元中日ドラゴンズ監督、ゼネラルマネージャー(GM)の落合博満氏の講演会に行ってきました。 (2017年6月6日19時〜、神奈川県民ホール)
落合博満氏といえば、中日ドラゴンズの監督就任時には「現有戦力を10%底上げすれば優勝できる」と公言し、大きな補強をせず、解雇もせず、就任1年目で優勝を成し遂げた監督です。
中日ファンの私としても、6〜11年の周期で優勝をしていたのが、落合氏就任の8年間で4回の優勝と、黄金時代を体験させてくれた監督としてとても感謝しています。
3年半、GMをやっていた期間は、落合氏のコメントが出ることはほとんどなかったので、とても楽しみに行ってきました。
講演の冒頭。
「GMになり、球団の中のことを知りすぎた。秘密保持契約(NDA)があるので触れたくない。10年くらいしたら、そんなこともあったかなぁと話すかもしれない」
つづいて、100歳まで生きた父親の話、ロッテ時代の歌手デビューのいきさつ(新宿荒木町のふぐ料理屋「アマミヤ」でレコード会社の人に偶然声をかけられた。ここ?→あま宮 →いつか行きたい!)、稲尾監督解任時の球団批判と取られた話、年俸交渉、トレード、高校、大学、社会人、ドラフトの話、税金の話など。
ここまでで1時間経過。
「そろそろ野球の話をしないと」と落合氏。
話題は当然、6月3日に2000本安打を達成した荒木選手の話から。
本当は最初からこの話をしたかったのでしょう。話すスピードがあがり、スイッチが入りました。
「荒木の2000本安打は自分が一番喜んでいるとおもう。このままでは2000本に到達しないで、荒木が辞めてしまうのではという時期があり、心配していた」とのこと。
以下は、落合氏の怒涛のように続いた野球の話(残り30分のはずが、質疑応答も含めて合計で1時間30分続きました)をテーマ別にまとめてみました。
練習について
- 自分が監督時代に一番練習にまじめに取り組んだのは、荒木、井端、森野
- それ以外の若い選手は全員逃げた。すぐこの場から逃げたいという姿勢だった
- この世界でうまくなろうという選手は、練習量が違う、目の色が違う。朝から晩まで練習していた
- 落合時代は若手が育たなかったと言われたが、若手はみんな練習から逃げていた。
- 野球がうまくなるには、体力勝負。
- 荒木と(蔵本)ヒデノリは、能力は匹敵するものがあった。
- ヒデノリは、体力がなかった。だからレギュラーになれなかった。キャンプになると食べれなくなり、1週間でベルト2つ細くなる。そのような体力では1シーズンもたない。
- 荒木に感謝することは「練習は嘘をつかない」ということを証明してくれたこと
- ソフトボールの宇津木監督に新井良太と若手に名物の高速ノックをしてもらったことがあるが、「迫ってくるものがなくてダメ」と宇津木監督に言われた。新井良太は本当の意味の体力がなかった。ただし空元気はあった。
- 現役時代に王貞治さんに「練習は好きか?」と聞かれたことがある。「嫌いです」と答えたら、青少年に悪い影響を与えるからウソでも「好き」とマスコミには答えてくれと言われた
- ただし、本当は誰よりも練習をやったという自負はある
- 本当の練習は1人でやる練習。そこにどれだけ時間を使えるか。
- チームの連携プレーの練習は必要だからやっているだけで、必要なことは練習ではない
- 今だから練習したと言えるが、周りはライバルなので現役の時は「練習していない」と言っていた。
- 神主打法は、ひじが背中より後ろに入らないように、動作に遊びを入れながら、時間をかけて練習でつくっていった
- 人に与えれた時間は少ない。先のことを考えずに、めいいっぱいやること。そうやってみんな生きてきた。選手のユニフォームがどろんこになれば勝つ確率は高かった。試合が終わってきれいなユニフォームの選手が多い時は負けていた。
バッティング理論について
- バッティングは水もの。答えがない種目。守備、ピッチングには答えがある
- 感覚と実際の動作は違う。ヒッチとコックという動作があるが、川上哲治さんも自分はヒッチしていないと思っていたが、実際はヒッチしていた
- みんなヒッチとコックはやってはいけないと否定するが、ヒッチする予備動作はバッティングに必要
- イチローが苦しんでいる。イチローも年々、この予備動作が小さくなっている。選手は、年齢とともに、スピードに対応するために、若い時より年々動きを小さくする。目が悪くなると前かがみにもなる。それが墓穴を掘ることになる。イチローも動きをまた大きくすれば簡単になおる。
- 中日の平田も同じ。年々動きを小さくしていて、2ストライクになるとノーステップにしている。考えられない。
- バッティングで力を入れてよいのは両手の小指だけ、後は支えるだけ。そのように握り、端から力を入れるとバットが走ってくれる
荒木のプレー、バッティング、守備について
- ファーストのタイロン・ウッズが動かないから、フライもゴロも全部捕れと指示していたが、本当にやっていた
- 森野がファーストに入って「こんなに楽だとは思わなかった」と言っていた
- 荒木は性格がまじめすぎる。荒木には「考えるな、適当に」と伝えていたが、それくらいがちょうどよい
- その性格を反映して、バッティングフォームが堅い。流れるようなスムースさがない。あればもっと早く2000本打てた。一コマ一コマは良いフォームなのかもしれない
- もっと遊びをもって打てと伝えると「はい」と応えるが、次の瞬間にはフォームは変わってない
- 人は自分が意識して動作しても、周りからはほとんど分からないほどしか変化できない
- 大事なのは、どれくらい意識して動作できるかと、それを見てくれる人を探すこと
- 33本しか本塁打を打っていないが、本当は打てるはず。ナゴヤドームのオールスターで「ホームラン打ってきてきて良いですか」と荒木に聞かれたので「いいよ」と答えたら、本当に打ってきた。ホームランを狙わないのは自分が生きるために出した答えなのだろう
指導者について
- 現役時代にさんざん練習して試行錯誤したとしても、引退してから、こうやってればもっとうまくなれたというのが出てくる
- 良い指導者になりたかったら、引退した後にどれだけ勉強するか
- 自分の経験を踏まえて選手を指導する時に気をつけるのは、こうするべきだではなく、こういうやり方もあるよという伝え方をすること
- 例えば、バッティングの呼吸法も吸うのがよいのか、吐くのが良いのか答えは出ていない。それを「吸うのが良い」と言い切ってしまう指導者がいる。それはだめ
- 指導者はみんな大したことない。指導者で大事なことは、人を上手く使える、活用できる人。一緒に動いてくれる人をいかに見つけるか
- 監督をやっているときに一緒にやってくれた人たちは素晴らしい人たちだった。だから一緒にやってくれた、中日の森繁和と西武の辻発彦が戦う日本シリーズを観たい
その他
イップス
- イップスは「ここに投げなければいけない」と意識しすぎると、プロでもなる。
- あの辺に投げておけば捕ってくれるだろうという信頼感があれば、イップスにはならない。だから支え合いが大事
- イップスは心の問題というが、技術があったら心は病まない。そして技術をつくるには体力が必要。それが現役と監督時代の答え。
変化球への対応
- 今の時代、変化球の種類が多い。わざわざ区別しなくても、昔からプロの投手は投げていた。
- 打てない打者ほど、それらを細かく考えすぎている傾向がある
- 10種類ある変化球をコンマ何秒で打てるはずがない
- 右に曲がるか、左に曲がるか、落ちるか、まっすぐか、速いか遅いかくらいでシンプルに考えたほうがよい
バッティングの大事なこと
- バッティングは上から下に重力に従いバットを振りおろすとシンプルに考える。それなら合わせるだけで力を使え、理にかなっている。
- 下から上に少しでも振り上げると余計な力を使っている。
- 上から下にバットを振り下ろし、腰を回転するとレベルスイングになる
今年望んでいたこと、やりたかったこと
- 荒木の2000本安打
- 中日森、西武辻の日本シリーズ
- 野球場で酒を飲みながら野球を観たい。具体的には、プロ野球や高校野球ではなく、東京ドームの都市対抗野球に行って、朝から晩まで3試合、酒を飲みながら観戦したい
最後に
22時を過ぎても話し続ける落合氏に、アナウンサーに時間がないですからと制止されて
「これだけのしゃべりたがりが、良く3年半も黙ってたな」
私の感想・学び
一流になるための練習について
今の仕事に必要な知識だけを学んでいるのは、落合氏に言わせるとチームの連携プレーの練習のようなもので、本当の練習や勉強ではない。
一流になりたいのであれば、自分が描いた一流の姿になるために、人よりも一歩でも二歩でも主体的な練習をする必要がある。
周りの人は優しく、常識的なので「ほどほどに」というかもしれないが、本当にほどほどにやっていたら、二流三流のままである。 一流になれるかは、いかに主体的な努力、人に見せない練習、勉強をできるかで決まってくる。
ほどほどにやり、二流、三流のままやっていると、結局つらいのは自分。一流になれば見える景色も違ってくる。
ただし、一流になるための努力は、周りの人が強制できるものではなく、本人が一流をめざして初めて周りはサポートできる。
一流になるための努力は、体力がないとできない。そのために健康な体をつくっておくことが必要である。
シンプルに考えることについて
バッティングの大事なこと、変化球への対応、イップスの話から感じられたのは、落合氏が野球をシンプルにわかりやすく捉えようとしていること。一流は、ものごとの真理をシンプルに実感し、理解している。
指導者について
「良い指導者になりたかったら引退した後にどれだけ勉強するか」という言葉がささった。
人を指導するためには、その人がいかに勉強しているかで説得力、納得感が違ってくる。
またアドバイスするときには「こうするべきだ」ではなく「こういうやり方もあるよという言い方をするべきだ」という点も、心にとめておきたい
落合博満氏、新刊書籍出版
7月5日に「アドバイス」という落合博満氏著の書籍が出版されるそうです。
2015年3月のBaseball Play Study で「俺の心にぐっときた 野球本ベスト5」というテーマで話しましたが、ランキング1位に「落合本」を紹介しました。ここに一冊加わることになりそうです。とても楽しみです。
Baseball Play Studyでは、他にも以下の発表してます。
これからも野球からいろいろ学んでいきたいです。