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 水分補給に良いとされるイオン飲料やスポーツドリンクなどを多量に飲み続け、健康状態が悪化した乳幼児の報告が、昨年までの10年間で少なくとも24例、31年で33例あったことが日本小児科学会などの調査でわかった。栄養が偏ったためとみられる。こうした飲み物を継続して多量にとらないよう専門家は注意を呼びかけている。

 問題となっているイオン飲料と呼ばれる飲み物のほとんどは、糖やミネラルを含むが、糖をエネルギーに変換するのに必要なビタミンB1が含まれない。ビタミンB1を含むミルクや離乳食などをとらずに多く飲み続けると、ビタミンB1欠乏症になる。頻度はまれだが、脳症や脚気(かっけ)になることがある。

 同学会などでつくる日本小児医療保健協議会の栄養委員会(位田忍委員長)が昨年、全国約400の学会専門医研修施設に郵送で調査した。これらの飲料を多くとって健康状態が悪化したとみられる症例を尋ね、文献でも調べた。

 委員会によると、1986年以降の報告で、7カ月~2歳11カ月の33人がビタミンB1不足のため、意識障害や浮腫などを起こし、1人が死亡していた。33人のうち24人は07年以降の報告だった。

 33人中12人に知的障害や運動障害が残った。分析できたうち、飲んでいた期間は最短1カ月、最長は1年11カ月。約9割が1日1リットル以上飲み、大半は離乳食をほとんど食べないか少量しか食べていなかった。飲み始めた理由は「かぜなどの感染症にかかった」が最多。「子どもが好む」や「水分補給」「離乳食が進まない」と続いた。

 調査をした愛知医科大学の奥村彰久教授(小児科)は「障害が残るケースもあり予防が大切。かぜの時など短期間に飲むのは否定しないが、飲む習慣をつけさせないでほしい」と指摘する。

 乳幼児用イオン飲料を扱うメーカーも注意を呼びかけている。アサヒグループ食品の担当者は、ビタミンB1欠乏症の事例について「イオン飲料を毎日多量に飲み、ほかの食事をほぼ食べない極端な飲み方をしていると認識している。汗をかいた時の水分補給に飲み、授乳や食事の妨げにならないよう使ってほしい」と話す。同社が販売する商品のホームページは、普段の水分補給には冷ました湯や麦茶を勧める。ピジョンは、商品のラベルに「授乳や食事の妨げにならないよう」「1日当たり200ミリリットルまでを目安に」と記す。3カ月から11歳を対象に安全性を確認した調査などをもとに目安量を決めたという。(福地慶太郎)

■報告された症例

【2015年】

・1歳2カ月男児。イオン飲料を好み生後11カ月ごろから1日に1.5~2.5リットルを飲んだ。意識障害や嘔吐(おうと)などがあり入院。症状は改善したが、退院1カ月後に1人で歩けなかった

【2014年】

・1歳7カ月男児。下痢や嘔吐が続き、1日に1.5リットルのイオン飲料と少量の流動食を約1カ月間摂取。心停止後に蘇生し回復したが発達の障害が残った

【2012年】

・1歳6カ月女児。1歳2カ月ごろから1日1リットル近くのイオン飲料を飲んだ。顔を中心に全身浮腫が出て入院した

・1歳5カ月女児。8カ月ごろからイオン飲料を好み、1歳ごろから離乳食の量が減少。1日3~4リットルのイオン飲料をとり浮腫が出て入院、肺高血圧による心不全と診断

【1992年】

・1歳9カ月女児。生後10カ月から毎日スポーツドリンクを0.5~1.5リットル飲んだ。嘔吐や食欲不振がみられ入院。症状は一時改善したが、低酸素血症などになり呼吸不全で死亡

※日本小児科学会雑誌などから。【】内の数字は報告された年