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【コラム】

筆洗

 一九四五年の夏、英国で大番狂わせが起きた。十年ぶりに行われた総選挙で、保守党がまさかの敗北を喫したのだ▼保守党を率いていたのは、第二次大戦で卓越した指導力を発揮した名宰相チャーチル。彼の名声をもってすれば、愛国心で高揚した国民の支持は固いはず、との予想を覆し、野党・労働党が大勝したのだ▼その背景にあったのは何か。ドキュメンタリー映画『1945年の精神』をつくった名匠ケン・ローチ監督は、それは「誰かを犠牲にして少数の者だけが裕福になるべきではないという考え方」だったと指摘している▼労働党政権は貧困のため病院に行けなかった多くの国民のため、「ゆりかごから墓場まで」と言われる福祉国家を築き、基幹産業の国有化などで労働条件の改善を行った▼そんな歴史を持つ英国の総選挙でまた、番狂わせが起きた。保守党の圧勝かと思われていたが、過半数割れ。「ごく少数の人のためではなく、多くの人のために」と訴え福祉政策の充実や鉄道の国有化などを公約にした労働党が、大きく議席を伸ばしたのだ▼英国を拠点に世界の貧困問題に取り組む「オックスファム」によると、「英国は先進国の中で最も不平等な国の一つ」になったという。そんな状況が生む憤懣(ふんまん)が、EU離脱をめぐる国民投票、そして総選挙で噴出したのか。「1945年の精神」が甦(よみがえ)りつつあるのか。

 

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