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(Wikipediaより)

本日(6月6日)、日経新聞に編集委員による、つぎのような興味深い解説記事が掲載されていました。

・首相は改憲を提案してはいけないのか|日経新聞

この記事は、6月1日に行われた衆議院憲法審査会における学者らの発言などを根拠に、「首相は改憲を提案できる」とし、「改憲の提案をできないというのは俗説にすぎない」としています。しかしこれは憲法学界全体の学説に照らして正しいのでしょうか?

憲法96条1項はつぎのように規定しています。

憲法
第九十六条  この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。


この条文をみてわかるとおり、衆院・参院の二院の賛成で国会が憲法改正を発議し、国民投票が行われるとされています。

そしてここで言う「発議」とは通常の法律の議案において使われる「発議」とは異なり、国民に提案される憲法改正案を国会が決定することをいいます。そして憲法改正案を決定するためには改正案が示されなければなりません。この原案を提出する権限(発案権)が各議員に属することは言うまでもありませんが、内閣にも属するかについては議論があります。

この点、肯定説は、内閣の発案権を認めても国会審議の自主性は損なわれず、またそれは、議院内閣制における国会と内閣との「協働」関係からみて不思議でないこと等を理由とします。

一方、否定説は、憲法改正は国民の憲法制定権力(制憲権)の作用であるから、国民の最終的決定の対象となる原案の内容を確定する行為を国会が行うのは当然の理であり、この理をつらぬけば、「発議」の手続きの一部をなす「発案」すなわち原案提出権は、議員にのみ属すると解するのが相当であること、内閣に発案権を与えることは、憲法と法律との形式的・実質的な相違をあいまいにする解釈であるとします。

現在の憲法の通説である芦部信喜教授は後者の否定説をとっています(芦部信喜『憲法 第6版』393頁)。(ただし、芦部教授は、「内閣は実際には議員たる資格を持つ国務大臣等を通じて原案を提出することができるので、議論する実益は乏しい。」とも書いています。)

また、『基本法コンメンタール憲法 第5版』436頁も、「発案は審議の構成要素であり、実質的にも審議の方向性に重大な影響を与える。内閣の発案権は、それを認める明示の規定がない限り認められないと解される。」と否定説をとっています。

このように、内閣総理大臣は憲法改正の提案をしてよいのか?という論点に関しては、憲法の学説の通説または多数説は否定説をとっています。日経新聞は自社の政府・与党寄りの主張をするとしても、読者をミスリードするような記事を書くのはやめるべきだと思われます。

■関連するブログ記事
・集団的自衛権/憲法解釈の変更と憲法改正の限界

憲法 第六版



新基本法コンメンタール憲法―平成22年までの法改正に対応 (別冊法学セミナー no. 210)


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