[写真]前回に引き続き「憲法と統治機構改革」をテーマに討論した「憲法について議論しよう!」。今回は平成の統治機構改革の意義を中心に議論した
憲法施行から70年にあたる憲法記念日となった5月3日、安倍晋三首相が憲法改正について2020年の施行を目指すと表明しました。国会でも、衆議院の憲法審査会で憲法論議が再開され、憲法改正をめぐる動きが活発化しつつあります。
現行憲法は、70年前の施行から今日に至るまで改正されておらず、この点に着目すれば憲法改正は特別な出来事といえます。一方で、2月に行われた「憲法について議論しよう!(第1回)」でも指摘されたとおり、近年の統治機構改革の歩みを振り返ると、日本では「憲法」の改正自体はなされていませんが、関連法の改正により行政の大きな変革を経験してきました。具体的には、1990年代の選挙制度改革や橋本内閣による行政改革などの一連の統治機構の改革です。
第2回の対談では、行政官として橋本行革に、国会議員として民主党政権における統治機構改革に携わった慶應義塾大学の松井孝治教授、比較政治制度論を専門とする京都大学大学院の待鳥聡史教授、長く日本の統治システムを取材してきた日本経済新聞社の清水真人編集委員、対談を企画したヤフー株式会社の別所直哉執行役員が参加しました。「平成の統治機構改革」やその後の二度の政権交代をどのように評価するかについて、日本の代議制民主主義の構造と他国の構造との比較の視点も織り交ぜながら議論が交わされました。
【第1回】憲法における国会や内閣のあり方は? 「統治機構」をテーマに討論会
「平成の改革」がもたらした行政機構の変化とは?
[写真]小泉氏が取り組んだ「官邸主導の政治」を、民主党政権はより制度的・組織的に担保しようとしたのではないかと問題提起する清水編集委員
前回の議論で実質的な憲法改正に相当すると評された「平成の統治機構改革」とは、主に(1)小選挙区制を導入し、二大政党による政権交代の可能性が付与された「選挙制度改革」、(2)首相主導の政策決定を目指して内閣機能を強化し、霞ヶ関の中央省庁を1府12省庁に再編するなど故橋本龍太郎首相が推し進めた「橋本行革」という二つの主要な改革のことを指しています。
その制度改革の成果は、2001年からの小泉純一郎内閣で本格的に活用され始めました。例えば、小泉内閣では、内閣府の下に設置された「経済財政諮問会議」において、予算編成や経済財政政策の基本方針を「骨太の方針」として定めるなど、官邸主導のリーダーシップを初めて本格的に発揮したのです。
しかし、当時はその政権運営スタイルを小泉純一郎首相の個性による属人的なものと見るか、統治機構改革の成果を活かしたものと見るか、評価が定まっていなかったようです。「その後の自民党政権は小泉首相のような首相主導のトップダウン型の政権運営を踏襲するか、従来の与党主導のコンセンサス重視の政権運営に戻るべきか、迷いながら倒れていったともいえる。政治の側が統治機構改革のもたらした大きな変化をなかなか消化できていなかったのではないか」と清水編集委員は振り返ります。
また、清水編集委員は「小泉首相は統治機構改革の成果に乗った政権運営を個人の才覚でやろうとしたが、これを制度的・組織的に担保してルール化しようとしたのが当初の民主党政権ではなかったか」とも問題提起しました。民主党政権というと、各省庁の予算事業の「ムダ」を洗い出すために行われた「事業仕分け」などのイメージが強いですが、発足当初の民主党政権が目指していた政権運営の改革とはどのようなものだったのでしょうか。