ハロウィンやパーティー、浮かれた宴会などで大活躍しがちなおもしろマスク。
最近ではトランプ大統領のものまねマスクがバカ売れしているなんてニュースでも話題となったけど、アレは企画してからどれくらいで作れるものなんでしょうか?
日本で唯一、ラバーマスクを作っているという「オガワスタジオ」さんに聞いてきました!
こういうマスク、パーティーグッズ売り場でよく見かけるでしょ?
…ということでやって来た、オガワスタジオさん
閑静な住宅街の中、生首…ならぬおもしろマスクがズラッと並べられてインパクトあり過ぎです
マスクの企画から営業までこなすオガワスタジオの八木原さん。パティシエからマスク会社へ転身、という変わった経歴の持ち主なのだ(写真を撮ろうとしたら、いろんなところを顔認識しちゃって大変だった…)
――タイムリーなマスクが絶妙なタイミングでポーンと発売されたりしますけど、アレは企画からどのくらいで作れるものなんですか?
八木原 一番早かったのだと、企画から発売まで1か月っていうのがありましたね。
――1か月!? どんなマスクのときですか?
八木原 野田総理の。
――ああー(笑)。野田さんが総理だったこと自体、今思い出しましたよ!
八木原 総理大臣シリーズは小泉さんから作ってたんだけど、「感動した!」とか「郵政民営化!」とか、マスクをかぶって言いたくなるフレーズってあるでしょ? そういうのがないと売れないんですよね。だから野田さんはやめておこうと思ってたんだけど、「作らないの?」って問い合わせがやたらと来たもんで、仕方なく作ることにして…。1週間でサンプルを作って、1か月後には発売までこぎつけましたね。
――…そこまで苦労して作った野田総理のマスクは売れたんですか?
八木原 あんま売れなかったね(笑)。総理シリーズで一番売れなかった。
現在の総理・安倍さんのマスク。ちなみに第1次安倍内閣のときに作ったマスクはもっと顔色が悪かったそうです。体調悪いのを見抜いてたのか!
トランプ&ヒラリー。どちらもかなり強烈な顔をしています
――最近だとトランプさんのマスクがバカ売れしているみたいですけど、トランプさんが選挙で勝つって予想してましたか?
八木原 いや別に(笑)。アメリカ大統領だと、オバマさんのマスクが結構売れていたんで、次期大統領候補で話題になっていたヒラリーとトランプ、両方作ったんですよ。でも、コレが全然売れなくて。テレビでは選挙戦がすごく話題になってたんだけどね…。ところが、いざトランプさんが次期大統領に決定したらバーンと注文が入ってきて。
――よくも悪くも濃いキャラだからマスクをかぶりたくなりますよね!
八木原 注文が殺到しすぎて、フル回転で作っても間に合わないレベル。問屋に「トランプはもうない」っていったら「もうヒラリーでもいいから送って!」って。そっちでもいいのかよ(笑)。
――昔は、風船や海外向けのラバーマスクを作っていたそうですけど、いわゆる「ものまねマスク」の最初って何だったんですか?
八木原 「デッパ男」! 当時、テレビで『オレたちひょうきん族』がすごくはやってたんで。それがすごく売れて、今でも続いているという感じです。
――どういう芸人だったら作る、作らないっていう基準はあるんですか?
八木原 実は、コントや漫才のネタがおもしろい人ってマスクに向いてないんですよ。ネタで勝負している人って表情がおもしろくないんで。
――ああ、顔やリアクションで笑わせる系のほうが向いていると!
八木原 名前を明記しなくても顔を見るだけでネタのイメージが出る人。たとえば、今出ている「ヤバいマスク」だったら、誰なのかすぐにわかるじゃないですか。顔とキャッチフレーズがわかる。
「ヤバいマスク」…うん、あの人しかいないですよね
――ちなみに…怒られたことはないんですか?
八木原 芸人さんからはないですね。以前「カリスマ先生」っていうのを出したら、どこかのネットショップが勝手に「林先生マスク」って書いて売っていたらしくて、それを見た予備校から連絡が来たことはありましたね。
――芸能事務所より予備校のほうがうるさいんだ。
八木原 でも猪木さん風マスクはまったく言ってこないですね。自分の選挙のときにみんなでかぶって運動してくれてましたよ。
――オフィシャルがかぶってくれた(笑)。
八木原 大村崑さん(オロナミンCのおじさん)が、展示会を見にきてくれたことがあって、並べられているマスクを見て、「たけしくんもさんまくんもいるんだ…。ボクがもうちょっと若かったら作ってもらえたのにねぇ〜」なんておっしゃってましたけど、マスクが作られるというのは、ある種、人気のバロメーターですよね。
――マルベル堂のプロマイドみたいなものですよね。
八木原 それと、ものまねマスクといっても、実はそこまで写真そのまんまで作っているわけじゃないんですよ。ボビー・オロゴンが取材で来たときも、マスクと並んでみたら全然違う。本人の写真に似せるというよりは、世間が思っているイメージをマスクにしているんです。
――似顔絵を描くのに近いのかもしれませんね。
八木原 もちろん写真も参考にするんだけど、それ以上に、どこをどういうふうにデフォルメするかということを考えて作っています。それに、マスクってワンポーズしかないじゃないですか。それでも、かぶったらいろんな表情に見えるように作らなきゃいけない。
確かに、見る角度によって印象が変わる絶妙な表情をしています
八木原 だから絶対、左右非対称に作るの。そうすると表情が生き生きしてくるんです。逆にアニメのキャラクターを作るときは左右対称に作るんですね。
――そうか、人間っぽさがなくなるとキャラクターらしくなるんですね。興味深い話です! しかし、孫悟空の髪型とかすごく難しそうですよね。
八木原 難しい(笑)。コレは前髪が別型で、後から接着しているんですよ。型を逆さまにして、首のほうからラバーを流し込んでいくんで、前髪があると中に入っていかないし、抜けなくなっちゃう。
スネ夫の髪型と並ぶ、立体にしづらそうな悟空の髪型
こんな感じで別体で作っているそうです
八木原 ピッコロのツノや、ラーメンマンの髪も別体です。従業員からは大変だからやめてくれって言われますけどね。
――マスクによって目に穴が開いてたり開いてなかったりしますよね? コレはどうしてなんですか?
八木原 いや、全部のマスクに目の穴は開けてありますよ。マスクの目の部分に穴を開けて、それで外が見えれば一番いいんですけど、造型の都合でそれじゃ見えづらければ、別の部分に開けるんです。まつげの部分だったり、眉毛だったり…黒い色の部分に穴を開けると目立たないんですよね。
意外な場所にのぞき穴が!
こんなところにも!
八木原 外注仕事の場合は、「人間がかぶることを無視して造型してくれ」って言われることもあるんですけど、ウチはフィギュア屋じゃなくてマスク屋なんで! 絶対に目の穴は開けるようにしています。
――企画は八木原さんが考えてるんですか?
八木原 会社の若い子たちからの意見も聞きますけど、最終的には私ですね。だから今、58歳なんですけど、ずっとその若い頭にしておかなきゃならない。やっぱりこういうマスクで遊ぶのは若い人が多いんで。10代後半から20代…せいぜい30代くらいまでですよ(40代、50代のコレクターもいますが)。だからバラエティー番組ばっかり見て、若い感覚についていけるようにしています。
――それじゃあ、これからマスクにしたい人はいますか? この人が総理になったら売れそうだな…とか。
八木原 うーん、どうかな。しばらくは安倍さんが続きそうでしょ?
――昭恵夫人のマスクとかは?
八木原 ブラック過ぎるかな…。ウチの商品は、かぶって楽しい気分になれるというのが大前提なんですよ。だから「北朝鮮の金正恩マスクを作れば絶対に売れるよ」とかよく言われますけど、そういうのは避けてますね。
――なるほど、パーティーグッズとしては正解ですね。
八木原 これから作ろうと思っているのは、最近の女の子はネットでも何でも顔を出したがる傾向にあるなと感じていて。だからこういうフルフェイスのマスクじゃなくて、ある程度顔が見えるマスクのほうがいいのかなって思っています。
――確かに! やっぱりアンテナ感度が高いですねぇ!
会社の隣には工場も併設されているんです
まずは、すべての元となる原型を特殊な粘土で作ります
型から取り出すとこんな感じ!
工場内のいたるところに転がっているコレが量産用の型!
――何かマスクを買って帰りたいんですけど、おすすめありますか?
八木原 今だったら…コレかなぁ〜。
コレっすか!
株式会社オガワスタジオ
埼玉県さいたま市大宮区堀の内町1丁目86
048-641-4735
http://ogawastudios.co.jp/
※5人以上の団体で工場見学ができるそうです。詳しくは会社まで問い合わせてみてください(人数分の商品の購入が必要です)。
藤子・F・不二雄先生に憧れすぎているライター&イラストレーター。「デイリーポータルZ」「サイゾー」「エキサイトレビュー」他で連載中。