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温水洗浄トイレ「使わない」を減らせ!

「おしりだって、洗ってほしい」。
昭和50年代に放送された温水洗浄トイレのCMのキャッチフレーズを覚えている方も多いかもしれません。ことし5月に創業100年を迎えた北九州市の住宅設備メーカーTOTO。代表的な製品が温水洗浄トイレ「ウォシュレット」です。「トイレ革命」とも言われた、この製品の発売から40年近く。今や、珍しいものではなくなりましたが、公共の場所にあり、不特定多数の人が使う温水洗浄トイレは「汚い」と使うのを嫌がる人もいます。「清潔さ」と「快適さ」を追い求めて温水洗浄トイレの進化が続いています。
(北九州放送局 木村光宏記者)

公共トイレで「使わない」!?

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TOTOの温水洗浄トイレは、昭和55年の発売開始以来、家庭だけでなく、駅や病院、それに商業施設など、多くの人が集まる場所にも設置されるまで普及しました。内閣府の調査でも、去年3月時点で、単身世帯を除く2人以上が暮らす家庭での温水洗浄トイレの普及率は81.2%と、今や私たちの生活になじみの深いものとなっています。

「清潔さ」がセールスポイントの1つの温水洗浄トイレですが、実はこの「清潔さ」に疑問を持つ人もいるようです。実際に街で聞いてみると、不特定多数の人が集まる場所の温水洗浄トイレを使うことについて、「使うことに少し抵抗がある」「掃除がきちんとされているかわからないので使いたくない」などと「清潔さ」の疑問から使用を“ちゅうちょ”する声が聞かれました。

TOTOがかつて行ったアンケート調査でも、利用者にこうした意見があることが分かり、社内に衝撃が走ったといいます。会社では、より「きれい」にこだわって、温水洗浄トイレを進化させる取り組みを進めたのです。

水の“除菌力”をあげろ

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最初に改良に取り組んだのが、おしりを洗うノズルです。ノズルは、清潔さを保つため、お尻に当てた水などが跳ね返らないように設計されていましたが、念には念を入れようと、使う前と使い終わった後の2回、ノズルを洗浄する仕組みにしていました。

会社では、さらにノズルを洗う水の除菌力を上げようと考え、水を電気分解することで、除菌能力が高い成分が多く含まれるようにしました。

しかし、ここで1つの壁にぶつかりました。どこも同じだと思っていた水ですが、実は場所によって除菌につながる成分の含まれる量が違っていたのです。今や海外にも販路を広げている温水洗浄トイレ。どこでも一定以上の除菌能力の確保が求められます。

そこで会社では、国内外から実に8000か所の水のデータを集めて分析しました。試行錯誤を重ねること3年。一定の除菌能力が保てる水の電気分解機器の開発に成功しました。この機器、全長はわずか6センチ余りですが、この中を水道水が通るだけで、除菌能力が高い水に変えることができるようになったといいます。これを使ってノズルを2回、洗浄するようにしたのです。

担当者は「ノズルがきれいに、清潔になっているということを理解してもらえれば、使っていただける方も増えるのではないかと思っています」と話していました。

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水の電気分解機器

ノズルからの「水玉」に工夫

「清潔さ」だけではありません。会社がこだわって取り組んだのが「快適さと節水の両立」です。どうすれば利用者の「快適さ」を失わずに、水の量を減らすことができるのか。

会社が注目したのが、ノズルからの水の「出し方」でした。ノズルから出る水、実は水玉となって噴射されています。大きな水玉はスピードが遅く、「洗った」という感覚が得られにくいといいます。それではスピードを優先して水玉を小さくしてみると、これも「洗った」という満足感にはなかなかつながらないそうです。

「では、どうする?」。開発チームが出した答えは、大きな水玉と小さな水玉を交互に噴射することでした。最初に大きな水玉を噴射、そのあと、追いかけるように小さな水玉を噴射することで、スピードを落とさずに、しかも洗浄時に満足感を得られる水量を確保でき、節水にもつながったということです。

水の出し方 (37秒)

世界で4000万台以上に

ことし5月で創業から100年を迎えたTOTO。タイに新たな工場を建設することを発表しました。生産した製品をタイ国内に出荷するとともに、アジアやオセアニアの国にも輸出することにしています。アジアやオセアニアでは、経済の発展に伴って下水道の整備が進み、便器や洗面台などの衛生用の陶器の需要が増えているということです。

現在、海外の生産拠点は12か所。温水洗浄トイレは、これまでに世界で4000万台以上が販売されていますが、さらに販売を伸ばそうと、会社では、気温が高い東南アジア向けには洗浄水を加熱する機能を取り除くなど、地域に合わせた商品づくりを進めています。

また、機能性だけでなくデザインの革新にも取り組んでいるということです。取材した開発チームのメンバーは「温水洗浄トイレに100%という答えはなく、どこまででも進化できると思っている。お客さんも今よりも質が高いものを要求してくると思うので、現状に満足しないで追求していきたい」と話していました。

今や、日本のモノ作りを代表する製品の1つとなった温水洗浄トイレ。今後も「清潔さ」と「快適さ」の追求は続きます。

木村光宏
北九州放送局
木村光宏 記者
平成17年入局
松江局、広島局をへて
現在、北九州で経済などを担当