2017年6月1日05時00分
原子力規制委員会の委員長に更田(ふけた)豊志委員長代理が昇格する人事が先週、国会で同意された。規制委を発足から5年間率いてきた田中俊一委員長は9月の任期満了で退く。
更田氏は国会での所信聴取で「独立性と透明性の確保を基本として、国内外から信頼の得られる原子力の安全確保に最善を尽くす」などと述べた。
福島第一原発事故で原子力規制行政全体が出直しを迫られるなか、その中核の規制委を田中氏とともに当初から引っ張ってきただけに、発言には自負と決意がにじんだ。
だが、規制委の課題は多い。二つ指摘したい。
まずは原発の審査についてである。
たとえば、「相当困難」と説明していた40年超運転を立て続けに認めていることや、規制委の元委員から「過小評価だ」との指摘が出ている地震や火山噴火のリスクの見積もりについて、国民の多くが納得しているとは思えない。原発の集中立地への対応やテロ対策といった課題もある。
規制委には、閉鎖的との指摘も聞かれる。一般の人にもわかりやすい言葉で自らの考えを説明する努力を重ねつつ、外部からの指摘や助言には謙虚に耳を傾け、より広い納得が得られる審査を目指してほしい。
もう一つは、機器の性能要求や書類チェックなど原発を動かす前の審査を偏重しがちだとされてきた日本で、現場での規制の実効性をいかに高めるかだ。
日本は自然災害が多いだけに施設面の基準が厳しくなるのは当然だろう。その上で、国際原子力機関(IAEA)は昨年、日本の規制業務をチェックし、事業者の危機対応能力を現場で見抜くなど、規制業務を深化させることが必要だと勧告した。
原発の抜き打ち検査も可能にする法改正が今の国会で行われたが、そうした手法で事業者に厳しく指摘できる人材をどう増やすか。海外研修などで最低でも3年はかかるという。
07年のIAEA点検では、原子力の推進と規制の分離などを勧告されながら、手をこまぬいている間に福島第一事故が起きた。更田氏は国会で「事故以前に強く声を上げることができなかったかという後悔と反省を覚えた」とも語った。
新委員長として同じ思いを抱くことがあってはならない。更田氏は委員5人のうち唯一の創設メンバーとなる。原発事業者に毅然(きぜん)と向き合うという原点を忘れず、事故に学んだ規制改革を徹底させていく責務がある。
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