2020年東京大会の経費削減に向けて
<東京都議会自由民主党緊急提言>

 現在、2020年東京大会に向けては、都庁の中では、海の森水上競技場、アクアティクスセンター、有明アリーナのいわゆる都立主要3施設を中心に見直しの議論が進められている。
 この都立3施設の経費削減を図ることはもちろん重要であるが、大会全体としては、組織委員会、国、IOCと協議し、大会そう経費の削減、都・組織委員会・国の役割分担と費用負担の見直しを図ることが、ある意味ではそれ以上に重要とも言える。春先までは関係者間で総経費削減と役割分担の見直しの協議が進められてきたと聞いているが、このところ、総経費についての協議、議論がされているのが明らかでない。
 ここ3ヶ月の議論をすべて否定するわけではないが、危棋を抱かざるを得ない点があることも指摘しておきたい。2020年大会の成功は誰もの共通した思いである。故にも、今後の議論の方向性について現実を直視することを求めるとともに、限られた部分ではあるが、経費削減に向けた我が会派としての緊急提言を行うものである。
 
I 都政改革本部調査チーム報告書のそう経費について

 都政改革本部調査チーム報告書は、大会総費用について、ガバナンスの不在、予算管理の甘さ、などを理由として、3兆円を超える可能性があるとしている。
 しかし、事項と費用を明示できたもの(概算を含む)は、1兆 9640億円〜2兆3640億円でしかない。
 積算上では、下限の場合2兆円を割り込む、上限でも2兆3640億円であることを示していながら、1兆円以上の水増しを行なっている。
 しかも、既に見直しが進められている都立3施設についても、見直しの前の数値のままである。
 最終的に2兆円を割り込む総費用になったとしても、それは現時点でも予測できているレベルであり、知事ないしは調査チームの成果ではない。
 「3兆円超える可能性のある大会総費用」とは、存在しない大きな数字を見せることによって、削減額を大きく見せようとしていると受け止めざるを得ない誇大宣伝である。

 
II 総費用の削減に向けて
 知事がリーダーシップを発揮してIOC、国等と調査し、制度改正を含めた協力を取り付けることが出来れば、以下の項目に関しては、全体経費の削減、都負担の軽減が可能であると考える。
1)セキュリティ
 立候補ファイルでは、セキュリティ要員として民間警備員1万4千人を計上しているが、自衛隊に協力要請することにより、民間警備員を大幅に縮減でき、セキュリティレベルも格段に向上させることが可能となる。
 大会時は、ターミナル駅、宿泊施設等でも民間警備員の需要増が見込まれることからも、直接の大会運営に多数の民間警備員を抱え込むべきではない。
 調査チーム報告書では、セキュリティ経費を2〜3千億円と試算しているが、自衛隊の協力を仰げば大幅な減額が可能である。さらに場合によっては、地域事情に精通した消防団等の各種ボランティア団体の自主的な参加も実現できれば、更なるセキュリティレベルの向上が期待できる。
※ 国との協議、消防団等への協力要請が必要
2)公共交通機関利用の無料化
 立候補ファイルではチケット購入者に対して公共交通機関の無料化を示しているが、本件については、組織委員会の現金し支出が発生しない取り扱いとすべきである。すなわち、各公共交通機関の協力を仰ぎ組織委員会の負担なく無料化を実施するか、協力が得られない場合には無料化そのものを中止する交渉をIOCと行うべきである。
※ 各鉄道会社の協力あるいはIOCとの協議が必要
3)営業補償
 東京国際展示場、東京国際フォーラム等の既存施設は大会期間中競技会場等として施設を提供することにより通常の営業が中断することになるが、原則として営業補償しないことで全体の経費圧縮につなげる。
 首都高速道路も、オリンピック専用レーンを設けた場合には交通量が減少し逸失利益が発生するが、社の内部努力で吸収してもらうこととし、組織委員会または都からの補てんは行わないようにする。
※ 各施設管理会社、首都高速(株)との協議が必要
4)予備電源の簡素化
 立候補ファイルでは、全ての競技会場に仮説の予備電源装置を設置することとしているが、日本の電力事情は先進国の中でも抜きんでており、過去の開催都市と比べ、東京の停電リスクははるかに小さい。IOCの規定により予備電源が義務付けられているが、交渉により予備電源の簡素化・代替措置化を図るべきである。
※ IOCとの協議が必要
5)国庫補助金の導入
 都が恒久施設として整備している海の森ボート競技場、有明アリーナ、アクアティックセンター3施設をはじめ、都立施設には国庫補助金が投入されるスキームとはなっていない。しかし、長野オリンピックでは競技施設への補助が特別措置として認められている。総経費の圧縮とは別問題であるが、都と国の役割分担の適正化の観点から、都立恒久施設にオリンピックパラリンピックに限った特別の国庫補助を入れるべきである。
※ 国と協議が必要
6)新たな増収策
 歳出の削減と並んだ新たな歳入確保にも取り組むべきである。一例として、チケット販売額の上乗せを提言する。
 オリンピック大会のテレビ中継を見ていると、しばしば観客席の最前列部分に特に多くの空席を目にする。そこはIOC委員等のVIP専用席であると思われるが、過去の観戦実績などを参考にVIP席を出来るだけ縮小し、一般客への有料席として売り出すべきである。
 また、チケット購入後、購入者の都合によりキャンセルされる場合があるが、そのような座席は購入者から販売元(組織委員会等)に返却してもらい、当日券として売り出す。そして売却できた場合には、その購入者に一部返金などの工夫を施すことで、より多くの観客動員とチケット売上を目指す。さらに競技開始後の空席についても、たとえば競技開始30分以降は自由席として販売するなどで、さらに多くの観客動員とチケット売上を検討すべきである。
※ IOCとの協議が必要
 
III 競技施設について

1)ボート・カヌー競技
 ボート・カヌー競技場については、長沼案が提案され、現在も検討中である。当初はコスト削減を理由に検討を開始したが、途中から、長沼会場の意義として「復興五輪としてのレガシー」が一部で語られるようになった。これは、コスト比較では長沼の優位性が無いことが明らかになってきたためと推測されるが、復興五輪を持ち出すことは論点のすり替えであり、あくまでも経費面からの比較により結論を導くべきである。
 なお、復興五輪については、若者の競技人口の多いサッカー、野球の予選を実施すること、聖火リレーを巡回すること等、様々な工夫によってその意義を果たしていくことができると考える。

2)ビーチバレー競技場
 ビーチバレーは、潮風公園での仮設開催となっているが、潮風公園では、岸壁の強度不足を指摘する向きもある。仮に岸壁の補強が必要になれば経費の増加要因となるので、その場合は、経費節減をはじめとする総合的観点から、会場の変更も含め現計画を抜本的に見直すべきである。
 
IV 結びに代えて
 殊更に言うまでもなく、平和の祭典オリンピック・パラリンピック大会は世界最大のイベントであり、その開催は、都市にとって大きな名誉、喜びとなる。巨大イベントであるが故に、道を誤れば都民に大きな負担とダメージを残す危険も伴うが、成功に導けば、その後長年にわたり有形無形のレガシーを残すことができる。
 前回の東京大会では、広く知られている新幹線や首都高速道路の整備、高度経済成長の実現だけでなく、デジタルクオーツや衛星中継の新技術、ピストグラム(絵による単純化したトイレ、非常口などの表示サイン)のようなアイデアが出現した。
 コスト削減は大事だが、同時に成熟した都市として何を残すかを議論し、トータルとして大会の価値を最大化することが大切である。大会開催経費の中には、新国立競技場、都立恒久施設の建設経費など後利用を前提とする経費が含まれる。大会後にどう活用されるのか、その状況次第で施設整備費は、高くも安くもなる。
 また、オリンピック・パラリンピック大会は、アスリートにとって最高のパフォーマンスを発揮する場であるだけでなく、最先端技術の実証実験の場ともなり得る。IOT,AIなどの新技術は、通信、セキュリティなど大会運営を通じて新技術の開発が大いに期待できる。こうした新技術に積極的、付加的な投資を加えることは、開催経費を増加させる方向に働くが、将来何倍もの投資効果を生み出す可能性があり、投資判断に当たっては、大会期間中の費用だけでなく、長期的視点に立つべきである。
 いま必要なことは、責任を取れない立場にある人々がまとめた、半ば思い付きであるとしか思えないような中途半端なレポートをIOCに渡すことではなく、責任ある関係者が同じテーブルにつき、知恵を出し合いながら経費削減、その他山積みする課題への対応策を取りまとめることである。
 先般、神奈川県知事は「基本課題が未解決となっているのは異常事態」と協議の遅れを批判したが、競技を受け持つ地元自治体としては当然の心配である。このような事態を招いた責任の過半は東京都にあることを小池知事は自覚し、真摯に対応すべきである。
 「都民の与党」である東京都議会自由民主党としては、都知事にスタンドプレーではなくチームプレーに徹することを強く求めて、緊急提言の結びとする。
平成28年11月28日
東京都議会自由民主党