はじめに
マルチ商法は、法律を守る限り合法ですが、国会の議論等を読めば、別の視点が見えてきます。
国会会議録検索システム から、例えば、「マルチ商法 禁止 実質」で検索すれば、過去の議論を読むことが出来ます。
ながさき消費生活館|消費者生活相談|相談事例集 より
- 破綻の必然性という意味では、ねずみ講もマルチ商法も同じです。ただ、ねずみ講が全面的に禁止されているのに対して、マルチ商法はそうではないように一 見見えます。しかし、実際にはマルチ商法についても実質禁止という趣旨で立法されていることにご注意ください。これは、ねずみ講がピラミッド型の単純な形態であるのに比べ、マルチ商法のシステムは多種多様であり、全面禁止とするには罪刑法定主義の観点から法理論上問題があるからにほかなりません。
第085回国会 物価問題等に関する特別委員会連鎖販売・ネズミ講等調査小委員会 第1号 より
- 矢橋説明員 ただいまの御指摘は、要約いたしますと、恐らく現在のような行為規制でなくて新法のような禁止法のようなものをも考えてはいかがかというような御指摘と理解した次第でございます。
そこでその問題でございますけれども、私どもといたしましてはマルチ商法を全面禁止とする対処の仕方は必ずしも適当ではないんではないかと考えている次第でございます。と申しますのは、仮に全面禁止、直罰ということになりますと、当然のことでございますけれども罪刑法定主義のたてまえから申しまして構成要件を厳格に限定する必要があるわけでございます。しかるにマルチ商法の実態にはきわめて多様なパターンがございます。また、法規制に対応いたしまして、変幻自在と申しますか、すぐ対応して形態を変化していくというような余地も大きいものと考えているわけでございます。つまり、そのようにいたしますと脱法のおそれがかえって大きくなって問題ではないかという点が第一点でございます。
いま一つ、技術的な問題といたしまして、いわゆる悪いマルチとマルチでも問題のないもの、あるいはさらに進めて申しますと特約店制度とかサブフランチャイズ制度と申しますような正常な商取引の形態、こういうものを文言上明確に区分することは非常にしづらいことであると考えているわけでございます。
以上申し上げましたようなことから、私どもといたしましては、マルチにつきましては営業の形態をある程度緩やかに広く決めておきまして、そして悪い行為を直に取り締まりをするというような現在の法律の形が一番妥当ではないかと考えている次第でございます。そうは申しましても、冒頭ただいま先生からおしかりを受けましたように、ねらいは悪いマルチの実質的な全面禁止でございますわけですから、私どもといたしましては、法施行はもとよりのことでございますが、加えて啓蒙普及等一生懸命いたしまして、悪いマルチの実質的な禁止に一歩でも近づくように最大の務めを果たしたい、かように考えている次第でございます。 - 武部小委員 きょうはマルチの問題ではありませんからこれは宿題にしておきたいと思いますが、私はよいマルチ、悪いマルチという区分はないと思います。よいマルチというものは存在をしないという立場でおりますが、これはいずれにしても首謀者が罰せられなくて一番末端の行為者が罰則にひっかかるという、そういう具体的な事実が今日起きておるわけですから、こういう問題について訪販法の洗い直しをする必要がひとつあるんじゃなかろうか、こう思いますが、これはいずれ改めてまた別の機会にやりたいと思います。
第080回国会 物価問題等に関する特別委員会 第14号 より
- 堺参考人 マルチ商法の場合でございますが、すでにもう社会問題化して六年になっております。しかし、いまだもって被害がおさまっていないということですが、この原因は、一つには、マルチ企業側の勧誘がますます巧妙になっているということが言えると思います。たとえば、法律がつくられたわけでございますが、この法律はいわば許容基準を与えたかっこうになっていると言っても過言じゃないわけでございまして、当方はこの法律によって守られているんだというようなことを言っているところがあります。
- 米沢委員 最初に堺参考人と下光参考人と竹内参考人に。
この訪販法制定の際に同じような意見聴取が行われ、竹内参考人はこう述べておられます。たとえばマルチ商法をやっておる会社が会員を獲得する場合、先ほどもおっしゃったように、ある程度の規模に達するともう参加者を募ることは不可能になるから、わが社の商売はある程度発展しますとデッドロックに乗り上げてもはや発展しなくなります、そのときには非常に多くの人が泣くことになりますと告げない限り、第十二条に言う重要な事実を告げないということになりはしないか。確かにいまのマルチ商法はこういうかっこうでやられております関係では、いまやっておられるマルチ商法はほとんどが第十二条違反になるのではないか、そう思います。しかし、現在のところ取り締まることはできない、取り締まられていない。そういうことで、マルチに対して公正であることを求めればマルチは必ずなくなるものだという考え方に立っているのがこの法律の考え方である、その精神で法の運用をやってほしいという注文をつけておられますし、先ほど堺参考人も、もう少し十二条の運用を厳しく適用してほしいという話がございました。
後でこんなのはすべて禁止するという議論もありましたけれども、それ以前に、現行法でマルチ商法等を取り締まる場合、現在どこに問題があるのか。考えてみますと、法律そのものに整備されていない部分があるのかもしれない。当時、この法律が議論される場合、御承知のとおり、クーリングオフの期間の問題とか、その後の措置の問題とか問題になりました。そういうものがないがゆえにいまだに被害者が続出することになっておるのか、それともまた、行政の怠慢といいましょうか、たるみといいましょうか、法は取り締まるように整備はできておるけれども、行政そのものに体制上整わない面があるとか、情報不足を解消する努力が足りないとか、いろいろな原因があると思うのですね。そのあたりについて、現在の被害状況を見ながらどういう判断をなさっておるかというのが第一点。
それから第二点は、この理論を、さっきの竹内参考人の話を突き詰めていきますと、公正なマルチなんてない、いいマルチなんてない、現在の法律は、御存じのとおり、ある程度マルチ商法も合法的なものだと認めている、いわゆるマルチ商法にも法益を受けているという一面があるのですね。そういう意味で、先ほどおっしゃったように、これを最終的に、全面的に禁止する、マルチ商法でもネズミ講でも全面的に禁止するといった場合、まだいろいろ問題があるといってこの前も委員会で問題になったわけですから、結局、マルチ商法あるいはネズミ講というのは受ける法益はないと解釈していいのかどうか、そういう法的な理論構成ができるのかどうか、そのあたりを竹内参考人にお聞かせいただきたいと思います。
それから、(中略)
以上でございます。 - 堺参考人 マルチ商法を現在完全撲滅できないでいるのはなぜかという御質問でございますが、一つには、マルチ商法の形態が大変複雑になっておりまして、そしてまた、この組織の特異性から、アメーバーのように、ある一定の大きさになりますと、どんどん分裂していきます。きょう一社だったものがあす十社になり、それがまた十社になるということは十二分に考えられます。ですから、私どももいまマルチが日本の国内に一体幾つあるのかということはつかみ切っていないのです。いまのところ、われわれがマークしておりますのは大体三十社ぐらいありますが、通産省では四十五社だとおっしゃっておられますし、警察庁は四十社だと言っておられるようですが、これが、たとえば一昨日手入れがありましたけれども、恐らくこの後、手入れを受けた会社の中堅幹部が飛び出して、また新たにつくることが考えられます。ですから、大変つかみにくいということはあるのじゃないかと思うのです。
それからもう一つは、マルチ商法が、先ほどから何回も申し上げておりますが、大変巧妙になってきているということですね。一般の商形態によく似させております。旧型マルチと新型マルチという時代をもしつけるとするならば、いまや新型マルチの時代でございまして、旧型マルチというのは、人を連れてくれば勧誘料という名目ですぐお金をやる、こういう方式を使っていたわけです。ところが現在は、それが独禁法第十九条違反ということが断定されたために、何段階か地位がある、そうすると、それぞれ商品を仕入れる金額の差額がある、その差額のリベートを勧誘料方式で使っている。オーバーライド方式というのですが、このように切りかえている点が大変むずかしいということも聞いております。しかし、竹内先生の昨年仰せられた論理、そしてきょう仰せられた論理は私は全く同感でございまして、マルチじゃないと言っていれば、これは明らかに十二条違反です。私はそう考えます。
- 竹内参考人 いいマルチ、悪いマルチ、灰色のマルチというふうなことが問題になったということでございますが、私は自分の書いた「特殊販売規制法」から引用させていただきますと、「訪問販売等に関する法律の一条では、「この法律は、訪問販売及び通信販売に係る取引並びに連鎖販売取引を公正にし、」云々と定めているのは、いささか適切を欠くのではないかと思われる。けだし右の規定によれば、「公正な連鎖販売取引」というものが成り立ち得るかのように思われるからである。しかし、「公正な訪問販売」、「公正な通信販売」はもちろん成り立ち得るが、実際問題として、少なくとも、「公正なマルチ」というものはあり得ないであろう。……「公正なマルチ」というのは、あたかも「安全なペスト」、「無害なコレラ」というように概念矛盾ではないかと考える。」というふうに私は考えておりますし、書いております。したがって、灰色のマルチとか、いいマルチというものはないのではないか。マルチというものはみんな悪いものだ。
そこで、マルチというものを実質的に禁止するというのが産業構造審議会の答申であったわけでありまして、その禁止する手段としてどういう方法を用いるかということにわれわれは腐心したわけでございます。刑罰を決めてそれが一番適切だということであれば、もちろんそうしたでありましょう。しかしながら、先ほど申しましたように、マルチをやっているものというのは、大抵本物のボスというのは海外におります。私が審議に参画しておりましたときに、スワイプ・ジャパンというものの責任者、これはカナダ人の弁護士でございますが、オーストラリアに住んでおりまして、それが日本人の弁護士を連れて私に会いに参りました。私は証人がいないと後で何を言われるか困りますから、立会人を置いて会いましたところが、その者が申しますには、自分たちも、先ほどのお話のとおりでございまして、ホリディ・マジックとかなんとか、あれはけしからぬ、だからああいうのは抑えるような法律をつくってほしい、しかし自分たちは生き残れるような法律にしてほしいということをるる申しました。そして必要があればいつでもオーストラリアから飛んでくるから、日本人の弁護士に電話一本入れてくれ、そうすれば幾らでも自分たちの会の実情について説明するということを申しました。私はそういう人に会って時間をつぶすつもりはございませんから、もうそれ以上は会いませんけれども、その例で見ますように、たとえばカナダ人がオーストラリアに本部を置いて、その子会社だけを日本につくってマルチをやっておるというふうな場合に、刑罰規定でかけたところで、結局つかまるのは日本にいるわら人形にすぎない。そういうことであれば刑罰規定を置いただけでは十分な救済にならないのではないか。私どもはむしろそういう意味で、刑罰規定のほかの方法でもって、より実質的な禁止の効果を上げるような手段はないのかということを考えたわけであります。それは先ほど申しましたような、十二条における重要な事項についての不告知あるいは不実告知はいけないとか、その他もろもろの手段をここで用意したわけでございます。したがいまして、私どもはマルチの中のネズミ的な要素は禁止する、そして物流的要素は残っても構わない、それは普通のセールス販売になるわけでございますから、それは構わないという考え方であの法律をつくった。その人狩りの要素がこれで完全に絶滅できるかどうかということは、これはちょっと待たなければ仕方がない。しかしながら、ネズミ講につきましては、物流的要素というのは残る余地はないわけでございますから、これはもう禁止するということが適当であろうというふうに思います。