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 中東のペルシャ湾岸地域が、にわかに混迷している。

 世界有数の天然ガス産出国であるカタールに対し、世界最大級の産油国サウジアラビアや、アラブ首長国連邦など近隣国が国交の断絶を表明した。

 資源経済の豊かな湾岸諸国の間で、ここまで対立が深まるのは異例の事態である。

 緊張がさらに高まれば、エネルギー資源の市場の動揺や金融取引の混乱など、世界経済への影響が心配される。

 「カタールがテロを支援している」とサウジは批判しているが、実際には対岸の大国イランの問題が背景にある。

 アラブの盟主を自任するサウジは、イスラム教シーア派のイランと長年反目しており、昨年断交に踏み切った。

 一方、カタールは海底のガス田をイランと分け合っている。サウジと同様、スンニ派の親米国ではあるが、イランとの関係も重視せざるを得ない。

 そうした立場の違いが一気にこじれたのは、トランプ米大統領が先の中東訪問の際、性急な政策を打ち出したからだ。

 「親イラン」「反イラン」に中東を実質的に分断し、イラン包囲網を築くとの強硬姿勢である。その波紋が続くなか、カタールの首長が国内で「イランは地域にとって重要だ」と発言したと報じられ、それにサウジが反発して断交したとされる。

 トランプ氏は関係国に自制を求めるのが本来の役目だ。ところがツイッターでカタールを非難し、対立の火に油を注いでいる。大国の責任を忘れた軽率なふるまいというほかない。

 カタールには、米空軍の中東最大の基地がある。ここが過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦の拠点でもある。イランの首都テヘランではきのう、不穏な襲撃事件もおきた。

 中東全体の混乱拡大を防ぐために、米国は早急に姿勢を改め、地域の安定化に有効な政策を発信すべきだ。仲介に動き出したトルコやクウェートなど地元の外交努力にも期待したい。

 日本は原油の3割をサウジから、天然ガスの2割弱をカタールから輸入している。政府は推移を見極め、事態の収拾へ何ができるか模索してほしい。

 今回の混乱が示すのは、大国のイランを封じ込めようとすれば、かえって中東を不安定化させるということでもある。

 40年近くイランと断交したままの米国は、正確な中東の見取り図を描けていないのではないか。イランと外交関係を維持してきた日本は、このことを米国にしっかり伝えるべきだ。

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