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【社説】

天安門事件 逆風にもあきらめるな

 民主化運動が武力弾圧された天安門事件から二十八年となったが、中国では社会の統制が強まるばかりだ。記憶の風化だけではなく、民主を求める若者の熱気が失われつつあるのが気がかりだ。

 香港のビクトリア公園では今年も天安門事件の起こった六月四日に合わせ、民主派が追悼集会を開いた。だが、参加者は約十一万人と三年連続で減少した。

 この公園は香港民主にとって記念碑といえる場所である。二〇〇三年に香港政府が反乱や扇動を禁じる国家安全条例案を公表したが、五十万人もの市民が抗議デモで反発し、条例案を葬り去った。

 習近平政権の強権的な統治があらわになるに従い、民主化運動の拠点であった香港でも政治改革を求める若者たちの運動が下火になっていることが懸念される。

 中国高官は五月末の香港基本法二十周年シンポジウムで「高度な自治の名の下に中央権力に対抗することは許さない」と、香港人による民主を強くけん制した。

 香港は近年、政治的に萎縮している。若者の間でも「共産党独裁に終止符を」との声がある一方、「香港人は中国民主化に責任はない」との冷めた意見もあり、民主派内での意識の分断も深刻だ。

 中国政府は事件について「一九八〇年代末の政治風波に関しすでに結論を出している」と、繰り返した。過ちに正面から向き合わず、事件の記憶を薄れさせようとする無責任な姿勢に映る。

 それどころか、今月初めには事実上の検閲を合法化する「ネット安全法」を施行した。VPN(仮想私設網)の規制強化や携帯電話利用の実名制導入など、民主的な政治を支える言論の自由を踏みにじる動きばかりが目立つ。

 北京中心部では四日、当局の要請を受けた市民ボランティアが数十メートル置きに立ち並んだ。市民による監視の目が、事件の再評価を求めようとする子や孫ら若者に向けられる異常な事態といえよう。

 胡錦濤政権時代には政権中枢にもまだ存在していた、政治改革を求める動きは全く失われたと批判されても仕方がない。

 天安門事件で若者は腐敗撲滅を掲げて立ち上がった。習政権も反腐敗を訴える。だが、若者が求めたものは反腐敗を旗印にした政敵粛清ではなく、共産党独裁による弊害の除去であった。

 事件を封印しようとする逆風は強いが、民主化を求める若者たちにはあきらめてほしくない。

 

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