2017年6月10日05時00分
司法の独立は民主社会の礎である。その原則も意に介さず、保身に躍起となる大統領のふるまいに暗然とさせられる。
トランプ米大統領に解任された連邦捜査局(FBI)のコミー前長官が上院で証言した。昨年の米大統領選へのロシアの介入は「間違いない」と述べた。
米世論の操作を狙ったとされるロシアの疑惑は解明されるべきだ。だがむしろ、より重大な問題は、米国の統治システムを内側からむしばむようなトランプ氏の身勝手な行動である。
「(疑惑に絡んだ元側近への捜査を)やり過ごしてほしい」「(疑惑という)暗雲を取り除いてほしい」などと再三、コミー氏に要請したという。
自らへの忠誠を迫ったり、自分は捜査対象ではないと公表させようとしたり。証言から浮かぶのは、ひたすら自分とその周辺に累が及ばないように汲々(きゅうきゅう)とするトランプ氏の姿だ。
たとえ正式な「命令」でなくとも、時の最高権力者から直接求められれば、「圧力」と受け取るのが道理だろう。
一連の行動が弾劾(だんがい)訴追の対象となる「司法妨害」を含む違法行為かどうかは、特別検察官によって調べられる。厳正な捜査を尽くしてもらいたい。
一方、司法とは別の立場から疑惑解明を進める責務を負っているのが議会である。ところが今も共和・民主両党に、党派的な思惑から疑惑を扱おうとする動きが目立つのは残念だ。
政権の支持率は4割前後と低迷しているが、共和党支持者に限ればトランプ氏の人気は8割近くとなおも絶大だ。
来年の中間選挙が気になる共和党議員の足元を見透かすように、トランプ氏は、インフラ投資拡大、大型減税、地球温暖化対策の「パリ協定」離脱など、与党で喜ばれそうな施策を次々と打ち出している。
疑惑に苦しむ大統領が自分の座を守るため、支持層の歓心を買う施策に走るならば、深刻な禍根を内外にもたらす。米国が本来、見据えるべき国際協調の視点はいっそう遠のくだろう。
大統領の政権運営をチェックし、暴走を抑えるのは、司法と議会の責任である。大統領が捜査機関への介入にまで踏みだす今、議会の責任は重大だ。
コミー氏につづき、関係者の証言聴取をさらに進め、大統領府と司法・議会が保つべき緊張関係を再確認してほしい。その上で議会は超党派で、大統領に節度ある対応を促すべきだ。
問われているのは、米国自身が世界に呼びかけてきた健全な民主主義の統治である。
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