2017年6月11日05時00分
英国の為政者はまたも、民意を見くびった慢心の代償を払わされることになった。
英国の総選挙でメイ首相率いる与党・保守党が議席を減らして過半数を割り込んだ。
圧勝間違いなし。そう目されていた選挙だった。実際、解散時は最大野党の労働党に支持率で20ポイント近い大差をつけていた。
その勢いを駆って政権基盤を固め、これから本格化する欧州連合(EU)との離脱交渉に強い姿勢で臨みたい。メイ氏にはそんな計算があったはずだ。
確かに昨年、国民投票という形でEU離脱の民意が示されて以来、残留を求める声は英国内で必ずしも大きくなかった。
だからといって、国民は強硬な離脱の進め方まで受け入れたとはいえない。メイ氏は、あくまで移民規制を優先し、EU単一市場からの撤退も辞さない構えだったが、そうした離脱のあり方を考え直す必要がある。
他の先進国と同様に、英国民は暮らしの不安を募らせている。緊縮財政で社会福祉の予算が年々削られる。学費の値上げや不安定な雇用の増大の中で、親の世代より豊かな生活を築ける自信がもてない。
そうした不満を抱く国民が政治に寄せる視線は厳しい。なのに選挙戦で保守党は、英国がEUを離脱しさえすれば多くの問題が解決するかのような楽観論を繰り返した。メイ氏はテレビ討論での説明すら拒んだ。
対照的に、福祉の充実や大学授業料の無料化など、庶民に身近な政策を掲げた労働党が終盤、激しく追い上げたのは当然だ。相次ぐテロは国民の不安を強める結果にもなった。
思い起こせば、昨年、英国民が当時の政権の意向に反してEU離脱に賛成した理由のひとつが、エリート主導のEUの意思決定への強烈な不信感だった。
そして今回、強硬離脱の方針を首相の意思で固め、その信認を迫ったメイ政権に対し、大勢が再び不信を表明した。
優先すべき国民の関心事を見極めたうえで、国の未来を左右する重大な政策では、十分な情報開示と説明を尽くす。その基本動作を怠り、理念先行の政治に突き進めば、民意の痛いしっぺ返しを受けることを、政治指導者らは胸に刻むべきだ。
メイ氏は少数政党の協力を得て首相続投を表明した。だが、離脱交渉を着実に進める政権の体力はもはや心もとない。
ここはEUからの離脱の進め方について、国民と丁寧な対話を重ねながら改めて熟考する時ではないか。そのためには立ち止まる勇気も必要だろう。
トップニュース
新着ニュース
あわせて読みたい