<メディア時評>タブーを恐れるな=安冨歩・東京大東洋文化研究所教授
私は日ごろ、テレビも見ないし新聞も読まない。それはひとえに、つまらないからである。1996年から1年半、私はイギリスに留学し、そのテレビと新聞とに魅了されてしまった。日本に比べて知的で刺激的で挑発的で遊び心に満ちており、とてつもなく面白く感じたのである。例えばBBC2の当時のキャッチフレーズは「私たちはタブーを恐れません」というもので、実際、さまざまなタブーに挑戦していた。
帰国して私は文字通りがくぜんとした。日本のテレビと新聞とが、耐え難いくらいに退屈に見えたからである。理由は明らかでタブーにおびえているからである。今回、メディア時評を担当して実に20年ぶりに新聞を毎日読むようになったのだが、感想は以前と変わらない。いや、メディアのそんたくぶりは、一層ひどくなっている。
この知的貧困が集中的に表現されているのが、テレビ欄である。例えば5月12日朝刊で紹介された番組は、「金曜プレミアム さよなら!おばさんデカ桜乙女の事件帖ザ・ラスト」と「金曜ロードショー 全国好きな嫌いな女性アナウンサー大賞2017」である。タイトルを書くだけで恥ずかしくなる。後者は女性を商品化して消費する典型的な劣悪番組であることがタイトルから明らかだが、それを次のように紹介する。「全国各地から総勢50人の『○○過ぎる』肩書を持つ女性アナウンサーが集合、『最も愛すべき女子アナナンバーワン』を決めるスペシャル。『ぽっちゃり過ぎる女子アナ』『美人過ぎる女子アナ』『バブリー過ぎる女子アナ』『運動音痴過ぎる女子アナ』などが登場する」
よくぞこんな文章を平気で書き、何百万部も印刷するものだ。これだけ番組があれば、骨のある低視聴率番組が一つや二つはあるであろうに。それに光を当てないで、こんなちょうちん持ちに終始していれば、新聞に未来はない。
どうか毎日新聞はタブーを恐れないメディアになってほしい。そういう新聞がなければ、日本は早晩、滅んでしまうであろうから。(大阪本社発行紙面を基に論評)
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