「住宅宿泊事業法」が成立しました。これによって、赤の他人を普通の人が自宅に泊める、いわゆる「民泊」が、日本でも2018年1月から誰でも合法的にできるようになる見通しです。
2020年に向けて急増する訪日外国人の宿泊ニーズに対応するため、という理由もあるでしょうが、この法案成立には米国の新興企業Airbnb(エアビーアンドビー)が大きく貢献しました。Airbnbの民泊仲介サービスが日本に入ってきたことで、対応する法律が必要になったようなものです。世界のあちこちで同じような現象が起きています。
Airbnbのサービスは、家や部屋を貸したい「ホスト」と旅費を節約したい「ゲスト」をオンラインで結び付けるというもの。素人のドライバーと乗客を結び付けるUberの宿泊版とみることもできます。いわゆる「シェアリングエコノミー」です。
知らない素人の車に乗る(知らない人を乗せる)だけでも何だか怖いのに、赤の他人の家に泊まる(赤の他人を泊める)なんて、ニーズはあるだろうけど問題がいろいろ出そうな、運営するのがすごく面倒くさそうなサービスだなと思っていました。思い付きはしても、リスクを考えて起業しなかった人がたくさんいそうです。
ただ、実際にAirbnbのサービスを見てみると、ステキな家がたくさん。かわいいロッジや映画に出てくるような邸宅の写真を眺めていると、臆病な私でも泊まってみたくなります。
そんなAirbnbが先日、世界中の難民に無料で宿泊所を提供するプログラム「Open Homes Platform」を発表しました。災害などで居場所を失った人々に無料で部屋や家を貸そうというプログラムで、ホストに参加を呼び掛けています。
このプログラム、売り上げはありません。問題も起きそうです。企業イメージアップを狙うためだけなら代償が高すぎます。
でも、Airbnbにとっては自然発生的なアイデアでした。同社の目標は「誰もがどこにでも居場所を見つけられるような世界を作ること」だから。
夢みたいですが、こういう目標は大切です。米Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOは「世界中の人々をつなぐ」という目標を本気で目指しているからこそ、20億人近いユーザーを獲得できたのでしょう。もちろん慈善事業ではないので金もうけも大事ですが、目標があるからこそ困難を乗り越えられます。
Airbnbの企業情報ページによると、同社は2008年創業で、約190カ国に散らばるホストが、累計1億6000万人以上のゲストをもてなしてきました。非公開企業なので売上高は公表していませんが、アナリストは2016年の売上高を16億ドル(約1766億円)とみています。
こんなすごい会社を立ち上げたのはどんな人たちでしょう。ということで、5月末に出版された『Airbnb Story』(日経BP)を読みました。こういう“起業物”が好きで、HP、Apple、Google、Facebook、Twitter、Xiaomiなどの書籍も読んできましたが、Airbnbのお話もジェットコースターのようで面白いです。
共同創業者の3人、ブライアン・チェスキーCEO、ジョー・ゲビアCPO(最高製品責任者)、ネイサン・ブレチャージクCSO(最高戦略責任者)のバランスが絶妙です。
ザッカーバーグのような意志の強さは感じさせないけれど集中力と探究心があるチェスキー、完璧主義で、その欠点も認めて自分の長所を生かすゲビア、2人より冷静で地に足がついたエンジニアのブレチャージク。全然違う3人が、正三角形のようにバランスを保ってAirbnbを支えています。それに、それぞれが愛されキャラです。
急成長している米企業の共同創業者が9年たってもまだそろって会社の中心にいるのはすごいことだと、Apple、Facebook、Twitterを見ると分かります。
この3人の信頼関係が会社全体の文化にも、ホストのコミュニティーにも反映されているようです。それは、Webサイトに書き込まれたホストのプロファイルやゲストのレビューから伝わってきます。もちろんよく考えられたレビューシステムや決済システムなど、優れた技術がサービスを支えているのですが、そのバックボーンの思想や文化はやはり大切(と、最近のUberを見ていると特に思います)です。同書を読んでさらにそう感じました。
2016年11月にスタートした「Trip」で総合旅行サービスにも参入したAirbnb。まだまだ成長が続きそうです。
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