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マスター:飯賀梟師
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:0人
リプレイ完成日時:2017/05/31


みんなの思い出

1
1

オープニング

※本オープニングは関連NPC小倉舞にまつわるバックグラウンドを描写したものでありますので、ただ依頼の概要を知りたい場合は読み飛ばしてください。


 ここに、小さなパン屋がある。
 名を、プチ・ブランジェ。男性の店主と、アルバイトの少女の二人だけで切り盛りする、決して規模の大きくない店。
 町に根差したそのパン屋は、それでも繁盛していた。用意したパンは大抵売り切れる。商売である以上は当然、売れる見込みのある分だけ作るということを差し引いても、客の入りは良かった。
「ねぇお父さん」
「店の中でお父さんはやめろ」
「うん。それでね、お父さん」
 アルバイトの少女こと小倉舞。視線の先に捉えた店長は、決して血の繋がった父親などではない。
 むしろ、本当の父親の、仇とすら言える。店長――浩也は、舞の父を事故とはいえ殺してしまったのだ。
 そうした事情を知れば、この「お父さん」という呼び方には違和感を覚えることだろう。だがそこには、複雑に絡み合った運命が、結果として第二の父子としての関係を築き上げていた。
「……なんだ」
 深いため息。
 生まれた時から父親のいなかった舞は、言葉や態度には出さなかったものの、父親の存在に対する憧れを、ずっと胸の内に燻らせていたのだろう。一度「お父さん」と呼び出したら、例え客の前であろうが一日中「お父さん」なのだ。
 やれやれ、また始まった。面倒くさくてたまらない。
 そんな表情を浮かべつつも、浩也としても嫌な気持ちはしないのだろう。それ以上訂正することはなかった。
「クッキー焼いてもいい?」
「商品になるようにな」
 午後二時。主な客層が学生や仕事帰りの女性であるこの店にとって、最も暇な時間だ。
 午後五時から午後六時までのピークタイムに向けてパンを焼くにも少し早い。が、クッキーならば多少時間が経ってもそうそう味は落ちない。
 特に拒む理由もなく、了承する浩也。
「練習か?」
「それもあるけど、ちょっとね」
 返事にふーんと鼻を鳴らした浩也は、舞と入れ替わるようにして厨房を出た。
 そして、レジ台に置かれた、一枚の便せんに目を止める。
 サッカーボールの絵が描かれ、「これを五時に合わせてたくさん作っておいてください」とある。
「なんだよ、結局上手くいってんじゃねぇか」
 そんなことを呟きながら、後でオーブンが占領されるんだろうな、と浩也は時間の計算をしはじめた。


 舞はサッカーボールを模したクッキーを作ったことがあった。
 恋心を寄せていた、幼馴染の男子に作ったものだった。しかし、その男子には既に交際中の女性がいたのだ。
 そして、舞の手から受け取ってもらえなかったのだ。
 ほろ苦い思い出のクッキーを、舞はもう一度作ろうとしている。


「これだ! どうしてもさ、焼きたてが食いたかったんだよ」
 午後五時過ぎ。
 買ったばかりのクッキーを、イートインコーナーに広げて頬張り始める男子高校生の姿があった。
 彼こそが、舞の失恋の相手、青木隆である。
 増え始めた客を捌きながら、舞は彼の様子を横目に観察していた。
 クッキーは六枚を一つの包みにして販売している。あっという間に五枚を平らげた彼は、残り一枚には手をつけずにそのまま居座っている。そして、舞の働く様子をじっと眺め始めた。
「そろそろ帰りな。もうじき暗くなる――」
「あ、珈琲ください」
「……ミルクと砂糖は?」
「多めで!」
 互いに観察し合う舞と隆。
 居心地が悪くなった浩也は、隆を帰そうと試みた。が、注文が入った以上はしょうがない。


 午後六時。
 この日は妙に客が多く、この時間にはパンが売り切れて店じまいとなった。
 だが隆は、まだイートインコーナーに居座っていた。
「ほら、もう閉店だ。いいから帰――」
「まーい。隣座れー」
 再び店長が隆を帰そうとする。
 だが隆は片づけをしようとした舞を呼びつけた。
 勝手にしろ、とばかりに浩也は厨房に入ってしまう。
 一方で舞は、声など聞こえないかのように売り場のトレイを片づけてゆく。
 が。
「ひ……っ」
 突然背後から肩を掴まれた。
 一瞬縮み上がり、そして硬直する舞。
 それが隆の仕業であることに気づくのには、時間がかかった。
「舞、本当に悪かった。ちゃんと話すから、聞いてくれ。あの時話せなかったことを聞いてくれ。頼む」
 返事に戸惑う。
 視線が泳ぐ。
 おずおずと舞は振り返り、視線が合った。


 警報。
 町中にサイレンが響き渡る。
 天魔出現を知らせるアナウンスだ。
『身長二メートルほどの、剣を持った天魔が出現しました。町内の方は、急ぎ屋内、もしくは避難所へ避難してください。繰り返します。身長二メートルほどの……』


プレイング

繋いだ手にぬくもりを・凪澤 小紅(ja0266)
大学部3年114組 女 
〇心情
舞の地元なのが気にはなるが、いつも通りにやるだけだ

〇目的
サーバントの撃退

〇行動
現場に到着したら、まずは敵の位置の特定だな。
幸いイオが飛べるので、上空から敵を探してもらおう。スマホをハンズフリーにしておいていつでも話せるようにしておく。
敵の位置がわかったら「阻霊符」を展開しつつ速攻で駆けつける。必要なら「縮地」使用。
尚、前回の舞のように一般人が迷い込んでくる可能性もあるので、イオには逃げ遅れた人がいないか、少し探してもらおうと思う。

接敵したら「闘気解放」して速攻撃破を目指す。「薙ぎ払い」で敵を動けなくし、仲間との集中砲火で確実に1体ずつ倒したい。
ちなみに、イオから別の敵発見の報がある、またはパン屋が襲撃されたら、サーバントは仲間に任せて「縮地」で一気にパン屋に向かう。

「ラファル、龍磨、ここを頼む!」

店内で両手剣を振り回すわけにはいかないので武器をキャットクローに交換し、できるだけ敵を店外に追い出すように戦いたい。怪我人がいた場合、自分は敵の注意を引きつけ、治療は仲間に任せる。

拭えぬ後悔を未来へ代えて・八種 萌(ja8157)
高等部3年7組 女 
「舞さん、大丈夫でしょうか・・・」
前回、戦いの場にふらりと出てきましたからね、心配です。

さて、現場についたら敵を探して移動しながら、「生命探知」を使っておきましょうか。前回の舞さんのこともありますし。
多くの人は家の中でジッとしているでしょうから、動き回っている反応があれば敵か、逃げ遅れの人のどちらかだと思います。

戦闘になれば、私は前衛の後ろに控えて回復に専念します。
「回復は任せてください!」

パン屋に敵が侵入したことを知ったら、先に戦闘していた3体がどれだけ倒せているかで行動を判断します。
回復が必要なさそうならば、怪我人がいる可能性も考えてパン屋に向かいます。
まだ3体との戦いが長引きそうならば、「怪我人がいたら呼んでください!」と、パン屋に向かう人に声をかけておきます。
怪我人の治療も考えて、ヒールは1回は残しておかないといけないかな。
舞さんに何事もなければいいのだけれど。

のじゃロリ・イオ(jb2517)
高等部2年47組 女 
「知り合いの住む場所に敵か。なるほど、じゃからピリピリしておるんじゃな」
自分以外は舞と面識があるようなので、納得。

さて、現場についたらまずは「阻霊符」を展開。イオはスマホ片手に「闇の翼」で上空から目的の敵を探すのじゃ。
屋根から屋根へと飛びながら敵を探し、発見したら仲間に連絡するぞよ。
あと、逃げ遅れた一般人がいないか確認してくれと言われておるのでな、戦闘現場の周囲を飛びながら、自分達以外に動くものがおらぬかしばし探すぞよ。

いくらか運が絡むと思うが、別行動の敵を発見したら仲間に連絡をいれて急降下、別行動の1体に攻撃を仕掛けながら仲間の方へと誘導したい。
運悪くパン屋に侵入されてしまったら、すぐに駆けつけ、一般人を守る壁になる。
接近戦は苦手ゆえ、はよ助けにきてほしいが(ぉ
ちなみに怪我人がいれば「治癒膏」で治療を優先しよう。

勇気を示す背中・長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)
大学部3年4組 女 
・心情
そう言えばこの街は……少し気になりますわね

・行動
あまりこういうのも何なのですけど、舞さんはなぜか不幸に巻き込まれやすい方
安心が欲しかったからかしら、現場に向かう最中彼女に電話をかけてみますわ
もし彼女がパン屋にまだ居ると聞いたら…虫の知らせかしら
「申し訳ありませんわ……すぐ戻りますから!」
彼女のことが気になってパン屋に向かいますわ
その際FLBを起動して急ぎますわ

もしパン屋の方で敵を発見したら即仲間に連絡、そのままわたくしは戦闘を開始いたしますわ
「ここはわたくしでなんとかいたしますわ!」

・敵遭遇後
敵発見次第こちらに気を向けるため手招きして挑発しながら叫びますわ
「あなたの相手はわたくしですわ!かかってらっしゃい……ませ!」
敵が反応を示したらZoneを起動
敵の反応を誘いFLBでジグザグに動き的を絞らせないようにしながら接近
衝撃波が来たら喰らいながらRope-a-dopeで接近いたします
接近したらそこから黄金の拳で一気に畳み掛けますわ
「速攻で参りますわよ!」
その際、パン屋、舞さん達から離れる様に吹き飛ばしますわ

ペンギン帽子の・ラファル A ユーティライネン(jb4620)
大学部2年5組 女 
「まあた、ここかい。あのどんくさい娘はまだいんのかぁ?」
まあ、あいつの事を親身になって心配する奴らは他にいるわけだから俺の出番はないよなあ。
学園一のメカ撃退士のラファルの義体は遂に完成体となった。これまでは義体特待生として学園の技術屋共に散々体をいじくりまわされてきたがそれも絶えて久しい。今は、学園最先端の技術の粋を尽くしたサイボーグとして戦果を積み上げるだけである。そしてラファルはやる気だった。4体のサーバント、相手にとって不足ねぇぜ。

まあ、あいつのパン屋は確かあっちだったか・・・。という訳で行きたいやつには行かせといてそこらへんにいる奴らをまとめて遊んでやる。
九鬼と連携。

初手から飛行状態で戦場に侵入。まっすぐに敵の一体に突撃をかまして、
「超絶速度〜剣技」から先制攻撃。ぶっさしたところを支点にくるっと相手の背面に回り込むと背中を思いっきり蹴りつけて3体を一体の団子状態にしてまとめる。

まとまったところに「対天使ミサイル」を最大火力でぶち込んでまとめてハチの巣にしてやる。
適度に削れたら俺様のとっておきを披露してやる。
奥義「分離合体〜」で四肢を分離して6体の影分身ラファルをこさえると全周から攻撃をぶち込んでズタボロにしていく。適当に削ったら抑え込ませたところを「魔刃〜」でとどめ。

後は適当に巡回して他に敵がいない確認した後に舞組と合流。まったくガキの癖に盛りやがってと適当に祝福かフォロー

圧し折れぬ者・九鬼 龍磨(jb8028)
大学部5年7組 男 
>戦闘
「鉄火場の中の火事場泥棒、といったところかな。とはいえちょっと厄介だ」
斬撃波や報告外の敵が一般人を巻き込む危険を危惧し、PC間での連絡は密に取る
自分はまず目の前の敵を殲滅することに集中する。

阻霊符常時使用
防壁陣と庇護の翼を併用、攻撃するメンバーを守る
凪澤さんが離脱した場合は、敵の隙をみて日輪を使用。より迅速に3体を倒す

残数0で蜥蜴陣→シールド→ライトヒールと入替え使用
残生命力40%で並渦虫使用



>戦闘後
事情が飲み込めたら、青木に一言告げる(冷たい視線と軽い殺気付きで)
「――いまさら何を話すの?」
あとは言い分を聞くがヌルいこと言ったら容赦しない。

舞の感情面のフォローは女性陣に任せ、自分は自衛についてそれとなく示す
「君を一度…二度か? ともかく、君のメンツと感情の両方を無作法に傷つけた人間の言うことを直接聞く必要ないよ。背後から声もなしに触ってくる破廉恥な輩ならなおさらね」



リプレイ本文


 軽いミーティングを済ませて、転移装置へと走る。悠長に話しているような時間はなかった。
 敵の特徴を聞く限り、特殊な策を考えるより、敢えてシンプルに己のやりやすい方法でサーバントの討伐に当たった方が良いだろう、との判断。
 気になるのは、また、あの町。
 もう一年以上前のことになるか。以前にもサーバントが現れた土地だ。
 天使の領域からは少々距離がある。そうそう侵攻されることもない、平和な町だったはずだ。以前の場合は、突発的に敵が出現しただけ。偶然だった、と考えられていた。
 だが、これで二度目。
「まあた、ここかい。あのどんくさい娘はまだいんのかぁ?」
 元撃退士の少女、小倉舞のいる町は、今、脅威に晒されていた。
 ここへ足を運ぶのは何度目のことか。ラファル A ユーティライネン(jb4620)がそんな言葉を漏らす。
「間違いないと思います。舞さん、大丈夫でしょうか……」
 今の舞は、一般の少女と変わらない。体は多少頑丈なのだろうが、天魔への対抗手段を持たない彼女の身を案じ、八種 萌(ja8157)は小さく漏らす。
 口にするかはともかく、この場にいる全員がそうだった。イオ(jb2517)を除けば。
「知り合いの住む場所に敵か。なるほど、じゃからピリピリしておるんじゃな」
 彼女でなくとも、この雰囲気は感じ取れたであろう。
 顔見知りが住む町が襲われているとなれば、不安になる気持ちも理解できる。
 ならば、イオにできることは、全力でそのサポートをするのみ。決して疎外感を覚えるわけではなかった。
「それでも、いつも通りやるだけだ。舞のことは、仕事を片づけてからでいい」
 己を律するように、凪澤 小紅(ja0266)は呟く。
 私情を持ちこんでしまっては、勝てる戦いも勝てなくなる。
 気にかかることはあるが、後回しだ。
 そうだろう、と同意を得ようとすぐ隣を歩く長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)へ視線を投げた時だった。
「あぁ、もしもし? お久しぶりですわ。今、どちらに?」
 彼女は、スマートフォンを耳に当てて誰かと通話しているようだった。
「例の少女かえ? 仕事の後に会えるのじゃから、今話さなくとも……」
「いや、今だから、だと思うよ」
 眉根を寄せるイオを、九鬼 龍磨(jb8028)が宥める。
 戦闘が始まる前に確認をしておきたい。いや、釘を刺しておきたい、という気持ちは恐らく彼にもあったのではないだろうか。
 この理由を答えたのは萌だった。
「以前、同じ町にサーバントが現れた時、現場に舞さんがふらっと現れたものですから。また同じことがあってはいけないですし」
「そうそう。台風の時に畑を確認しにきた爺さんみたいでさ」
 ケタケタと笑うラファル。状況は確かに似ていたが……。
 みずほが通話を切ったのはそんな時だった。
「どうだった?」
 小紅が尋ねる。
 スマホに視線を落としたまま、答える。
「舞さん、今はあのパン屋さんにいるようですわ。特に被害は受けていないようですし、そこでじっとしているようにお話しました。けれど……」
 そこで一度言葉を切り、クイと顔を上げる。
 そして、誰かが止める隙もなく、彼女は転移装置へと飛び込んだ。
「すぐ合流しますから!」


 転移した先に、みずほの姿はなかった。
 向かった先はどこなのか。それは容易に想像がつく。
 だが今は、連れ戻すだけの時間がない。
 まずは情報のあった敵を早急に見つけ、その進行を止めねば。
「では、そちらは任せた。何かあればすぐに連絡を頼む」
「任せい!」
 小紅の言葉に短く返事をしたイオが、家屋の屋根へ跳ぶ。
 念には念を、だ。万が一逃げ遅れた人がいるようならば、即座に救助しなくてはならない。
 それは、以前のような出来事を防ぐため。
 彼女でなくとも、一般人が戦場に現れるようなことがあってはならない。
「見つけた。やるよ!」
 龍磨の声に視線を移せば、緩慢な足取りで行進する三つの影が映る。
 見上げるような巨躯に、両腕が剣となったその姿。間違いない、今回の標的、サイレントセイバー(SS)だ。
「さっさと片づけちまおうぜ」
「怪我をしたら、私を頼ってくださいね」
 ラファルが飛び、萌が駆ける。
 これに龍磨が続いた。
「……みずほ、どうしてそんなに急くんだ」
 チラリ、とイオが跳んでいった方へ視線を投げた小紅は、そんな呟きを漏らし、武器を構えた。


 時間はほんの少しだけ遡る。
 真っ先に転移装置へ飛び込んだみずほが向かった先は、この街のパン屋、プチ・ブランジェだった。
 が、店へ駆け込むようなことはしない。
 その理由は二つあった。
 一つ、ここには何があっても守りたい人がいる。
 もう一つ、その守りたい人が出て行かないよう見張ること。
(もしもの時には、わたくしが……必ず!)
 たった一人で守り切れるか。そんなことは分からない。
 それでも、やろうと決めた。


「うぉっ! もう、危ないなぁ」
 戦闘を開始した龍磨は、距離を詰めるべく駆けた。
 その脇を、何かがすれ違うように飛んでいく。
 SSの振り下ろした腕剣が衝撃波を起こし、彼を襲ったのだ。
 かわした……はずだが、頬に生暖かい感触がある。少し切れたか。
「まずは距離を詰めるぞ」
「回復は任せてください!」
 ラファルが空中を滑る。
 衝撃を掻い潜っての接近はリスクを伴う。この補助には萌がついた。
 急ぎ龍磨が続く。
 容赦なく斬撃は飛んでくる。もう少し、もう少し踏み込まねば。
「チッ!」
「怯むな!!」
 腕に傷を刻まれたラファルは舌打ち。
 これを叱咤し、小紅がグンフィエズルを手近なSSへ叩き込む。
 ガキリと音が響いた。
 腕剣に阻まれ、振り払われる。
 仰け反ったところを、側面へ回り込んだSSが切りかかった。
「させないっ!」
 寸でのところで割り入ったのは龍磨だった。
 今度はSSの腕剣を龍磨のシールドが防ぐ。
「助かった」
「お礼は後でいいよ」
 しかし、二体のSSに囲まれる形となった小紅と龍磨。萌はというと、二人を治療するタイミングを図って入れずにいた。
 そこへ。
「オラァ!!」
 残るもう一体のSSが突き飛ばされてきた。
 空中よりSSへ高速の剣を突き刺したラファルが、その剣を支点にくるりと翻り、勢いを殺さぬまま蹴り飛ばしたのだ。
「小紅さん、龍磨さん、避けて!!」
 萌が叫ぶ。
 ラファルの肩には、物々しいミサイルポッドが展開されていた。この後の展開は、予測せずとも明らかだ。
「待って待って待って! 危ない、危ないって――!」
 小紅の手を取って、龍磨は慌てて離脱。
 それを待たずして……いや、離脱が間に合うと信じていたのだろう。ラファルに迷いはなかった。
「対天使ミサイル、放てェーッ!!」
 ポッドから次々と放たれるミサイルが、三体のSSに突き刺さっては爆ぜてゆく。
 ギリギリ爆発から免れた二人は、安堵のため息。
 その時だった。ハンズフリーのままにしておいたスマホから、イオの声が響いたのは。
「……龍磨、萌、ラファル。ここは任せた」
 言葉を聞き、飛び出さんばかりの小紅。
 あの爆撃があったとはいえ、まだSSは葬り去れていないだろう。それでも、行かずにはいられない。
「待ってください」
 その腕を萌が掴む。
 それどころじゃないと振り払わんとする小紅。
 ふるふると首を振った萌は、そのまま小紅の腕に手を当てた。
 ふわりと柔らかな光が包み、癒しの力が満ちてゆく。
「あの時、やられていたのか」
 本人も気づいていなかった。
 剣と腕剣がかち合い、弾かれたあの時。腕を少し切られていたのだ。
「言いましたよね。回復は任せてください、って。行くのなら、万全でないと」
 小紅の背を叩き、送り出す萌。
「本当は、私が行きたかったな。……なんて」
 ここからが正念場。何としても食い止めねば。


「報告と違うのう。……いや、漏れとっただけか」
 逃げ遅れた人がいないか確認するために奔走していたイオは、屋根から屋根へと跳ねる最中で奇妙な人影を見つけた。
 いや、人というには少々背丈が高い。
 よく目を凝らしてみると、それは人間などではない。今回の討伐対象、SSそのものだった。
 出発前に受けた報告では全部で三体。それがまとまって行動しているとのことだったが……はぐれていた個体が報告から漏れてたのか。
 すぐさまスマホで仲間に連絡を取り、対応へ移る。
「迷子の迷子のサーバントさん。お主の相手はこのイオじゃ!」
 跳躍、滑空。
 上空からの奇襲だ。
 滅魔霊符を放れば、それが光の玉となってSSへと降りかかる。
 気配に気づいたか。振り向いたSSが腕剣でそれを払うと、仕返しとばかりに斬撃を飛ばした。
「くっ!」
 ギリギリ、翼を傾けて回避。
 だが、それで終わりではない。
 また次の一撃が来る。
 かわせるか……?
「はっ!」
 SSの腕剣が振り下ろされる、ことはなかった。
 何かによって弾かれたのだ。
 誰だ?
「わたくしのこともお忘れなく!」
 それは、別行動をとっていたみずほだった。
 瞬時に距離を詰め、拳で以てこれを真横から殴りつけたのだ。
「お主、今までどこにおったんじゃ!」
「申し訳ありませんでした。しかし、ここで暴れさせるわけには参りません」
 光の玉で牽制をかけながら、イオはSSの出方を伺う。
 答えになっていないみずほの言葉。
 だが、その答えというものは、視線の先にあった。
 パン屋プチ・ブランジェ。中には、人の気配がある。
 みずほがここにいたということは、つまりあの中にいる人物こそが、噂の彼女なのだろう。
「ここが、あやつらの知り合いがおるパン屋かあ」
 そんな感想が漏れた時だった。
 少し離れたところから、小紅が目にも止まらぬ速度で駆け寄ってきたのは。


 三人になった撃退士らは、SSの反撃を受けていた。
「流石に、一筋縄じゃいかないね。萌さん、大丈夫?」
「はい。それよりも、ラファルさんが!」
 萌へ向けられた腕剣の一撃を、龍磨が盾で防ぐ。
 剣を抜いてカウンターの一撃を狙うも、脇から衝撃波が飛んできては回避に気を取られる。
 一方で空中から攻撃を続けるラファルも、肌に数か所血の痕を作っていた。
「あんだけ食らってまだ動くとか、マジでゾンビかよ!」
 インフィニティを撃ちこんでゆくも、なかなか決定打にならない。
 それならば、奥の手を使う時だ!
「見せてやるぜ、俺の奥義! 六神分離!!」
 ラファルがそう叫ぶや否や、彼女の体から四肢が外れ、宙を舞う。
「ぶ、分離しました……!」
 萌が驚いて目を丸くするが、その隙にもラファルの分離体がSSへ飛びかかっていく。
「どっち見てるのさ。僕だっているんだ、よっ!」
 当たらぬ衝撃波を空中に飛ばすSSの背を取った龍磨が踏み込む。
 剣は籠手へと形を変え、光を纏い、炸裂した。
「あっ、えと、わ、私だって……!」
 弓を構えた萌がひょっと矢を放つ。それは、もう一体のSSの頭部を貫いた。
 残りは一体。
「ラファルさん、やっちゃって!」
「六体合神! ゴッドラファル見参ッ!」
 再び一つの体となったラファルが急降下する。
 そして超絶速度の一撃が、最後のSSにトドメを刺したのだ。


「舞さん……皆さんご無事でしたか……?」
 プチ・ブランジェへ真っ先に飛び込んだのはみずほだった。そのためにここへ来たと言っても良い。
 一体のSSを倒すのに、彼女を含め、小紅、イオの三人がそろえばそう時間はいらなかった。
 この来客に、サーバントは討伐されたと知った舞らは安堵のため息を漏らす。
「のう、小紅や。あれなる少女が?」
「そうだ。小倉舞。私らの友人だよ。……それはそれとして」
 イオの質問に答えた小紅は、店の中へ入るなり、ある人物に詰め寄る。
 かつて舞の告白を受け、それを振った男、青木隆だ。
「何故ここにいる」
「話を、するために。そしたら、警報が鳴って、話せてないんだけど」
 隆は舞を見る。
 少し緊張した面持ちの舞は、みずほの方へ視線を泳がせた。
 話、とは。小紅にもみずほにも、その内容はすぐ察しがついた。
 だからこそ。
「舞さん。リングの上でも生きる上でも、大切なのはここ、ですわよ」
「でも、その……、私は」
 みずほはそう諭す。
 自信なさげな舞。
「ったく、ガキの癖に盛りやがって」
 そんなところへ、戦闘を終えたラファルがニヤニヤと茶々を入れながら入ってくる。
 その背後には、龍磨や萌の姿もあった。
「も、もうっ、そうやってからかわないで――」
「舞」
 顔を真っ赤にして抗議せんとする舞の言葉を、隆が遮った。
 これを契機に、一同が押し黙る。
 大事な話なんだ。と、誰もが理解した。
「俺は、お前が撃退士になった時も、色々あって帰ってきた時も、情けなくてさ。幼馴染なのに、何で守ってやれないんだろうって、そう思った」
 一度言葉が途切れる。
 撃退士らの胸には、それぞれ、様々な感情が渦巻いていた。
 人の恋路の行く末に、こうして対面していることが、こんなにも息の詰まるような思いになるとは。
「悔しかった。本当、情けないよな。お前がいなくなってから、彼女作ったりして、忘れようとしてたんだ。でも、駄目だった。舞が、こんな俺を見ていてくれてたなんて知ったら、どうしたらいいか分からなくて。だからもう一度――」
「いまさら何を言ってるの?」
 怒気を孕んだ言葉。
 声の主は、龍磨だった。
「舞ちゃん、こんな言葉を聞く必要なんてないよ。二度も君のメンツと感情の両方を無作法に傷つけた人間の言うことなんて」
「龍磨さん、それはあんまりです!」
 堪えきれずに異論を挟んだのは萌。
 この二人だけではない。誰もが、何か、自分の感じたことを言葉に出したかっただろう。
 しかし。
「龍磨さん、萌さん、やめて。答えは、私がちゃんと出すから」
 すっと隆へ歩み寄る舞が、一同を黙らせた。
 この行く末はどこへ向かおうとしているのか。
 思わずみずほが、祈るように手を組む。
「ありがとう、隆君。そっか、そんな風に思ってたんだね」
 すと、笑みを見せる舞。
 だがその直後。
 パシリ、と音が響いた。
 舞が隆の頬を引っ叩いた音だった。
「舞……」
「出て行って」
 頬を抑える隆。
 突然の展開に、ラファルとイオが「ぉー」と小さく漏らす。
 深いため息を吐くのは小紅。
 萌とみずほは、愕然として崩れ落ちた。
「店長、ちょっと」
 ここまで見届けて、龍磨はずっと事態を静観していたプチ・ブランジェの店長を奥へ連れ立っていった。

「年頃の女性が男にあからさまに見られている事態にはもっと注意を向けてもよかったはずです。贖罪が聞いて呆れる! それでも庇護を担う者ですか!?」
 龍磨の、店長を叱責する声は、きっと誰にも聞こえていなかっただろう。
 彼らはどこへたどり着くのか。まだ、その答えは分からない。
 分からないが……、いつか、その答えが、それぞれの幸せに結びつくようにと、祈らずにいられなかった。


依頼結果/参加キャラクター

依頼成功度:成功面白かった!:3人
MVP一覧
 −
重体一覧
 −

繋いだ手にぬくもりを・
凪澤 小紅(ja0266)

大学部3年114組 女 阿修羅
拭えぬ後悔を未来へ代えて・
八種 萌(ja8157)

高等部3年7組 女 アストラルヴァンガード
のじゃロリ・
イオ(jb2517)

高等部2年47組 女 陰陽師
勇気を示す背中・
長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)

大学部3年4組 女 阿修羅
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

大学部2年5組 女 鬼道忍軍
圧し折れぬ者・
九鬼 龍磨(jb8028)

大学部5年7組 男 ディバインナイト


依頼相談掲示板

相談卓
凪澤 小紅(ja0266)|大学部3年114組|女|阿修
最終発言日時:2017年05月20日 19:49
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2017年05月20日 19:48


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