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宅配 再配達を減らす“魔法”

ネットショッピングの市場拡大を背景に大手の宅配会社やネット通販会社の間で当日配達の一部取りやめなど宅配サービスの見直しが広がっています。宅配会社側からすれば、人手不足などの事情がありますが、消費者にとっては利便性が失われると感じるかもしれません。

これに対して、早朝と夜間の配達に特化したベンチャー企業が登場しています。荷物を“魔法”のように動かし、再配達を減らしたいという思いを込めて起業したマジカルムーブの武藤雄太社長(36)に話を聞きました。
(経済部・木下健記者)

再配達を減らしたい

マジカルムーブはネット通販専門の宅配会社で、通信大手ソフトバンクの社内ベンチャー制度がきっかけとなって、ことし5月に創業されました。アスクルが運営する日用品などの通販サイトのロハコと提携し、宅配の業務を請け負っています。

配達を請け負うのは、早朝と夜間の時間帯のみ。早朝は午前6時から9時までの1時間刻み、夜間は午後9時から午前0時までの1時間刻みです。実際の配達は、地域ごとに中小の運送会社に委託し、マジカルムーブは全体のオペレーションを行うのが業務です。現在は、ほかのネット通販会社との提携に向けて、協議をしています。

社長の武藤さんは携帯電話ショップの業務管理などを行っていましたが、4年前に社内ベンチャー制度に応募し、事業化にこぎ着けました。現在もソフトバンクの社員として会社に籍を置いていますが、社長業がメインの仕事です。

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Q:なぜ早朝と夜間に特化したのですか。

武藤さん:社名のマジカルムーブは、「まるで魔法のようにすっとものが動いて届く、最適な効率でできる社会をつくりたい、そういうプレーヤーになりたい」と思ってつけました。

利用者の立場で考えたときに、昼間働いていて、自分が帰宅する時間というのはなかなか荷物を受け取れないことが多く、週末に受け取ろうとすると、どうしてもスケジュールがばらつきやすいので、それも大変です。

一方、配達する側も、不在が何回も続いたりして、苦労されているなというのを私もすごく感じていたし、工夫すればきっとなんとかできるというのが起業したそもそもの理由です。

ネットショッピングが増えるのであれば、それに特化した届け方や受け取り方があっていいんじゃないかと考えました。昼間の配送というのは確かに人手不足だと思うんですけど、運送業界の中で宅配はあくまで一部です。運送業界を広くとらえると、朝とか夜に稼働している会社も当然あるわけです。こうした会社のインフラを使えば、キャパシティはまだ十分余裕があります。早朝や夜間の配達を希望する方が非常に多くてニーズがあるんだなと感じています。

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試行錯誤の末に

武藤さんはマジカルムーブを創業する前、別の会社として宅配事業を2年前から手がけていました。その2年間で試行錯誤を重ねた結果、今の会社になったといいます。

武藤さん:サービスを開始した頃は、今と少し形が違って、まずはどこのネットショッピングのサイトでも使える形でチャレンジするのがよいと思いました。ユーザーに会員登録をしてもらって要望に応じて、一度、うちの倉庫で荷物を預かって、朝や夜の時間に届けていました。

どのネットショッピングのサイトでも使えるが、一度ソフトバンクの倉庫に既存の物流を使って届き、そこからまた配送するという”2段階配送”だったため、時間がかかりました。ユーザーは確実に受け取れるが、手間がかかり、コストもかかる。ニーズの強さをしっかり把握するのはよかったんですけど、このやり方がスタンダードになるやり方かと言われれば、なかなか難しいと思いました。

本来であれば、ネットショッピングのサイトを運営する1社1社と提携していくやり方がストレートだろうと思ってそちらに足を踏み出しました。

Q:今後の事業の展開をどう考えていますか。

武藤さん:AI(人工知能)の活用を考えています。今までの宅配のやり方はエリアがあって、そこの担当員がカバーしていますが、もしかしたら、その日の配送、荷物の状況でエリアが広がったり縮んだりして、隣と入り組んだりしたほうが本当は効率よかったりすると思うんです。

しかし、それは、やはりこれまでの仕組みではなかなかできてこなかったと思います。それもAIの技術を使えば、日々エリアを変えたりしていくことも可能だと思いますので、そういった形で効率化を進めれば、より柔軟なサービス、より多くのものを届けることができると感じています。

取材を終えて

武藤さんに大切にしている言葉を聞いたときに、「時代は、追ってはならない。読んで仕掛けて待たねばならない」という言葉を挙げました。”宅配危機”は、一方ではネット通販が広がり、経済が拡大しているという健全な状態を反映したものだとも言えます。危機によって、サービスの低下につながるのではなく、新しい発想で利便性を追求するこうしたサービスが次々と現れることで、経済は成長するという見方もできます。

ニーズがあればそれに応える、それが経済の本来の姿だと感じました。

木下健
経済部
木下健 記者
平成20年入局 さいたま局、
山口局岩国報道室などを経て
現在、情報通信業界を担当