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【全訳】ティム・クック「MITでの卒業スピーチ」|人生の目的を見つける方法は「人のために尽くすこと」

Talk by Tim Cook

PHOTO: JOHN TLUMACKI / GETTY IMAGES

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6月9日、アップルのティム・クックCEOがMITの卒業式に登壇し、学生たちに向けてスピーチをおこなった。その全訳をいち早くお届けしよう。

MITのみなさん、こんにちは! そして、2017年卒業のみなさん、おめでとうございます。

MITとアップルには、多くの共通点があります。どちらも難問に取り組むこと、そして新しいアイディアを模索することが好きです。特に、世界を変えられるような、とてつもなく大きなアイディアを発見するのが大好きです。

「ハック」と呼ばれるイタズラは、MITが誇る伝統のひとつですね。これまでに、数々の見事なイタズラに成功してきました。学生たちが一体どんな手を使ったのか全然わからないのですが、構内に火星探査機を放ったり、ドームにプロペラ付きの帽子をかぶせたり、大統領のツイッターを乗っ取ったり(笑)。あれが大学生の仕業だとわかるのは、大半のツイートが午前3時頃に投稿されるからです。

今日、ここに来ることができて本当に嬉しいです。みなさんには誇るべきことがたくさんあります。

大学を去り、人生という旅において次の段階へと進むなかで、自分にこう問いかけるときがくると思います。「いったい、どこへ向かっているのか?」と。

自分にとっての目的は何か。正直に言うと、私も同じ疑問を抱きつづけ、答えを見つけるのに15年近くかかりました。私が辿った道のりについてお話することで、みなさんの時間を少しは節約できるかもしれません。

私の場合、若いころから悩みはじめました。高校生のときは、「大きくなったら、何になりたい?」という昔ながらの質問に答えられるようになれば、人生の目的を見つけることができると思っていました。でも、そうはいかなかった。

大学生のときは、「何を専攻するか?」という問いに答えられた時点で見つかるかもしれないと思いました。ただ、それでもダメでした。

それなら、いい仕事を見つければいいのではないか。さらに、何度か昇進を果たせば見つかるのではないか──。それでも、答えは出てきません。

答えは、地平線のすぐ向こうに、次の角を曲がったところにあると、ずっと自分に言い聞かせてきました。でも、どう頑張っても人生の目的は見つからない。それが自分にとって本当に苦痛でした。

どんどん成果を挙げようと頑張る自分がいる一方で、「人生って、たったこれだけのことなのか?」と問いつづける自分がいました。

答えを求めて、私はデューク大学の大学院に行きました。瞑想もやってみました。宗教に導きを求めたり、偉大な哲学者や作家の作品を読んだりしました。それから、若気の至りでウィンドウズのPCを試してみたりしたけれど、もちろん効果はなかった(笑)。

紆余曲折を経てようやく、アップルに出会ったのが20年前のことです。当時、アップルは生き延びるのに必死でした。ちょうどスティーブ・ジョブズが会社に復帰したところで、「Think different」というキャンペーンを開始したばかりでした。

彼は、クレイジーな人たちが力を発揮できるようにしたいと考えていました。はみ出し者や反逆者、トラブルメーカー、社会の不適格者。それができれば世界を本当の意味で変えられる、とスティーブにはわかっていたのです。

私は、ここまでの情熱を持つリーダーに出会ったことがなかったし、「人のために尽くす」という強力で明確な目的を持つ会社を見たことがなかった。

「人のために尽くす」

実にシンプルでした。そのとき、15年間の模索を続けてきた自分にとって、何かがしっくり来たんです。

ようやく、すべての方向性が一致した気がしました。やりがいのある最先端の仕事と、崇高な目標の両方を備えた会社との一致。いまだ存在しないテクノロジーによって、明日の世界を書き換えられると信じるリーダーとの一致。そして、自分自身と、より大きなものに仕えたいという心の底の欲求と一致した気がしたのです。

もちろん、これらのことを当時はきちんと理解していたわけではありませんでした。ただ、心理的な負担が消えたことがありがたかっただけです。

でも、いま振り返ると、これが自分の突破口になったのは当然のように思えます。目的意識がはっきりしていないようなところで働いていては、自分自身の目的を永遠に見つけられなかったでしょう。スティーブとアップルのおかげで解放された私は、全力で仕事に打ち込み、彼らのミッションを受け入れ、自分自身のものにすることができたのです。

どうすれば、私も人のために尽くすことができるだろうか。これこそ、人生において何よりも大切で、最も大きな問いです。

自分より偉大な何かを目指して努力していれば、生きる意味、目的を見つけることができる。だからみなさんにも、「どうすれば人のために尽くすことができるか?」という問いを抱いてほしいと思います。

幸いなことに、みなさんが今日ここにいるということは、すでに良いスタートを切っているということを意味しています。MITでは、科学とテクノロジーの力によって、いかに世界を良くできるかということを学んだはずです。まさにここで発見されたあらゆるもののおかげで、何十億人という人々が、より健康的で生産的で、充実した人生を送っています。

そして、癌から気候変動、教育格差まで、世界がいまなお直面する最も難しい問題を解決できるとすれば、テクノロジーがその助けになるはずです。

でも、テクノロジーだけでは解決できません。ときには、テクノロジー自体が問題になってしまうこともあります。昨年、ローマ法王のフランシスコ1世とお会いする機会がありました。私の人生で最もすばらしい会談でした。フランシスコ1世は、国家元首と会うよりも、スラム街で苦しんでいる人々を慰めることに時間を費やすような方です。

驚くかもしれませんが、法王はテクノロジーについて信じられないほどよくご存じでした。テクノロジーについてよく考えているのは明らかでした。それが生み出すチャンス、その危険、そして倫理性。あの日、法王が私に説いていたことは、アップルがとても大切にしていることでもありました。

でも法王は、私たちが互いに懸念していることを、これまでにない印象的な言葉で表現したのです。

人類は、かつてないほど自分たちに対して影響力を及ぼしているものの、それが賢明な形で利用されると保証するものは何もない。

法王はそう言ったのです。

現在、テクノロジーは私たちの生活のほぼすべての面において不可欠なものです。大半は世のため人のためになるものですが、その裏に隠れた弊害は、これまでになく急速に広まり、深く浸透しています。

私たちの安全やプライバシーが脅かされ、フェイクニュースが拡散し、ソーシャルメディアは“反ソーシャル”になっている。互いに結びつけてくれるはずのテクノロジーが、私たちを分断してしまうことさえあります。

テクノロジーは、偉大なことを達成できます。でも、テクノロジーそのものは偉大なことを達成したいと思ってはいない。そもそも、何かをしたいと思っていません。それは、私たちの役割なのです。

必要とされているのは、私たちの価値観、家族や隣人やコミュニティへの献身、美に対する愛、すべての信仰はどこかでつながっているという信念、良識、そして、親切心です。

私は、人工知能によってコンピュータが人間のように思考するようになることを心配したりしていません。それより心配しているのは、人間がコンピュータのように思考するようになり、価値観や思いやりを失い、自分たちが与えうる影響について顧みなくなってしまうことです。

それを防ぐために、みなさんの助けが必要なのです。というのも、「科学」が闇のなかを探索する行為だとすれば、「人文科学」は私たちの過去について教えてくれるものであり、この先に待ち受ける危険を知らせてくれるものだからです。

かつてスティーブはこう言いました。テクノロジーだけでは不充分だ。テクノロジーをリベラルアーツと結びつけ、人文科学と結びつける。それこそがワクワク感を生むのだ、と。

「人」を中心に据えて考えれば、計り知れないインパクトを与えることができます。それによって生まれるのが、目の見えない人がマラソンを走れるようにするiPhoneであり、心臓発作が起きる前に心臓の異常に気づくアップルウォッチであり、自閉症の子供が世界とつながることを助けるiPadです。

要するに、自分が大切にしていることをテクノロジーに込めれば、すべての人にとってより良い世界が築けるのです。

自分の人生で何をするにせよ、アップルがどんな商品を生み出すにせよ、私たち一人ひとりが生まれ持った思いやりをそこに込めなくてはなりません。その責任は甚大です。でも、そこには大きなチャンスもある。

私が未来を楽観しているのは、皆さんの世代を信じているからです。皆さんの情熱、人のために尽くしたいという思いを信じています。誰もが皆さんに期待しているのです。

世界には、皆さんを皮肉屋に変えうるものがたくさんあります。インターネットは、多くのことを可能にし、多くの人に力を与える一方で、良識に基づく基本的なルールが反故にされ、くだらないことや悲観的な考え方が跋扈する場でもあります。

そういった雑音に惑わされないでください。些末なことにとらわれないように、インターネットを荒らす人に耳を貸さないように、そして、決して荒らす側にはならないように。

自分が与えるインパクトを「いいね!」の数で測るのではなく、人生に影響を与えた相手の数で測ること。人気度で測るのではなく、自分が仕える相手の数で測ること。私自身、自分がどう見られているかを気にするのをやめた時点で、人生が豊かになったような気がしました。きっとあなたもそうなります。本当に大切なものから目をそらさないでください。

ときには、人のために尽くしたいという決意が試されることもあるでしょう。あらかじめ覚悟しておいてください。他者への共感など、仕事には関係ないと主張する人が出てくるでしょう。これは前提として間違っているので聞き入れてはいけません。

数年前の株主総会でのことです。ある人がアップルの環境に対する投資と取り組みについて質問してきました。投資利益率が確保されるような環境保護活動にしか投資しないと確約してほしいと言うのです。

私は礼儀正しく振る舞おうとしました。アップルには、障害者のためのアクセシビリティ機能など、投資利益率に結びつかない取り組みが数多くあると指摘しました。それが正しいことだからやっているだけだと。

なかでも、環境保護というのは、非常に重要なことです。でも彼は引き下がりませんでした。私は頭に血が上り、私たちの立場に納得できないならアップルの株を保有すべきではない、と伝えました。

自分の信念が正しいと思うなら、勇気を出して断固とした態度をとるべきです。問題や不正を見つけたら、それを正せるのは自分だけだということを意識してください。これから前へ進んでいくなかで、自分より偉大な何かを築くために、自分の頭と手、そして心を駆使してください。

次のことをいつも思い出してください。これ以上に強力な考えはありません。

キング牧師の言葉を借りると、「すべての人の人生は関わり合っていて、運命という一枚の衣にくるまっている」のです。

皆さんが常にこの考えを念頭に置き、テクノロジーだけでなくその恩恵を受ける人間のことも考え、一部の人ではなくすべての人のために、最高のものを作り、最高のものを捧げ、最善を尽くすなら、人類は今日、大いに希望を持っていいでしょう。

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