【保存版】引越し時に必ず覚えておきたい!自分で敷金を返還させる全手法
原状回復義務ってなに?敷金をトラブルなく返還してもらうための交渉術
そもそも敷金とはなに?
入居中に大きな汚れや傷みが無ければ、敷金は借主に全額返金されるお金です。そのため、返金されると思っていたのに、退去時に敷金返還の見積書を貰ってビックリしている人も多いのではないでしょうか。
まずは敷金について正しい知識を得て、交渉の糸口を探しましょう。
敷金とは
敷金は入居時に預ける担保金です。入居中に家賃を滞納したり、部屋を汚したり壊したりした場合の修繕費に充てられます。あくまでも預けているお金なので、普通に生活しているだけなら退去時に返還されるお金です。
賃貸借契約上は、借主は部屋を「原状回復」して返却する義務があるとされています。家主の財産を守るために、民法619条で設置を定められているのが敷金という訳です。
※民法619条より引用
「賃料その他の賃貸借契約上の様々な債務を担保する目的で賃借人が貸借人に対して交付する停止条件付きの返済債務を伴う金銭」
ただ、いくら原状回復が義務付けられているとはいえ、物件は年数が経つと少しずつ劣化してくるものです。人が生活している以上、全く部屋を傷つけないことは不可能なので、退去時の敷金返還トラブルへと発展するケースも増えています。
原状回復義務はどこまで?「通常の使用」で別れる見解
では、借主が負うべき原状回復義務はどこまでという基準があるのでしょうか。国土交通省では「原状回復を巡るトラブルとガイドライン」が設定されており、「通常使用の範囲内での劣化や汚れについての修理費、掃除費については基本的に貸主や負担する」と明記されています。
そのため、普通に生活している限り、敷金は全額返金されるものと考えられます。しかし、ここで「通常使用の範囲内」がどこまでかという点で見解が別れるのです。
通常の使用とは
一般的に定義付けすることが非常に困難です。区分として、賃借人が通常の住まい方をしていても発生すると考えられる損害は家主負担、賃借人の住まい方次第で発生したりしなかったりする損害は賃借人負担とされています。つまり、故意や過失などのミスによる故障や汚れがない状態は「通常の使用」と認識されていることになります。
借主が負担するかどうかは、故意・過失があるか否かで別れる
敷金から差し引かれる名目としては、主に修理費と掃除費、ハウスクリーニング費用などの項目があります。しかし、これは無条件に敷金から差し引かれるものではなく、時間が経過すれば当然発生する傷や汚れは家主が負担すべきものです。
逆に家主が無条件に全ての修理費や掃除費を負担しなければならない義務もありません。どちらが負担するかは傷や汚れの原因に故意・過失があったか否かで決まります。故意・過失があるかどうかについては、傷や汚れの原因から客観的に判断されます。
では、敷金が返還される可能性があるものと難しいもの、それぞれの傷や汚れの具体例をご紹介します。
返還される可能性がある具体例
- ○床
- 自然光によるタタミ、フローリングの変色
- フローリングのワックスのハゲ
- ○天井
- ポスターなどによる画びょうの穴
- クロス剥がれ(長年使用によるもの)
- タバコによる、軽度のヤニの付着
- ○壁、柱
- ポテレビや冷蔵庫など、家電製品跡の黒ジミ
- ポスターを貼っていた部分の日焼け跡
- 手垢の付着
- エアコン設置の際にできた壁穴
- ○その他
- 網戸の日焼け
- 地震などの自然災害によるガラス割れ
- 通常使用による排水詰まり
- 経年劣化による漏水
返還が難しい場合の具体例
- ○床
- 家具移動による床の傷
- 家具や家電設置による床の傷やヘコミ
- タバコの焦げ跡
- 飲食物のシミ
- ○天井
- 釘やネジの穴
- タバコによる、重度のヤニの付着
- キッチン天井の油
- ○壁、柱
- タバコのヤニによる変色
- ペットの引っかき傷
- 飲食物のシミ
- クロスの破れ
- ○その他
- 鍵の紛失
- ペットの引っかき傷
- 障子の破れ
- ガラス割れ
- ガ水回りの水垢、カビ
居住年数で借主負担の割合が変わる
さらに、故意・過失があったとしても、原状回復義務による借主の負担額は居住年数によって変わります。なぜなら、建物の価値は時間が経つにつれ下がるため、残存する価値の部分を負担する義務があるからです。
基準は6年!長く住むほど負担義務が軽くなる
全ての物には耐用年数があり、それを超える年数が経過したら価値が無くなります。原状回復の基本はたとえ故意や過失で壊したとしても、その物の「残った価値」を精算すれば良いことになっています。
国交省ガイドラインによると経過年数を踏まえた負担割合は、居住後6年を経過するとほぼ無くなります。判例によると、項目ごとにガイドラインに従って残存価値が何%であるかを算出し、実際の修繕に掛かった費用にそのパーセンテージを掛けて負担額を出します。
残存価値と修繕費用の計算式
残存価値割合=1-(居住年数(○ヶ月)÷耐用年数(○ヶ月))
例えば、クロスの耐用年数は6年です。3年居住した場合の残存価値は、1-(36ヶ月÷72ヶ月)=50%になります。クロスの張替え費用が50,000円の場合、50,000円×残存価値50%=25000円が借主の負担になります。
設備によって設定されている耐用年数は異なります。注意しなければならない点として、もしも入居中に交換した場合は交換時から耐用年数を計算するということです。修繕する部分をそれぞれ計算し、総額を敷金から差し引かれることになります。
リフォーム費用そのものが相場よりも高い場合もあるため、各設備の耐用年数と相場から計算する方法を知っておくと交渉時に役立ちます。
ローカルルールに注意!入居時には契約書の確認を
敷金自体は法律で設定されているものですが、基準となるガイドラインは法律ではありません。そのため強制力が無く、自分と異なる解釈で対応されることも珍しくありません。
たとえば、関西と関東では敷金の取り扱いも微妙に異なります。関東では敷金の他に契約時に礼金という返却されないお金が必要になりますが、関西では礼金が無く敷金から引かれる「敷引き」という慣習です。関東から転勤で関西に部屋を借り、退去時に返却されると思っていた敷金が敷引きの契約だったというトラブルもあります。
そのため、賃貸借契約を締結する前に必ず契約書を確認することが大切です。敷金の取り扱いや、原状復旧や通常使用に関する特約が付いているケースもあります。地域によってはローカルルールが存在する場合もあるため、不明確な表記がある場合は納得できるまで確認することがトラブル回避のコツです。
敷金を返還してもらう手順
以上の内容を踏まえて、もしも退去時に納得のいかない修繕費や清掃費を差し引かれた金額の見積もりを渡された場合は、段階を踏んで抗議しましょう。
1、家主や不動産業者へ連絡
まずは見積書を送付してきた先、つまり家主さんや不動産業者に電話かメールで納得がいかないことを伝えます。修繕内容が見積書から分からない場合は説明を求めます。不動産業者に連絡しても返還されない場合、不動産業者の怠慢で要求が家主さんへ連絡されていないケースもあります。
その時は家主さんへ直接連絡してみるといいでしょう。
問い合わせの際には、「要求されている修繕費は、国交省のガイドラインによると貸主負担の指針が出ている」と返還の根拠を明確に示すと説得力があります。
2、内容証明を送付
話し合いによる返金が難しい場合、内容証明郵便を送付して敷金の返金を促します。内容証明郵便は郵便局が「誰が、誰宛に、いつ、どんな内容の手紙を出したか」を公に証明してくれます。
内容が真実であることを証明するものではありませんが、受け取った相手にプレッシャーを与える効果があります。書式も通常の手紙ではないので、法的な効果があるように受け止めて真摯に内容を受け止めてもらうことができます。
3、少額訴訟
内容証明を送付しても返還手続きが取られない場合、最後の手段として少額訴訟があります。60万円以下の金銭請求に限り手続きが簡略化され、従来よりも短期間で判決を受けることができる訴訟です。/p>
- ○訴訟の流れ
- 訴状を作成し、裁判所に提出
- 審理期日が決定し、裁判所の書記官から指示を受ける
- 相手側の書類を受け取る
- 裁判所で審理を行い、判決を受ける
審理は1回限りなので、事前に準備してある証拠書類が判決に大きな影響を与えます。賃貸借契約書や敷金返金の見積書、争点となっている部分の写真は必ず用意しましょう。
4、敷金返還代行業者に依頼しても
もし、手間を掛けずに敷金返還請求がしたい場合は、代行業者に依頼するという方法もあります。敷金返還が成功した場合に成功報酬を支払い、返還や減額に成功しなかった場合は報酬が発生しない成功報酬型、返還の可否に関わらず一定額の報酬が発生する定額型の2パターンがあります。
内容証明の書類を作成、送付し、先方の対応に応じてサポートしてもらうことができます。分からないことは気軽に問い合わせることができるため、忙しくて返還手続きができない人におすすめです。
最後は大家さん、不動産業者との信頼関係
内容証明郵便や少額訴訟については、準備する書類も多く手間が掛かります。そこに至るまでに円満に解決するためには信頼関係と居住中の傷や汚れについての対処が大切です。
居住中は室内を汚さないことが1番ですが、生活している以上は汚れてしまうのは仕方ありません。大切なのは汚してしまうことよりも、汚した後の対処を行っているかどうかです。借りた部屋をキレイに使っているかどうかは、室内の状況を見て判断されます。仕方ないからと放置せず、適切な対処を行っていれば家主さんや不動産業者との信頼関係に繋がります。<
また、部屋を引き渡す時は室内を掃除しておくことで部屋の印象が変わります。思った以上にキレイと思ってもらえるだけで、敷金に影響が出ると心掛けましょう。自分で出来る範囲の掃除は必ず行ってから退去することが大切です。
「部屋をキレイに使ってくれていた」という信頼を得ることができれば、何らかの行き違いがあっても大きなトラブルに発展しません。円満に解決するために、最も頼りになるのは相手との信頼関係と心掛けましょう。
もめない事が一番!契約前にはよく確認を!
賃貸物件を借りている以上、敷金の返還は誰もが通る道です。トラブルの原因として多いのは、ハウスクリーニング料金とローカルルールです。まずは敷金というお金の性質を知り、賃貸借契約書をよく確認しましょう。
全額返金を求めるには強い気持ちで主張することが大切ですが、家主さん、不動産業者との信頼関係を築ける対応を心掛けてトラブル無く解決しましょう。