「テロ等準備罪」を新設する組織的犯罪処罰法改正案が5月23日、衆議院本会議で可決された。本稿が公開されるころには、参議院での審議が続いているだろう。
周知の通り、この改正案に対しては、法案の中身や審議の進め方に対して様々な批判が寄せられ、所管大臣である金田勝年法相の答弁能力や資質も疑問視されている。そうした論点の全てについて議論を展開することは私の能力を超えるが、武力紛争やテロリズム(テロ)などアフリカの安全保障上の課題を取材・調査してきた者の目から見た改正案の疑問点を書いておきたい。
私はアフリカのテロ組織などの調査に関わってきた経験から、本気でテロを防ごうと思うのならば、通信傍受(電話盗聴やメールの監視)や「テロを起こす疑いのある人物」に対するGPSによる行動監視などに踏み切らざるを得ないと考えている(もちろん、捜査当局による権限の乱用は必ず発生するだろうから、様々な歯止めが必要である)。
しかし、この改正案には疑問を感じずにはいられない。私の疑問は「テロ等準備罪」の新設を柱とする法律であるにもかかわらず、改正案の中で「テロとは何か」について定義していない点である。
例えば、2014年12月に施行された特定秘密保護法は、国家の安全にかかわる重要情報の取扱者(政府職員)が「テロ」と無関係であることを調査する必要性に言及したうえで、「テロ」とは何かについて、第12条第2項第1号で、次のようにきちんと定義している。
「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう」
私が「テロの定義」にこだわるのには理由がある。それは、テロには万人が納得できるような統一した定義が現状では存在しないため、法の運用者(日本政府)が「何がテロで、何がテロではないのか」について責任をもって定義したうえで法の執行に当たらなければ混乱が予想されるからだ。