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トランプ大統領パリ協定離脱 政治家にとって環境とは何か? 06.03.2017 |
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日本時間ですと、6月2日午前4時頃のことと思いますが、トランプ大統領がパリ協定からの離脱を宣言しました。以後、具体的にどのような形で離脱をするのか、現時点では、その詳細は未知です。 パリ協定からだけの離脱であれば、パリ協定が成立条件を満たした2016年11月のCOP22から4年後になるので、トランプ大統領の任期は残りわずかというタイミングになります。となれば、恐らく、余り意味はないでしょう。となると、その前提となる条約である国連気候変動枠組条約からの離脱になるのかもしれない、と思っていたりします。 いずれになるにしても、この決断は、トランプ大統領にとって、余り得なことにならないと断言します。なぜならば、彼の主張は弱点ばかりが目立つから。その弱点を突かれると、相当怒るでしょうが、論理的な反論はできないでしょう。 さらに言えば、この離脱宣言によって、パリ協定への対応が遅れるという人もいますが、実は、トランプ宣言を支持する可能性のあるのは、JUSCANS(日本、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージランド)の一部国内企業だけであって、最近は、日本は当然として、他の国々でも、政府、あるいは、グローバル企業に、地球環境を無視すると主張する存在はありません。 EU圏などの他の国は全く影響されないことは当然としても、米国国内はどうか、と言えば、すでに説明していますが、石炭はもはや高価だという経済的な理由によって実質的な温暖化対策が進む方向は変わらないのです。繰り返しになりますが、この離脱宣言を喜んでいるのは、JUSCANSのドメスティック企業と、トランプ大統領に投票した白人貧困層だけかと思います。 米国という国は科学が進化した国でもありますが、実は、科学リテラシーの格差の非常に大きい国でして、そのもっとも低い層からの支持で大統領になったトランプ氏は、ご本人の本音はどこにあるかは別として(本音も一致しているような気がしますが)、こういう行動を取らざるを得ないという構造になっているのです。 しかし、大人の科学リテラシーの低さでは、定評のある日本ですので、同じ現象が一部では起きるでしょう。大分前のOECD国の科学リテラシー比較では、ポルトガルを最下位として日本は下から2番目でした。幸いにして、このところ行われているOECDによる15歳を対象とした、科学リテラシー比較では、日本はまずまず高い位置にいます。 トランプ大統領の宣言で感じた疑問ですが、「政治家という人々にとって、環境とは、そして、科学的リテラシーとは一体なんなのだろう」、と思いましたが、同時に思い出したのが、小池東京都知事の豊洲問題でした。「全く違う問題だけれど、その根は同じだ」。 実は、6月2日の午後、広島のNPO法人広島循環型社会推進機構におきまして、「パリ協定が変えた環境問題−バックキャスト思考が不可欠」という90分の講演を行って参りました。会場が駅前だったもので、新幹線で行きましたが、3時間40分の乗車時間の間に、発表のPPTにスライドをかなり追加しましたが、その内容が、こんなものでした。 C先生:いよいよトランプ大統領の暴走が本格化してきた。しかし、現実に何が起きるのか、と言えば、このトランプ大統領の宣言によって、これまで若干おとなしくしていたJUSCANSのドメスティック企業の一部とその支持者達だけが勢いづくだけ。しかも、米国そのものは、ますます石炭離脱の方向性になるのは明らかだし、恐らく、CO2排出量もそれほど増えることはない。まして、米国のグローバル企業が態度を変えることはない。 A君:今日の副題は、政治家にとって環境とは何かというものになっていますが、そのココロは? B君:木曜日の朝刊に小池都知事の豊洲に対する見解が出ていた。トランプ大統領と小池知事の似たところを指摘することになる。 A君:なるほど、まあ、似てますね。科学的な中身の無さで言えば、トランプ大統領の方がはるかに上で、それだけにまだ無害かもしれない。要するに、小池都知事とその一派は、知っていてやっているだけに却って罪深いかもしれないですね。 C先生:まずは、トランプ大統領の主張をまとめて、その妥当性というか、その影響力をチェックしてみよう。 A君:「でっちあげだ」がトランプ大統領の得意な言葉ですが、果たして、地球温暖化は「でっちあげ」なのか。そもそもどの部分が「でっちあげ」なのか。 B君:次が、石炭復帰戦略。これは、石炭生産州であったペンシルバニアなどの白人労働者(失業者)がトランプ氏の支持者だったので、彼らに対するメッセージだったのだ。しかし、これは実現できないことが、そのうちにバレる。 A君:3番目が、米国でもグローバル企業は、気候変動対策を自社のメインポリシーとして動いている。今回の大統領の離脱宣言は、グローバル企業のビジネスの邪魔になる。なんらかの訴訟が起こされるかもしれない。 B君:4番目が、トランプ氏自身は福音派の不真面目なキリスト教徒だと思うが、本気の福音派であれば、ダーウィンの進化論を排斥したりするので、いかに不真面目であったとしても、「最後の審判」の話は小さなころから教え込まれているはず。となると、地球の破滅を考えないで企業活動を推進することの罪の深さを若干は感じているはず。ここは、いくら不真面目なキリスト教徒であっても、多神教の我々日本人と全く違うところだ。だから、ローマ法王が何か発言をすれば、カトリック教徒ではないトランプ大統領でも、余り良い気分ではない。自分の地獄落ちがチラチラするという意味で。 A君:これまで、このサイトで、最後の審判の話をまともに説明したことはあるのでしたっけ。 B君:なんだ忘れているのか。ある。C先生が、ルーマニア・ブルガリア旅行から帰ってきてすぐのときだ。 http://www.yasuienv.net/2ndGoalTarget.htm A君:それは、主題が、ゴールと目標の違いの記事ですね。記事の最初の部分が「最後の審判」ですが。 B君:ここに「最後の審判の記述を付け加えるとしたら、トランプ氏に対しては、「今回のパリ協定からの離脱宣言で、君の遠い未来は決まった。最後の審判で、かならず地獄に落ちる」と言える。なぜなら、最後の審判が今から1000年後にあるとして、そのときには、地球の海面は7mぐらい上昇しているだろう。バングラデシュでは、数1000万人の環境難民が発生し、島嶼諸国の国土は、ほぼ全面的に失われている。さらに、東京でも、皇居の石垣が海岸にそびえている状態だろう。 最後の審判は、トランプ氏も蘇ってそれを受ける。その審判の判断は、その時点までに起きた地球上のあらゆる変化を考慮して、トランプ氏が行った行動の善悪が判断されるからだ。当然、判定は「永遠の命もって地獄に行け」になる。「トランプ氏よそれでも良いのか」、と言われると、我々のような多神教徒には何のことか全く分からないけれど、不熱心であっても、一応のキリスト教徒であるトランプ氏なら、かなり心に響くのでは。本当に、ローマ法王あたりに何か言って貰いたいぐらいだ。地獄で毎日怪物のエサになるのだけれど、翌朝には、なぜかまた蘇っていて、前日と同じことの繰り返し。これは嫌だろう。 A君:なるほど。まあ、この話はここまでにして、リスト化すれば、 トランプ氏の主張の弱点のリスト 1.「温暖化はでっち上げだ」がウソである証明は、科学的には簡単であるという弱点。 2.「石炭復帰」は、経済的理由で実現しない。普通のビジネスマンなら分かることが、彼には分からない、という弱点。 3.米国のグローバル企業は、「国連の責任投資原則」などの影響力を分かっていて、世界のインテリ層の反応を考慮して運営しないわけには行かないので、トランプ氏とはもともと相容れない。 4.身内のイヴァンカさんが、今回の離脱に反対しているのは、全くの推測なのだけれど、トランプ氏よりもはるかに真面目な平均的なキリスト教徒だからなのではないだろうか。「自分が父親を説得できなかった責任で、自分も地獄に堕ちるのは嫌だ」、と思っているかもしれないということ。ということは、トランプ大統領は、大切な身内からも見放される可能性があること。 B君:まあ、そんなところか。ついでだから、小池都知事の豊洲関連の弱点をトランプ氏と同じような項目でリスト化しておくか。 1.「豊洲は築地より危険だ」が「でっち上げ」であることは、科学的に簡単に証明できる(次回にでも記事にしますので、お読み下さい)。 2.「築地復帰」は、政治的・経済的に実現しない。道路問題などの他の政治的な問題が起きるから。 3.十分にインテリである東京都民は、小池氏の本音、要するに、都議選で政治的な優位性を取りたいという本音を目の当たりにして、いい加減にしろと思い始めている。もっとも、東京都のインテリ層は、都議会自民党の非インテリ的な権威主義にも辟易しているので、選挙結果がどうなるかはよく分からないが。 4.身内に、イヴァンカさんのような全体的状況が分かっている支援者がいない。ほぼ身内相当の小島顧問が作る戦略は余りにも下心が見え透いていて、インテリ層都民には逆効果になっている。 A君:言葉遊びになっていますけど、なかなか良い比較可能なリストになっていると思いますね。政治家の手法というのは、おそらく、世界的に同じなのですね。 C先生:ちょっと真面目に戻って、せめてトランプ氏の主張の弱点の記述も、一つぐらいはやって終わろう。 B君:それでは、「温暖化がでっち上げでないことの証明は簡単」だけいきますか。 それに必要な、最小限必要な知識は、 1.地球温暖化の熱源は、太陽光である。 2.温室効果ガスとは、赤外線を吸収するガスであり、太陽光は可視光であり、温室効果ガスを透過する。 3.可視光として入射された太陽熱は、地球が地表から出す赤外線として地球から宇宙に再放出される。 4.太陽熱の出入りと温度との関係は、以下の通りの原則が成立する。 (a)熱の入射量と放出量が等しければ、地球の温度は一定に保たれる。 (b)もし、入射量>放出量なら、地球には熱(エネルギー)が蓄積され、地球の温度が上昇する。 (c)もし、入射量<放出量なら、地球の温度が低下する。 5.CO2などが大気中に存在すれば、大気中のCO2ガス分子が地表から放出される赤外線の一部を吸収し、再放出する。ガス分子から再放出される赤外線は、全方向に均等に放出されるので、放出量の約半分は、地球に戻るため、熱の入射量>放出量という条件が成立し、温暖化する。 6.そのため、CO2のように赤外線を吸収する大気成分を温室効果ガスと呼ぶ。 A君:その通りなのですが、「最小限」の知識が実はかなり量的にも多いし、それぞれの項目について、熱力学の基礎中の基礎の内容ではあるのですが、果たして、高校までの物理でどこまで習うのでしょうか。 B君:どうやら物理ではなくて、「地学」で習うらしい。地学の履修者は現時点で何%なんだ? まあ、知らないことを前提とすべきなのだろう。 A君:こんなサイトを見つけましたが、しかも、教科書に乗っている図がひどいとか。 http://www.mech.nias.ac.jp/biomass/murakami-book-2kou.htm B君:確かに、この図には全く定量性がない。困ったものだ。せめて教科書ぐらいちゃんとした図を載せて欲しいものだ。 A君:いまだに懐疑論のビジネスマンと話をしても、実は、この最小限の知識の理解は難しいのかもしれない、というのが正直な感想ですね。だって、学者にも懐疑論者が居た(居る?)のだから、懐疑論にも正当性はあると思っているようでした。 C先生:これまで、色々と異論を唱えてきた温暖化懐疑論者でも、上の最小限必要な知識はあり、そのメカニズムについては、学者であれば、当然、同意している。すなわち、温室効果ガスが増えれば、温度が上がることは、専門家はすべて同意しているのだ。問題は、どのぐらい上がるかだった。特に、CO2濃度が2倍になったときに、何度上がるかを「気候感度」と呼んで温暖化の目安としようという動きがあった。 コンピュータシミュレーションというものには、実際、怪しい部分がある。そのため、かなり数多くの計算が蓄積されて、やっと、もっともありそうな傾向が分かる。IPCCの第五次報告書になって、やっと充分の数のコンピュータシミュレーションの結果が蓄積されて、懐疑派の学者も、まあ、認めなければならないと思うようになったようだ。 どこがもっとも難しい計算になるのか、と言えば、それは雲の影響だとされている。温暖化すれば、地表からの水分の蒸発量が増えるので、確かに雲は増える。そして、雲が存在すれば、太陽光の地表への入射量は減る。そして、気温はその分下がる。また、雲の中の大気の動きは複雑なので、上昇気流による宇宙への熱伝達は増加し(あるいは低下し)、やはり気温が低下(上昇)する可能性もある。そして、これらの影響を計算で確実に出すのは、至難の技だ。 そして、「気候感度」の問題になると、なかなか同意できない人も多かった。そもそも、「気候感度の計算」という特別の計算があって、それを実施すれば良いのだ、と誤解しているビジネスマンも多いようだ。経産省の長期プラットフォームでの気候感度への指摘も、極めて不完全な記述なので、一見すると似たようなものに見える。経産省には、理系の役人も多いのだから、もっと科学的な説明を分かりやすくすべきだと思う。 さて、学者に話を戻せば、懐疑論者が過去に多かった理由だけれど、温室効果ガスが気候変動の主たる要因であることが確定すると、自分の専門領域、例えば、太陽活動の変化による気候や環境の変化や、北極海の氷の気候への影響などが主たる問題ではないということになり、その結果として、自分への予算配分が減るから困る、と思う学者が多かったのだ。 実は、今でもその傾向はしっかりあって、その理由は、若い環境学者が自分の狭い研究範囲でしか活動しないためなのだ。これではダメだ。何が「正義」なのかといった議論、日本人にとっては「青い議論の一つ」なので、正面から取り組むのは気恥ずかしいと思う人も多いのだけれど、世界を見渡すと、いまだに極めて重要な議論なのだ。「何が正義か」のような議論の重要性を認識しなくなってしまった環境学者は、トランプ大統領よりも存在する意味がないと思う。 |
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