史上最年少棋士・藤井聡太四段、14歳の覚悟と日常

2017年6月10日14時25分  スポーツ報知
  • 藤井聡太四段

 毎日のように新聞、テレビ、ヤフートピックスに名前が躍る「時の人」だ。将棋の史上最年少棋士で、中学3年生の藤井聡太四段(14)は昨年末のデビューから23連勝を飾っており、列島を狂騒に包んでいる。素顔の彼はどんな少年なのか、なぜ強いのか―。数字を愛する理系でありながら、抜群の言語力を持つ文系でもあるハイブリッド型の天才少年に胸の内を聞いた。

 ゆらゆらとした足取りで歩き、ふわふわとした表情で笑う。幼く、小さな体で国民の視線を受け止めても、藤井は自然体のままだ。

 「実はそんなに期待されてないと思いますけど…。でも、僕のことをきっかけにして将棋に興味を持ってもらえたら、とてもうれしいことだと思います」

 渦中にいる「神の子」は歓喜でも衝撃でもなく、確率論で23個の白星を見つめている。

 「仮に勝率7割の実力があったとしても20連勝する確率は0・1%もないようです。僕はおそらく推定勝率6割もないでしょうから、ものすごく低い確率で勝っていることになりますよね。(歴代最多連勝の)神谷(広志八段)先生は飛び抜けて28連勝ですからね…。考えられないような記録です」

 棋士は、学生時代に数学が得意だった人ばかりだが、藤井は誰よりも数字に魅了されている。4つの数字を足したり掛けたりして合計10にするゲーム「メイクテン」を日常的に楽しむ。

 「車に乗っていても、周りの4ケタのナンバープレートを見て考えてしまいます」

 冬は気象庁ホームページで各地の積雪量の変動をチェックするのを趣味とする異次元の理系男子だが、「超」の付く文系男子でもある。終局後などに語る「望外」「茫洋(ぼうよう)」「僥倖(ぎょうこう)」などの言葉の数々が中学生離れしていると話題になっている。数字同様に、言葉にも深い関心を持つ。

 「本を読むのは好きです。母が歴史ものが好きなので、家にあった司馬遼太郎作品などは手に取ってみました。旅行記とかは好きで、村上春樹さんの『遠い太鼓』も好きです。村上さんの小説は読んだことがないのですが…。椎名誠さんは『あやしい探検隊』シリーズがやはり…(好き)」

 学校から帰宅した後の日課は、おやつを食べることと新聞を読むことだ。

 「新聞を開いて読みたい記事を探すのは、盤上の局面を見て指し手を探すことにどこか似ている気がします。今は北朝鮮問題にけっこう関心があります。人類を絶滅させるミサイルが飛んで来たら…まあしょうがないかなって(笑い)。あと大相撲欄は読みます。推し力士はいませんけど、宇良関の技には注目しています」

 読書と新聞購読で培われた文章力も既に披露している。羽生善治3冠(46)を破り、衝撃を与えた非公式戦の自戦記を月刊誌「将棋世界」に9ページにわたり寄稿したが、同誌編集長は「全く直す必要がなかったので、頂いたまま掲載しました。驚きました」と明かす。

 「いや、実は…締め切りの前日に分量を大きく間違えていることに気付いたんです。調整が大変でした」

 ―ちなみにスポーツ新聞って読んだことあります?

 「祖母が中日スポーツを読ませてくれたりしますけど、報知さんは…申し訳ありません。読んだことが…。巨人はよく知らないんです。アベシンノスケさん? …すいません…知らないです。芸能人も全然知らないんです。『ブラタモリ』はよく見ますけど…あとは(NHK)『ドキュメント72時間』が好きです」

 5歳の時、表面に動き方が表示された駒を使う子供用の盤「NEWスタディ将棋」を祖母から贈られ、将棋と出会う。

 「もともとトランプなどでも勝つまでやるタイプだったので、勝つことがうれしくて。将棋に対する思いはずっと変わらないです。ずっと好きで自然にやってきた感じです。将棋を指したくないとか、駒に触れたくないとか思ったことは一度もないです」

 幼稚園の冊子に「しょうぎのめいじんになりたい」と書いた少年は早くから適性を発揮するが、父・正史さん(48)と母・裕子さん(47)は英才教育など施さず、自由を尊重した。木登りに「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」が好きな普通の子供として育てられた。

 「おばのピアノ教室に少し通いましたけど、才能がないことは明白でした。音感はないし、手先も器用ではないですし。1年に1回くらい、いとこで集まってマリオカート(テレビゲーム)をやったりしますけど、めちゃくちゃヘタでちょっとオチます(落ち込みます)。他の習い事もしないで、比較的自由に将棋をやらせてくれたのはありがたかったです。小学生時代はそんなに学校も好きではなかったので、将棋という素晴らしいゲームと出会うことができて本当に良かったと思っています」

 2012年に小学4年で棋士養成機関「奨励会」入会。破竹の勢いで昇級昇段を重ね、昨年10月には加藤一二三九段(77)の記録を62年ぶりに更新する14歳2か月の史上最年少で棋士になった。

 「中学生棋士になられた先生方はみなさんすごい実績を残されているので、そこに傷を付けないように、負けないように、と思います」

 藤井将棋の神髄は、将棋と同時に始めた詰将棋によって育まれた終盤力にある。A級棋士も参戦する詰将棋解答選手権で、なんと小学6年時に初優勝。現在3連覇中だ。

 「詰将棋も好きで続けてきただけなんです。答えはひとつですから解けるとうれしいですし、手順には芸術的な美しさがあります」

 一方で、序盤と中盤については「粗削り」という評価が棋士間では多かった。一変したのは昨年5月、コンピューターソフトを研究に用いるようになってから。以降、爆発的な強さを盤上に表現し始める。

 「指し手に具体的な評価値が出るのは今までの将棋観からすると革命的で、(勝負のカギを握る)形勢判断を客観的に見られるようになりました。今後も活用していきたいです」

 5月、電王戦で佐藤天彦名人が最強ソフト「ポナンザ」に連敗。コンピューターと棋士が戦う時代は終わり、共存期に移行し始めている。

 「実は自分もポナンザとネットで3、4局指したんですけど、全部負けてしまいました。もちろん負けたくないと思いましたけど、将棋の長い歴史の中でコンピューターと棋士が戦った一瞬に居合わせられたことは良かったと思います」

 第一人者の羽生は、非公式戦ながら14歳に敗れ「すごい人が現れた」と驚き、藤井将棋を「自分の若い頃と比べて完成されています」と評した。

 「もちろん羽生先生に言っていただいたのはものすごくうれしかったです。7冠時代はまだ自分は生まれていなくて、当時の将棋を生で見たかったと思うくらい憧れていますけど、憧れからは抜け出さないといけないと思っています」

 今月から竜王を目指す決勝トーナメント、名人を目指す順位戦C級2組も始まる。まだ初手を指したばかりの棋士人生は無限の可能性を秘める。

 「将棋は深いゲームなので、ものすごく強くなれる余地はあると思っていますし、強い人にしか見えない景色があると思っています。将棋に巡り合えたのは運命だったのかなとは思いますし、強くなることが使命…使命までいくかわからないですけど、自分のすべきことだと思います」(ペン・北野 新太、カメラ・小泉 洋樹)

 ◆里見女流名人にエール「四段昇段の力ある」

 〇…藤井は、報知新聞社主催の女流名人戦のタイトルを持ちながら奨励会三段として女性初の棋士を目指す里見香奈女流名人(25)にエールを送る。「三段リーグで対戦(藤井の勝利)した時、すごく悔しそうな表情をされていたのをすごく覚えています。四段昇段の力はあると思うので重圧を感じずに頑張ってほしいです」と激励した。「女性の空間把握能力は低いという説は間違っていることが科学的に証明されたようですし…」とも。

 ◆藤井 聡太(ふじい・そうた)2002年7月19日、愛知県瀬戸市生まれ。14歳。杉本昌隆七段門下。5歳で将棋を始める。16年、史上最年少の14歳2か月で四段(棋士)昇段。居飛車党。趣味は詰将棋。好物はラーメンなどの麺類。実は俊足で50メートル走の自己ベストは6秒8。身長169センチ。血液型A。家族は両親と4学年上の兄。名大教育学部付属中3年に在学中。

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