アプリ開発者にとっては最高の教科書。
Apple(アップル)初のオリジナル番組『Planet of the Apps』の第1話が公開になりました。これはApple Musicにて毎週公開される動画コンテンツで、日本からも視聴可能です(日本語字幕はまだ)。
番組ミッションは、次世代のアプリスター・アプリアイデアを発掘。初回を見た感想としては、「面白いけれども、目が離せないほど面白くはない」という感じ。ただ、視点を変えると期待したくなる理由もありまして…。詳しいところは後回しにして、まずは番組全体の構成を第1話あらすじを踏まえてざっと解説。ネタバレあります。
番組の流れ
番組に登場するアプリ開発者(チーム)は、まず4人の番組審査員にスタジオでプレゼンします。審査員は、女優のグウィネス・パルトローさんとジェシカ・アルバさん、歌手であり多くのテック系プロダクトも手がけるウィル・アイ・アムさん、そしてVayner MediaのCEOであるゲイリー・ヴェイナチャックさん。進行役にBeats 1などでDJを行なうゼイン・ロウさんが出演します。最初にアプリをプレゼンする時間は60秒以内。4人全員がREDサインをだせばそこで終了となりますが、内1人でもGREENサインをだせばさらにプレゼンを続けることができます。
さて、この番組の面白いところは、番組審査員=アドバイザーになるというところ。プレゼン終了時にGREENを出している審査員の中から、開発者が一緒にプロジェクトを進めたいと思うパートナーを選びます。ここから、開発者とアドバイザーが協力しアプリを練りこみ、プレゼン本番とも言える6週間後のベンチャーキャピタル(VC)へのプレゼンへ向けて準備します。番組に登場するVCは、Snapchatへ投資したことで知られるLightspeed Venture Partners。Lightspeedへのプレゼンが上手くいけば、最大1,000万ドル(約10億円)の資金が提供されます。さらに、アプリストアでの特集も獲得。アプリ開発者には、まさに夢の企画です。ちなみに、番組に登場するアプリはすでにリリースされており、ユーザーもいます。すでに他所から資金提供を受けているチームもあり、アイデアのみの0スタートではありません。アプリリリースではなく、あくまでもスターを目指すのが目的。
というわけで、アドバイザーの4人へミニプレゼン→合否からのアドバイザー選び→6週間の準備期間→VCへのプレゼン。これが『Planet of the Apps』1エピソードの流れで、1話完結型です。
第1話あらすじ
記念すべき第1回目で、見事VCへのプレゼンまでこぎつけたアプリは2つ。1つ目は、Andrewさんが作るARインテリアデザインアプリの「Pair」、アドバイザーはジェシカ・アルバさん。Pairは、自分の部屋に、どの家具をどう配置するのかをARを使ってお試しできるアプリ。しかし、ジェシカさんがアドバイザーに加わってからの6週間で、インテリアアプリはあくまできっかけであり、会社のメインプロダクトはARを作るために配布するSDKにあるとアピールポイントを方向転換します。このSDKがあれば、消費者だけでなく、企業がモックアップなどを制作するのにも使えるというわけ。また、ユーザーがつくったマップの権利を会社が保持するという点でも、VCを引きつけます。しかし、会社の方向性やビジネスモデルがいまいち明確ではないとVCからの返事はNO。
2つ目は、Jakeさん・Anionさんが手がけるセキュリティアプリ「Companion」、アドバイザーはゲイリーさん。Companionを一言で説明するとしたら、バーチャルで「家まで送っていくよ」ができるサービスとでもいいましょうか。夜道などでの1人歩き対策セキュリティアプリであり、家に無事つくまでの間、家族や友人に地図上でモニタリングしてもらうというもの。ユーザーに何かあれば(急に走り出す、倒れるなど)ユーザーの端末からはアラート音が鳴り響き、チェックを頼んだ相手の端末には通知が飛ぶという仕組みです。さて、Companionチーム最大の壁は、Google(グーグル)が類似サービスをだしてきたということ。アドバイザーのゲイリーさんに発破をかけられ、友人や家族がウォッチする無料版に加え、プロのセキュリティ会社がウォッチする有料版「Comanion Plus」をひっさげてVCプレゼンに挑み、見事100万ドルの資金提供を獲得!
感想:面白いけど、毎回見るかと言われると…
あくまで個人的な感想ですが、期待よりは面白かったです。テンポの良さはさすがアメリカのテレビ番組、グダグダ一切なし! 予告編を見たときは、タレント発掘人気オーディション番組『America's Got Talent』のアプリ版という印象が強かったのですが、メインとなるのは発掘のその先=VC準備&プレゼンで、ここ(特に準備期間)が盛り上がれば盛り上がるほどその回は面白くなることでしょう。ただ、技術への理解や、アイデアの広がりを先読みするのが普通の人には困難なので、歌やダンスやファッションのようにわかりやすい「ワオ!」がアプリ開発にはありません。
また、第1話に限った話ですが、リアリティTVに最も期待されるドラマ(=派手な衝突や涙、うらぎりなど)がほぼないというのもあります。そういった意味では、エンタメとしては弱い。かといって、ドキュメンタリーほどの硬派さはやっぱりない(30歳を超えたあたりから、ドキュメンタリーにはぐっと引き込まれる不思議な力を感じます。土日の昼間にテレビつけてて急に始まったNHKのドキュメンタリーに釘付けになるあるある)。これを、エンタメとドキュメンタリーの上手いバランスと見るか、どうにも中途半端を見るかがビミョーなところ。
思ったよりは面白かったけど、Appleの番組キャッチコピーにある「目が離せない面白さ」はまったくない、ですかね。正直、やってたら見るけれど、ながら見でもいいし、見逃したら見逃したでいいかなーって感じです。アプリ開発に興味がない人ならば、これはなおさらでしょう。
しかし、別の視点で考えると非常によくできた番組なわけで…。
アプリ開発者にとっては最高の教科書
もし、この番組におけるAppleの狙いが、高視聴率やApple Musicメンバー増加ではなく、アプリ開発者増加・育成にあるのだとしたら、大成功だと思います。番組の流れは、まさにアプリ開発者がヒットアプリを生み出すまでに通る道そのもの。すでに、ビジネスとしてアプリ開発をやっている人には、聞き飽きた言葉や流れかもしれませんが、これからの人たちにとっては勉強になることがつまっています。限られた短い時間のプレゼンで「もっと聞きたい」と思わせる魅力的な解説、協力してくれるアドバイザー選びの重要さ、ビジネスの方向性、各種数字(ユーザー数やダウンロード数、伸び率、コストなど)の意味、大企業との張り合い方などなど。アドバイザーやベンチャーキャピタリストたちの質問内容も、アプリ開発者ビギナーにとってはメモしたいポイントでしょう。お金お金お金…。夢がないとアプリスターにはなれません。でも、夢だけあってもなれません。
Companionチームに対して「素晴らしいアイデアだし、ぜひ使いたい。子どもを持つ母親としてはとてもありがたいアプリ」と絶賛するも、パートナーとして何ができるかわからないと理由でグウィネス・パルトローさんがGREENからREDに変更、手を引いた場面がありますが、アプリ開発者はこのような場面に何度も直面するのでしょう。「いいアイデアだけど、協力できることはない」ってね。また、VCプレゼンでの「よく知らない技術を理解しようとするのが僕たちの仕事。しかし、よく理解できないのは、君の説明の仕方に問題があるのかもしれない」という言葉は、なかなかグサっとくるものがあります。
この番組を見たことで、アプリ開発ビギナーが、アプリを生み出すプロセスを勉強したり、想像したりできるならば素晴らしい。アプリ開発者が増え、より優れたアプリがでてくればAppleにとってこれ以上の番組の成功はないでしょう。将来的に『Planet of the Apps』を見たのがキッカケなんてことを言うアプリスターがでてくれば、嬉しい悲鳴があがるでしょうね。
そう考えれば、広くウケるエンタメの面白い番組である必要も、みんな大好きなドラマが必要なこともなく、これからのアプリ開発者が開発プロセスをイメージできる番組であればいいわけで。とすると、これはとてもいい番組という感想に変わります。
本番は来年?
今年のWWDCを踏まえると、『Planet of the Apps』への期待は高まります。今年のキーノートのオープニングはアプリに関するコメディ動画でした。今まで以上にアプリ開発者がクローズアップされ、App Storeも初リニューアル、来年のアプリストア創設10年という節目にむけて盛り上げているという印象をひしひしと受けました。『Planet of the Apps』も、アプリストア10年を彩る1つのパーツなのだとしたら、期待すべきは来年のシーズン2なのではと思ってしまいます。まぁ、そこまでドラマ、VCとのやりとりにパターンがあるのかなど不安要素はありますけれど。そもそも、シーズン2があるのかすら知りませんけれど。でも期待せずにはいられない、来年の展開に…。
『Planet of the Apps』第1話は期間限定で無料配信されていますが、第2話以降毎週公開される新エピソードはApple Musicメンバーのみが視聴可能です。
(そうこ)