ソフトバンクの純利益がとうとう1兆円を超えた。純利益で1兆円を稼ぎ出す日本企業は、トヨタなどごく限られている。ソフトバンクは名実ともに日本を代表する会社となったわけだが、今回の決算はそれ以上の意味を持っている。もしかすると同社は日本で初めて、本当の意味での「世界企業」に成長できる可能性が見えてきたからだ。
ソフトバンクが発表した2017年3月期の業績は、大きな驚きを持って受け止められた。売上高はほぼ横ばいの8兆9010億円だったが、当期純利益は前期比約3倍の1兆4263億円となった。同社の純利益が1兆円を超えるのは初めてのことであり、日本において純利益が1兆円を超える企業というのはトヨタなどごくわずかしかない。
ソフトバンクは投資会社でもあることから、純利益1兆円超えは投資収益による瞬間風速だと思った人も多いかもしれない。
確かに当期利益の中にはゲーム会社であるスーパーセルの売却益5265億円などが含まれているが、最大の要因は本業の通信事業が好調に推移したことである。つまり今回の好業績は、実業によるホンモノの儲けということになる。
事実、本業による儲けを示す営業利益は、前年比12.9%増の1兆259億円。携帯電話を中心とする国内通信事業が好調で、部門利益は前期比4.5%増の7196億円になった。
なかでも注目すべきは、同社によって最大の懸案事項だった米スプリントの業績が回復しつつあり、1864億円の利益を計上できたことである。
もしスプリントの業績が本格的に回復した場合、ソフトバンクをとりまく環境は劇的に変化する。このあたりのカラクリを理解するためには、米国の通信市場の状況とソフトバンクの立ち位置について、もう少し詳しく知っておく必要があるだろう。
スプリントは米国の大手通信会社で、ソフトバンクが2013年に216億ドル(当時のレートで1兆8000億円)で買収した。
米国の通信市場は、ベライゾンとAT&Tの2社でシェアの6割以上を占める構図となっており、それぞれ1億人強の利用者(すべての契約を含む)を抱えている。
一方、スプリントは全米4位(買収した当時は3位)の通信会社だが、契約者数は5800万人となっており、上位2社と比較するとかなり見劣りがする。
実はソフトバンクは、スプリントの買収に成功した場合、続けて全米3位の通信会社であるTモバイルUSを買収する計画だった。つまりスプリントの買収は単体ではなく、TモバイルUSとのセットで初めて意味を持つことになる。
だがこの計画に対して米当局の反応はネガティブだった。
孫正義社長は何度もワシントンを訪問し、「業界を再編することが通信環境の向上と価格の下落につながる」と力説したが、米連邦通信委員会(FCC)と司法省の寡占に対する警戒を解くことはできず、買収は白紙に戻している。