みなさんはリスクを取ることについてどう思っていますか?
いろいろ突拍子もないことを始めては成功しているイーロン・マスクが、以前TEDのインタビューで(最近のじゃなくてその前の)、「自信があるから大きなリスクを取れるんじゃないかと思うんだが、コツはあるのか?」と聞かれて「物理学。物事を分析して推理するんじゃなくて、本質的な真理から推測するわけ」と答えていました。
その辺の会話は最後の方、18:05あたりから。
「本質を見て推測すること」
今村は、人生全てにおいて、リスクを取るコツはまさにこれだと思っています。全てに物理学が使えるかと言うとそれはないですし、彼が言うようにある程度の分析も必要なのは確かですが、本質を見て判断しようと心がけるだけでリスクが取りやすくなります。自信を持って(または実際に自信が持てなくても自分で納得して)判断を下せるようになるからです。
では、「本質を見る」とは具体的にどういうことでしょう?今日は投資の文脈で「本質を見てリスクをとる」ということについて書きます。
本質を見ることを心がけてリスクをとるとどうなるのか
その前に、今村のポートフォリオのパフォーマンスを一応見せておきます。なるべく本質を見て良いと思ったもの(=グッと来たもの)を買って、1年に1、2回見直しする以外は基本的に放置、各種指標も決算報告もわざわざ見ない、という投資法です。
個別米国株のポートフォリオ
以下は、1万ドルを基準値として今村の個別米国株のポートフォリオをS&P500と過去10年に渡って比べたグラフです。緑が今村のポートフォリオです。
NASDAQ、Dow Jones、Russell 2000は配当の再投資を含まないデータなので、ここでは配当の再投資を含むデータが得られるS&P500とだけ比較しています。過去10年しか遡っていないのは、使っているソフトの都合上S&P500のデータをそれ以上遡って表示できないためです。
S&P500に投資して配当を再投資し続けた場合より良い結果になっています。
ETFのポートフォリオ
これはもともと会社の401(k)だった口座です。個別株は当時選択肢になかったので、投資信託のみで運用していました。会社を辞めてからは個別株も選べるようになりましたが、全部買い換えていくのが面倒だったのでETFでざっくり運用しています。
個別株のポートフォリオと同様に過去10年間のパフォーマンスをS&P500と比べた結果は以下の通りです。
個別株のポートフォリオに比べると劣りますが、S&P500よりは良い結果が出ています。
投信やETFに関しては、
- 単純にパフォーマンスがコンスタントに良いファンドにとりあえず資金を入れておいて、
- 自分で銘柄を選びたくないけれど、上がると思われる市場やセクターに特化したファンドに投資したり
- 「買い足す時期ではないけれどポジションを増やしたい」という銘柄が組み込まれているファンドに投資する
……というのが基本的なスタイルです。
1は本質と全く関係ないし、2は本質的な理由を探して判断しているとは言え「市場やセクター」というざっくりした括りだし、3に関しては既に本質的に良いと思って保有している個別株のウェイトを上げるという形とは言え他の銘柄もたくさん混じっているファンドを買うことになるので、かなり大雑把です。でもそれが恐らく個別株のポートフォリオより平均に近くなった理由でしょう。
本質を見るとはどういうことか
さて、「本質を見ていけば日々いろいろな指標や数値を見ていなくてもそれなりのリターンが得られ、逆にあまり本質を重視していないとリターンが下がる」とわかったところで、考えたいのは「本質を見るとはどういうことか」です。
「企業や事業の本質」と言うとちょっとピンとこないですね。でもこれは人の本質を見るのと同じだと考えると分かりやすくなります。
人の本質
「人の本質」というのは、人格とか人柄、つまりその人が根本的にどういう人なのかということです。
人付き合いをする上で、人は皆、相手のことをなんらかの形で評価しています。そして「この人が言うなら本当だろう」とか「この人に任せておけば安心」と判断したり、「この人は口ばかりであてにならない」とか「この人にだけは頼みたくない」と判断したりしているわけです。
もう少し細かく言うと、その人をどの文脈で評価するのかによってどの側面に注目するかが変わります。例えば、相手がどれだけ責任感があって頼りになる人でも、子供や動物に好かれないタイプの人だったら自分の子供やペットを預けたいと思いませんよね?
つまり、人の本質とは「ある一定の事柄に関してその人が信頼できるかどうか」という見極めポイントだと言えます。
企業や事業の本質
企業や事業の本質も考え方は同じです。
顧客に寄り添っている、社会的責任を考えている、透明性を意識している、従業員を大切にしている、株主に対する責任を果たしている、常に新しいアイデアを出しているなどが本質的に良い企業体質の例です。逆に、時代の変化に柔軟に対応できない、何か問題があったときに適当な対応を迅速に行うことができない、系列会社のしがらみで切るべき事業を切れないなどが良くない企業体質です。
たとえ決算報告や指標などを見る限りでは健全でも、本質として問題があれば、それはいずれ企業の未来に影響します。その一方、数字的に一時的な問題があっても本質的にポテンシャルがある企業であれば現状を乗り越えて大きく成長する可能性があります。
そういう意味では、「この企業に長期投資できるか」というのは「ある一定の分野・事業においてこの企業を本質的に信頼してお金を預けられるか」ということだと言えます。
どこで企業の本質を見るのか
では、どこで企業の本質を見ればいいのでしょう?
人の場合、何をしている人なのか、どんな経歴(知識や経験)があって現在どんな状況にいるのか、普段どんなことを考えてどんな行動をとっているのか、直接会うとどんな人なのか、身近な人にどう思われているのかなどを見ていけば、その人の人格や人柄について判断できるようになります。
企業の場合も同じです。
基本情報
「何をしている人なのか」と「どんな知識や経験があるのか」に相応するのは事業内容や経営陣です。
「現在どんな状況にいるのか」を判断するために見るべきなのはEconomic Moatです。(Economic MoatについてはVISAの事例で説明しているのでそちらを参照してください。)
「普段どんなことを考えてどんな行動をとっているか」は経営理念や戦略を見ればわかります。社員にどのような働き方をさせているか、どのようにイノベーションを起こしているかなどの社風にも表れます。
直接情報
「直接会うとどんな人なのか」は、企業にあてはめると、店舗に行ったらどんな印象だったか、サービスや商品を試したらどうだったか、問題があった時にどんな対応をしてくれたかなどです。
よく「身近な企業に投資するといい」と言いますが、あれは要するに直接情報がそれほど有益だということです。いつも使っているサービスや商品で、「これは素晴らしい」とコンスタントに思えるものがあったら検討の価値ありと言えます。
ちなみに、今村は「ひふみ投信」のパフォーマンスが良い理由の1つは、レオス・キャピタルワークスが机上の調査だけでなく投資先の企業を訪問もしているからだと思っています。個人投資家はなかなかそこまでできませんが。
間接情報
個人投資家にとって日常的に「直接会う」ことができるのはどうしても消費者向けの商品やサービスを提供している企業に限られます。BtoCの企業であっても特定の地域でしか事業展開していなくて実質的に「直接会う」のが難しいこともあります。米国株はそういうのが多くなります。
となると、「身近な人にどう思われているか」が次の情報源となります。企業の場合、一番良い「身近な人」は内部事情が分かる従業員です。次に良いのは一般大衆でしょう。
そしてそのような情報を得る方法で一番手軽なのは各種ランキングです。こんな感じの。↓
2017年USベスト雇用者ランキング(大企業版)
— 今村咲 (@saki_imamura) 2017年5月26日
大企業で働く人3万人を対象としたアンケートによるランキング。「自社を働く場所として友達や家族にオススメしますか?」「自社以外でオススメする企業はどこですか?」と聞いた。https://t.co/G6GoHu9gxG
アメリカのインターンの給料ランキング。トップのFacebookは中央値が月額8,000ドルだって。日本はどうなんだろう? https://t.co/bJkDkglcbC
— 今村咲 (@saki_imamura) 2017年5月6日
アメリカで信頼されてるブランドランキング
— 今村咲 (@saki_imamura) 2017年4月2日
3年間トップだったAmazonを退けてRolexが1位に。
去年トップ10から落ちたLEGOとHersheyが返り咲き。
AMEXはトップ100から脱落。
(実際のランキングは記事の最後)https://t.co/k4GVroIDZH
あとは経営陣のインタビューや企業に関する記事も情報源になります。インタビューは特に映像で見るのがオススメです。CEOなどの人柄や信念がわかると面白いので。
企業の本質をどう判断するか
上に挙げた情報を実際にどう解釈するかは、最初に出した「ある一定の分野・事業においてこの企業を本質的に信頼してお金を預けられるか」という質問に戻って考えれば分かります。
どの文脈でどの側面をどう判断するかは最終的には投資家次第ではありますが、文脈をしっかり定義すれば、少なくとも自分が検討したい側面がどこかはわかってくるはずです。そしてその側面を検討したうえで、「信頼してお金を預けられるか」と自問自答すれば良いわけです。
ただ、人格や人柄を上手く評価できるようになるためには人を見る目を養う必要があるのと同じように、これにはある程度の練習と経験が必要になります。
ですので、最初からは上手くいかない可能性もあります。でも人を見る目を養っておけばのちのちの人生が楽になるのと同じで、投資先の企業を見る目を養っておいて損をすることは絶対ありません。
ポイントは、自分がどういう理由で結論を出したかを明確にしておいて、あとから検証して学んでいくことを繰り返すということです。最初は少額で試すと良いです。
まとめ
いろいろ書きましたが、全てを考慮しなくてはならないということではありません。自分なりの視点で本質を見ることを心がければ十分です。また、指標や決算報告に関しては、Economic Moatがあって本質的に良いと思える銘柄であれば細かい数値は見なくてもそれほど支障はないというだけで、参考にならないという意味ではありません。
あたしが株式の諸々の指標を見ないのは、基本的にWide moatの銘柄しか買わないから。オリンピックに出場できるレベルの人のタイムをチェックする必要がないのと同じ。金メダルである必要は全くないので。
— 今村咲 (@saki_imamura) 2017年6月2日
でも、長期投資を前提にした場合、この逆の「指標や決算報告をしっかり見ていれば本質は見なくても支障がない」というケースはまずないはずです。
本質的にポテンシャルがあると思える企業に投資すれば、多少市場がぐらついても平気でいられるのでリスクを取りやすくなりますし、実際にリターンも上がりますので試してみてください。
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リスクについてはこちらでも書いています。