カリフォルニア州サンタクララのリーバイス・スタジアムで開催された2016年のスーパーボウル。そのハーフタイム・ショーの途中、スタジアムの真ん中に設置された巨大なDJブースでマーク・ロンソンがスクラッチを始める。カメラが切り替わり、ダンス・クルー、ジャバウォッキーズのメンバーで、フィリピン系のフィル・タヤグを含む四人のダンサーとともにブルーノ・マーズがヒット曲〈アップタウン・ファンク〉を歌い出す。ひとしきりステージを独占したのちに、今度はブラック・パンサーのユニフォームを身にまとった数十人の女性ダンサーを従えたビヨンセが映される。その前日にリリースされたばかりの新曲〈フォーメーション〉のイントロが始まり、アトランタの売れっ子プロデューサー、マイク・ウィル・メイド・イットによる地響きのような低音がスタジアムを揺らす。ステージに上がったビヨンセとブルーノのクルーはダンスバトルを繰り広げ、最終的に二人は舞台中央で睨み合う。阿修羅のような迫力で見下ろすビヨンセと、彼女を見上げながら粋がる様子すらもチャーミングなブルーノ・マーズ。
この、アメリカのエンタテインメント業界において現在、背の高い女性と一緒にいる姿がもっとも似合うシンガーが本稿の主役である。ちなみに主役といえば、この年のハーフタイム・ショーのメインアクトはコールドプレイだったはずだが、そのことを覚えている人はもはや誰もいないだろう。
2016年のスーパーボウルのハーフタイムショー