締め切り。そこで同じ仕事ができていなかったら、君を評価することはできない」と言わなければなりません。「できるまで働きなさい」でも、「仕事ができていなくても帰っていい」でもなく、「時間内でできる方法を考えなさい」ということなのです。

伊賀 労働時間を延ばすことで安易に成果を上げることができなくなる状況は、考えずに手を動かしているだけの社員にとっては、むしろ厳しい環境とも言えそうです。

永守 延長戦で夜中までやれたほうが楽だと考える社員はいるでしょう。しかし、だからこそ意識を変えていく必要があると考えています。

伊賀 残業をゼロにすることで、これまで残業代として支払っていた資金は賞与の原資にするとお聞きしました。だとすると、低い生産性で長時間働いていた人の収入は抑えられ、短時間労働でも高い成果を出した人の給料は高くなるということでしょうか。

永守 その通りです。成果に対する評価を行うわけですから、均等ではなく生産性が高い人により厚く配分します。そのため、残業代がなくなっても、生産性が高い人の給料は減りません。むしろ、彼らの給料は上がるでしょう。

伊賀 反対に、生産性が低い人はこれまでより収入が減る可能性もあると。

永守 あるでしょうね。それは当然です。

 世界で戦っていくうえでの競争力を維持するために、誰に対する配分を増やすべきなのかといえば、それは同じ時間で他人よりも高い成果を上げてくれる人材です。そうならなければ、日本企業は世界で勝てなくなってしまいます。

生産性向上には
管理能力と英語力が不可欠

伊賀泰代(いが・やすよ)
キャリア形成コンサルタント
兵庫県出身。一橋大学法学部を卒業後、日興證券引受本部(当時)を経て、カリフォルニア大学バークレー校ハーススクール・オブ・ビジネスにてMBAを取得。1993年から2010年末までマッキンゼー・アンド・カンパニー、ジャパンにてコンサルタント、および、人材育成、採用マネジャーを務める。2011年に独立。著書に『採用基準』『生産性』(以上、ダイヤモンド社、2012年、2016年)がある。

伊賀 生産性がなかなか上がらない人は、どうすればよいですか。

永守 そうした社員の生産性を上げるために、社員教育にも投資します。英語や中国語といった語学の学習、そして業務に必要な専門知識などを習得するための学校をつくり、そこで教育をします。

伊賀 成果主義的な評価に対応できるよう、スキル向上のサポートは会社がするということですね。

永守 そうです。これまでの試行錯誤を通して、何が生産性の向上を妨げているのかを徹底的に調べました。そこではさまざまな問題が出てきましたが、その理由として真っ先に挙がったのは、管理職の管理能力が低いことです。

伊賀 具体的にはどういうことですか。

永守 部長や課長が、自分の部下がなぜ残業をしているのか、そもそも今日はどういう仕事をしているのか知りませんでした。部下の仕事を把握していない状態にもかかわらず、「今日は残業を2時間に抑えなさい」と言っても効果は期待できません。我が社の管理職は、マイクロマネジメントができていなかったのです。

伊賀 管理職が自分の仕事に追われ、部下の仕事にまで目が行き届かなかったということですね。

永守 自分の仕事に追われているようでは、管理職とはいえないでしょう。生産性を上げるためには、管理職が一人でどれだけ頑張っても意味はありません。部下が20人いるとすれば、その全員が高い成果を上げなければならないのです。

 管理職とはオーケストラの指揮者です。名指揮者が舞台に立つと、学生でもプロ楽団以上の音が出せます。反対に、一流の演者で構成される楽団でも、よい指揮者がいなければ聴くに堪えない演奏になる。管理職と部下の関係性もまったく一緒です。

 その問題を解決するために、私は幹部候補を対象にした「グローバル経営大学校」をつくりました。そこでは一年間のカリキュラムを構築し、徹底的に研修を行っています。さらに、今年(2017年)の3月には「グローバル研修センター」を設立し、世界中の人材を集めて、階層別に必要な知識を学べる機会も設けています。

伊賀 ゼネラル・エレクトリックなど、社内に人材育成機関を設ける企業は欧米では少なくありません。でも、日本企業でそこまで本格的な取り組みは珍しいと思います。管理職に求めることはほかにもありますか。

永守 生産性が上がらない二番目の理由は、英語力です。調べてみると、海外の仕様書を翻訳するだけで数時間かかっているケースもありました。

 我々はいま、連結で300社以上を抱え、従業員は十数万人いますが、その中で日本人は約1万人だけです。これからもどんどん海外からの仕事が増える。にもかかわらず、英語もできないようでは、生産性は上げられません。

伊賀 管理能力と英語力──欧米のグローバル企業がマネジャー職に求める資質に近いですね。最近は英語を社内公用語にする企業もありますが、御社では、英語力はどの程度、重視されていますか。

永守 英語力については全社員に要求しています。新入社員にはこう言っています。「英語力とは運転免許証のようなものだ。これからはまず、英語力を身につけなさい」。また、部長や課長になるためにはTOEICが何点以上必要という具体的な基準も設けました。実際、部長試験や課長試験に合格しても、英語力が不足しているために昇進を保留している人間が何十人もいます。

伊賀 昇進の条件になるのであれば、採用時点で英語力を問うことも考えられますか。

永守 数年前からそれを始めました。新卒採用でも英語力の高い学生を優先していますし、中途採用では最初からTOEICの規定を満たしていなければ採りません。

 いま役員になっている人間は、全員英語を使いこなせます。通訳の帯同が許されるのは創業者の二人、私と副会長だけです。それ以外の社員には、専門的な議論を伴う会議でも通訳の同席を許していません。

伊賀 社員の中には危機感や恐怖感を持つ人も現れそうです。

永守 いまのところ、それほどありません。むしろ、もっと「うちも厳しい制度になってきたな」と危機感を持ってほしいくらいです。

伊賀 経営者が持つ危機感を、社員全体に共有するのはどこの企業でも非常に難しいと聞きます。社員がなかなか危機感を持てないのはなぜでしょうか。

永守 みんな自分に対する評価が高い。私の感覚では、たいてい実数値の2割は高いと感じます。こちらが80点だと思っていても、本人は100点だと信じ切っています。自分はよくやっているとみんな思い込んでいるのですね。それでは、危機感を持てないのは当然でしょう。

 もちろん、自分は一生懸命やっていると思えることは大事です。しかし、周囲の客観的な評価も冷静に受け止めなければなりません。周りから欠点を指摘してもらえるのは、自分でそれを挽回できるチャンスだととらえるべきです。

伊賀 欧米企業の場合、成果を上げられなければ解雇されるので、否応なく頑張らざるをえません。しかし、「雇用は守る」と宣言されている永守会長の下で働いている社員の方は、自分が絶対に解雇されないと理解しています。それでも緊張感を保てるものなのでしょうか。

永守 たしかに、私は社員のクビを切るつもりはありません。だからこそ、常に危機感を与える必要がある。たとえば、怠け者は容赦なく切りますよ。能力のあるなしでは切らないが、怠け者は残さない。それは、はっきり言っています。

 反対に、やる気があっても成果がうまく上がらない人については、与える仕事を変えればしっかりと成果を上げてきます。技術者としては通用しなくても、営業になると結果を出す人もいました。だからこそ、能力を基準にして「君はクビだ」とは言わないと決めています。

伊賀 とはいえ、役員など高位職の方には、より明確な成果主義が適用されるのですよね。

永守 いっこうに成果が上がらない役員には、降格する1年前に「お前、今期はカド番役員だぞ」と伝えます。相撲の角番、つまり負け越したら降格が決定です。ある時にはカド番が5人いましたが、1年後には誰一人として落ちませんでした。なぜなら、警告を発するとそこから奮起するからです。それでも成果を上げられずに降格させられたら、それは恨んでくれるなよ、ということです。

生産性に基づく評価は
社員の雇用を守るため

伊賀 「残業ゼロ」を唱えられてから、永守会長自身も早く帰宅されるようになったと聞きました。ただ、経営を任せるようなリーダー人材については、残業をゼロにすべきと思われているわけではないですよね。

永守 もちろん、経営陣と一般社員の働き方は分けて考えています。そうはいっても、経営者自身がまず変わらなければ組織は変わらないので、私もいまは午後7時には退社するよう努力をしています。

 ただ、これも誤解されていますが、私は自分自身の過去の働き方が間違っていたとは思いません。零細企業、中小企業の経営者はとにかく必死になって働くべきです。米国を見ても、ベンチャー企業の経営者はみんな休みなく働いていますよね。中小ベンチャーの経営者にとってはそれが当たり前です。もし明日「永守株式会社」を新たにつくったとしたら、やはり1日16時間働きますよ。

伊賀 たしかに、米国でも起業家の働き方はすさまじいです。一方、欧州は米国とも異なり、かなり高位のポジションにある人でも長期休暇を取得することがあります。

永守 だからこそ欧州では、伝統的産業では強い企業もありますが、新しい分野では、世界的企業を輩出できていません。グーグルやアップルが勝負しているような動きの速い業界では、経営者まで月単位の休暇を楽しむ働き方はできないのではないでしょうか。

伊賀 たしかにそうですね。ちなみに欧米の場合、総労働時間の上限を法律で決めたり、インターバル規制を適用したりするなど、国や企業が働く時間を制限して「守ってあげる」ことが必要な労働者と、働き方は自分で決める将来のリーダーたる幹部候補生とが、明確に分かれているように思えるのですが。

永守 欧米の場合、その2種類の人では、賃金体系もまったく違います。私は「M型賃金」と呼んでいますが、最低賃金プラスアルファレベルの待遇で働く人がたくさんいるかと思えば、最初から年俸10万ドル以上を支払わなければ雇えない人がいます。そして、その中間の層が少ない。日本の場合、多くは年功序列で賃金が上がっていくので、それほど大きな差はありません。

 ただ、最低賃金プラスアルファレベルで働く人が大きな不満を持っているかというと、そうでもありません。彼らは早く家に帰り、家族と一緒にバーベキューをするような生活を望んでおり、そこまで必死に働きたくないと考えている。もう一方の層は、10万ドルではなく、いつかは100万ドル、1000万ドルを稼ぎたいと考えているので、当然必死に働きます。

伊賀 後者のような人材は、年功序列に基づく給与テーブルを適用していては採用できません。御社は2020年に2兆円、2030年には10兆円企業を目指す準備も始めると発表されています。そうなると、海外でも幹部候補たる人材を相当数、採用することが必要と思われますが、そうした人材を多数グループ内に抱えながら、日本人にのみ年功序列の評価方式を適用し続けることは可能なのでしょうか。

永守 そうはいかないと考えています。ただ、一挙に変えることも難しい。今後は、入社時は同じ賃金であっても、その後は20代の間にもいっきに差をつけることになるでしょう。実際、すでに変わり始めています。昔は、課長になれるのは35歳以上などの年齢制限もありましたが、すべて撤廃しました。早い人は30歳くらいで部長級になれる一方で、遅い人は40歳を超えても課長にもなれません。同期の間でも非常に大きな差がついています。

 私は、社員を切るつもりはありません。しかし、従来の賃金体系をそのまま維持するつもりもありません。

伊賀 生産性が低い人の給与は、欧米と同様、長期間働いていてもほとんど上がらなくなるということですね。

永守 そうです。しかし、そうすることで彼らの雇用を守ってあげられます。生産性が低い人の給料まで上げていると、結果的に雇用を守れなくなるのです。

 私は、経営者は一にも二にも雇用を守るべきだと考えています。日本人の中には、雇用を守るのは当たり前だと考える人もいるかもしれません。でも、いまの電機産業を見てください。会社自体がなくなったり、何万人もの社員をリストラしたりしています。

 我が社は絶対にリストラをしない。そのためには、生産性が低い人の固定費まで上げられないということです。

伊賀 今後は、海外の事業比率や人材構成比がさらに高まるということですが、永守会長は、日本電産グループの人事制度を、どこかの時点でグローバルに統一したいとは考えておられますか。

永守 いえ、まったく考えていません。人事制度は国ごとに違ってかまわないと思っています。

 ミドル層を見れば、現場にはそれぞれの風習があります。たとえば、能力が低くてもクビを切らない代わりに、みんなが平均値以上の働きを見せることで全体の士気を上げて成果も上げる。これは日本独自のやり方です。日本に限らず、イタリアに行けばイタリアの風習があるし、ドイツにはドイツの風習がある。そのため、ミドル層の制度までグローバルに統一すべきとは思っていません。

 ただし、世界中の企業を経営幹部として転々とできるトップレベルの人材の待遇は、グローバルに統一されるべきだと思います。そうした人材には何億払ってもいいでしょう。現に、我が社の海外CEOは、私や日本の役員の何倍もの給料をもらっています。その代わり、成績を上げられなければ簡単に給料も下がるし、解雇もされます。すべては能力と成果次第の世界です。

伊賀 欧米の人だけでなく、日本以外のアジアでも、優秀な人材はキャリアに対して非常にアグレッシブです。将来グローバルリーダーになりたいと思っている人の場合、小さくてもいいので30代で事業を任せてほしい、そして成功したらこれくらいの報酬がほしい、などと明確に要求する人もいます。そうした人材に対しても、成果に基づく特別な報酬と条件で採用する可能性があるということでしょうか。

永守 そうでなければ世界と戦えないし、勝てません。1兆円規模までは国内マーケットに限定しても成長できますが、10兆円企業にしようと思ったら海外に出ていくしかないのです。

伊賀 今回、女性管理職を増やすというお話もされていますが、今後はトップ層の人材の中で成功する女性も出てくると思われますか。

永守 その点に関しては、正直なところ、いろいろ難儀をしています。現時点では2020年に管理職の8%を女性にすると宣言していますが、これはもともと20%にすると言っていた目標を下方修正したものです。もちろん、なかにはものすごく意欲的で優秀な人材もいます。たとえば、いまの人事部長は女性です。しかし、思うように女性管理職を増やせていないことも事実です。

 その理由は、トップに上げられる人材が少ないからです。我が社では、女性だからとゲタを履かせるようなことは絶対にしません。なぜなら、それをやると同じ成果を上げている男性社員の士気が落ちてしまうからです。形式的に数字を達成することに意味はありません。

 ただ、これは日本に限った話でもあります。中国、タイ、ベトナムといったアジアの海外工場を見ると、女性マネジャーのほうが多いくらいです。グローバルに見れば、女性の管理職やリーダー人材比率は高くできると思います。

伊賀 アジアと日本の女性の違いは何なのでしょう。

永守 一つには、幼少期からの家庭教育があるのかもしれません。日本にはいまだに永久就職という言葉が残っているくらいですが、女性ももっと社会での成功に意欲を持ってほしいと思います。

伊賀 永守会長は以前、「子どもを風呂に入れてほしいと求めるような妻がいては、リーダーとして成功できない」とおっしゃっていました。女性は結婚して家庭に入る社会を前提に考えていらっしゃるのかとも思いましたが、その話とは矛盾していませんか。

永守 いや、そこに矛盾はありません。家庭の幸せとは何かと問われた時に、旦那が早く家に帰ってきて、子どもをお風呂に入れてくれて、全員で食事をするというあり方が、女性にとってもいまだに幸せの一つの形になっている。それが間違っていると言っているのです。

 我が社でも、これから戦力として活躍してもらいたいと考えていた女性が、いまだに結婚や出産で辞めてしまう例が見られます。技術革新が非常に速い我々のような業界では、3年も休まれたら追い付けません。会社としては相当前向きに支援しているつもりですが、日本の女性はみずから自分の道を閉ざしてしまっている面もあると思います。

伊賀 最近は少子化・高齢化が進み、介護の問題も深刻になっています。かつては専業主婦の妻が夫の親の面倒まで見ていましたが、いまは共働きが増えてそういう時代ではありません。男性の介護離職も社会問題化しており、海外出張や長期出張は困難という人もいます。そうした課題に対しては、どのような対策を考えていらっしゃいますか。

永守 今後ますます、本人が仕事の生産性を高め、高い成果を上げること。そして、会社がそれに見合う高い報酬を支払うこと。それによって、介護のための人を雇ったり、立派な施設に入れられたりという選択肢を持てるようにするしかありません。こう言うと、何でも金で解決するのはおかしいと言われるかもしれません。もちろん、私もお金がすべてとは思わない。しかし、お金があれば解決できる問題もたくさんあるはずです。

◆日本に求められるリーダー像とは何か、どう育成すべきなのか、と議論が深まる。さらに、伊賀氏による寄稿も掲載された全文は『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2017年7月号に掲載されています。

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いま、日本企業は働き方の改革を迫られている。単に長時間労働を是正するだけでは十分ではない。真に求められるのは、企業の競争力を高めるべく、人的資源の投入をなるべく抑え、短時間で生み出す成果を最大化すること、すなわち生産性の向上である。本特集では、すべての日本企業が無視できないこのテーマについて、多様な視点から議論を深める。

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