『ひよっこ』女優・松本穂香に聞く「新幹線」と「集団就職列車」
NHKの連続テレビ小説『ひよっこ』。各地から集団就職で上京してきた“金の卵”が集まる乙女寮の中でも、ひときわ個性を放つのは福島出身の15歳の女の子・青天目澄子(なばため・すみこ)だ。彼女を演じているのは、現在20歳の新進気鋭の女優、松本穂香さん。澄子役でブレイクし、今や一気に注目を集める松本さんに3回に渡ってロングインタビュー。
3回目は、上京物語の『ひよっこ』にちなんだ松本さんの上京物語。地元・大阪から新幹線で通っていた頃の思い出、そして憧れのアーティストの話まで伺いました!
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新幹線の車窓を眺め、ひとり音楽を聴きながら大阪に帰った日
――本格的に東京に出てくるまでは、大阪から通っていたそうですね。
松本 そうなんです。オーディションがあるとひとりで新幹線に乗って東京に来て、終わったらすぐに帰る。ずっとその繰り返しでした。マネージャーさんが来られない日だったら、オーディションの面接の方にしか会わずに、また真っ直ぐ大阪に帰るときもありました。東京に滞在している時間よりも新幹線に乗っている時間のほうが長いときもありましたよ。
――うまくいかなかった日は落ち込むこともあったり?
松本 オーディションによっては、選ばれた人はその場にそのまま残ってくださいみたいなことがあるんです。だから残れずに帰らなきゃならない日はガーッと落ち込んで。帰りの新幹線でちょっと泣いたりしたこともありました。そんな日は帰りの2時間半がとにかく長く感じるんです。行きは目的があるからまだいいけど、帰りは「まだ名古屋か……」みたいな(笑)。それに私は乗り物酔いすることもあるので、そういうときはとにかく耐え忍ぶ。すでに暗くなった窓の外を眺めながら、ひとり音楽を聴いたりして……。
――音楽はどんな曲が好きなんですか?
松本 キュウソネコカミさんが好きでよく聴きます。グリコさんのビーフカレー「LEE」のWebCMに出演させていただいた時に、監督さんに「どのバンドが好き?」と聞かれて答えたら、「LEE」のイメージ曲のためにキュウソネコカミさんが書き下ろしてくださったんです。それまでも自分でライブには行っていたんですが、「LEE」がきっかけで招待してもらうようになって。
――ファンだったのが図らずも共演することになり、交流も持てたってすごいですね。
松本 そうですよね、とりあえず言っておくって大事だなと思って(笑)。言わないと始まらない、遠慮してもしょうがない。
奥多摩よりもっと遠くへ行きたい!
――他にはどんなアーティストが好きなんですか?
松本 サカナクションさんもよく聴きます。歌っていて気持ちがいいので!
――あ、カラオケも好きなんですか?
松本 たまに行くんです、ひとりで。ストレス発散ですね。1時間とか1時間半くらいですけど。ひとりだからいっぱい歌い放題。だから1時間も歌ったらふぅ……ってなっちゃう(笑)。それくらいなんですけどね。
――最近はお忙しくなってきてお休みも少なくなっていると思いますが、長い休みがあったらどんなことがしたいとかありますか?
松本 う〜ん、自然があるところに行きたいです。山だったり。
――じゃあ、中央線に乗れば一気に奥多摩まで行けますよ!
松本 もっと遠くに行って現実逃避したいです。でも日帰りで十分ですね。泊まったりすると「こんなことしていていいのか」と焦っちゃいそうですし。あとは映画を見たり、それくらいですね。
もしかしてテツですか?
「週刊松本穂香」より
――松本さんは独特な雰囲気のInstagram「週刊松本穂香」を毎週更新してますよね。写真に地下鉄とか新幹線がちょくちょく登場しているので、もしかして鉄道が好きなのかな? と思ってたのですが、もしかしてテツですか?
松本 あはは。残念ながら違うというか……、詳しくはないです。あのインスタは「普段、日の目を見ないもの」をテーマにしているんですが、ネタがなくなったときに身近なものをテーマにすることがあるんです。そんなときに乗り物がテーマだとおもしろいかなと、たまに撮影場所にしてるんです。本当に結構ネタに困ってるんですよ(笑)。なにせ毎週なんで。
――写真も雰囲気があっていいですよね。
松本 ステキなんです。全部マネージャーさんが撮ってくださるんですけど、さすがですね(笑)。
――残念ながら鉄道好きではないようですが(笑)、『ひよっこ』でも集団就職列車や上野駅が登場しました。撮影していてどう感じられましたか。
松本 集団就職列車は固い椅子で何時間も座って……ですからね。お尻は痛くなりますよ、絶対。だから新幹線に文句言ってちゃダメですね。「まだ名古屋か」なんてダメ(笑)。改めて本当に便利な時代になったんだなと感じさせてくれます。
――でも不便な時代でもそれなりの良さがあった。
松本 そうなんですよね。人と人のつながりみたいなものは、『ひよっこ』の時代のほうがありがたみがあったのかなと思いますね。澄子みたいなマイペースな子だと、今の時代じゃついていけないんじゃないですか。絶対まだガラケー使ってると思います(笑)。
「週刊松本穂香」より
――上野駅のシーンもとてもリアルでした。
松本 上京してくるところで、上野駅で舎監の愛子さんと、同じ15歳で青森から出てきた豊子と出会う。上野駅の場面はオートレース場でロケをしたんですが、セットもすごく細かくて列車の行き先とか書かれた看板や貼り紙とかも再現されてました。でも、澄子の立場で演じると怖かったです。いろんな音や物で溢れかえっていて、とにかく怖い。田舎から出てきたばかりの15歳ですからね。
――集団就職で上京してきた人たちは、上野駅に故郷を感じるという話もありますが……。
松本 それはのちのちになってからだと思います。演じてみて実感しましたけど、最初は……やっぱり怖いと思います。あんなにたくさん人が行き交っている場所は、田舎にはないわけですから。東京に慣れて、仕事に慣れて、落ち着いてきてから上野駅に行くと、「ここからはじまったんだな」と懐かしい気持ちになれるのかもしれないですが、澄子たちはまだまだでしょう。
新大久保に行くと鶴橋を思い出します
――松本さんには上野駅のような“故郷を感じる場所”ってありますか。
松本 そうですね……故郷とは違うかもしれませんが、新大久保に行くと大阪の鶴橋を思い出したりします。ごちゃごちゃした感じとか。ただ、私は大阪なので人混みとかには慣れてました。でも東京のティッシュ配りの方の勢いにはびっくりしました。無理やり投げつけてくるような感じで、ちょっと怖いです(笑)。
――地元は大阪のどちらなんですか。
松本 堺です。古墳だったり、与謝野晶子の出身地でも有名なのかな。あと刃物。刃物の生産でも有名なんですよ。すぐに難波とかにも行けるし、地元でもなんでも揃うし、だから東京とのギャップもあまり感じなかったです。でもギャップがないって言えるのは澄子の生きていた時代との差、ですよね。同じように上京しても、今とはいろいろなことが違いすぎるなと思います。
――澄子を演じてみて時代の変化、違いがわかるってことなんですよね。
松本 澄子たちの故郷を思う寂しさとかも、正直今の私の感じるものの比じゃないんだと思います。澄子は複雑な家庭事情ですし、大好きなおばあちゃんは字が読めない。だから手紙を書いても読んでもらえないのかなとか。そうなると寂しさのレベルは違うんですよね、きっと。でも、私も寂しいなと思うことはあるから、そういうところは澄子ともリンクさせられたらと思ってやっています。
兄にはLINEもあんまり送らないですね(笑)
――松本さんは家族に手紙を書いたりしないんですか?
松本 手紙が来たら何事かってびっくりするんじゃないかな(笑)。家族にはLINEはするけど手紙はまだ書いてないですね……。8歳上の兄がいるんですけど、兄にはLINEもあんまり送らないですね(笑)。いつ結婚するんだろう、とか思ったりはしてるんですけど。
――最後に、今後の演技以外での目標を聞かせてください。
松本 友達づくりです……。高校の同級生とかもほとんど大阪の地元志向で、東京にまだあんまり友達がいないんです。でも『ひよっこ』で一緒になった子とお茶に行こうみたいな話はしています。いろいろお仕事をさせてもらって、徐々にいろんな人と出会うようになって、これからはちょっと友達づくりにも励んでいきたい。カラオケも友達と行ってみたいです(笑)。
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まつもと・ほのか/1997年生まれ。大阪府堺市出身。主な出演作品に映画『青空エール』(16年)、『MATSUMOTO TRIBE』(17年)、主演舞台『ヨミガエラセ屋』(16年)、テレビドラマ『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』『ひよっこ』など。
写真=鈴木七絵/文藝春秋
(鼠入 昌史)