レンタルDVDにスカパーやケーブルテレビ、ネット配信と、今や映画は自宅で観るのが当たり前の時代。だが、そうした時代にありながら、劇場ならではの魅力を追求した結果、北は北海道から南は沖縄まで、一本の映画を観るために日本中から観客がやってくる映画館がある。それが立川シネマシティだ!
Yahoo!ライフマガジン編集部
音がでかいだけじゃない! 一作品ごとに調整されている極音・極爆上映
立川シネマシティはシネマ・ワンとシネマ・ツーの2館に計11スクリーンを持つ、一見すると普通のシネコンだ。にもかかわらずいわゆる地域型シネコンにとどまらないのは、常時開催されている「極上音響上映」「極上爆音上映」(以下「極音」「極爆」)と名付けられた音響システムや、映画ファン目線で作られた会員システムよるところが大きいのだろう。
今回はこれらのアイデアを生み出している企画室室長の遠山武志さんに話を伺った。
ーーそもそも「極音」「極爆」とは何なのでしょう。
- 遠山さん
- 遠山さん
- 「極音」「極爆」は作品ごとに、音響の専門家や作品を手がけたスタッフにお願いして、上映する劇場にあわせた最適な音響に調整して上映するというのが基本のコンセプトとなります。
ーー単純に大きな音を出すということではないんですね。
- 遠山さん
- 遠山さん
- そうです。当館は常識ではありえないぐらい音響設備にお金をかけていて、映画用ではなく音楽用の、それこそライブハウスやホールなどで使われている、世界最高クラスのスピーカーを導入しています。たとえばシネマ・ツー1階のaスタジオは、スクリーン側のフロントスピーカーだけでもざっくり6000万円ぐらいします。
ーー前面のスピーカーだけで約6000万! でも作品ごと、スクリーンごとなだけに、音響調整にはかなり手間がかかりそうですね。
- 遠山さん
- 遠山さん
- ええ。「極音」「極爆」と称する場合は音響のプロの方、可能であれば上映される作品に直接携わった音響監督さんや関係者さんにご来館いただいて、手間も時間をかけて調整をお願いしています。そのことで、作り手側が出したかった理想の音を再現していただくわけです。
この手間とコストで、シネマシティの作品への愛を証明します。ただ、調整自体は通常の上映が終了してから深夜に行うため週1〜2回は徹夜。僕も現場に立ち会うので、生活リズムはボロボロです。愛も楽じゃないですね(笑)。
イベント会場化しつつ料金据え置き、どころか格安会員制度も
- 遠山さん
- 遠山さん
- 「極上音響上映」の最初の作品は『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』(2009)で、亡くならなければ行われるはずだったライブのリハーサル風景を追ったドキュメンタリーです。これが最初にしていきなりの、とてつもない大成功でした。
例えば海外アーティストの公演が東京ドームで行われるので遠方から観に来るというのは普通ですよね。だけど映画はそれこそ日本中で同じ作品を公開している。にもかかわらず、『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』のときは大げさでなく日本中からお客さんが集まったんですよ。
ライブの音響を再現する形での上映を目指した結果、ファンのみなさんにとってもドームやアリーナに行くような、映画館というよりも音楽イベント会場のような認知をされたんじゃないかと思いました。
以降、「極上音響上映」はミュージカル映画やミュージシャンのドキュメンタリーといった、音楽を軸にした作品をメインに上映していく。その中で、アクションやSFといった効果音の迫力がある作品も音響調整を行った音で観たいという声も出てきた。
- 遠山さん
- 遠山さん
- 巨大ロボットと巨大怪獣が戦う『パシフィック・リム』(2013)でお客さんが大声を出しながら鑑賞することをOKとした「絶叫上映」というイベントをやったところ、反響がすごかったんですね。
こうした作品の高音質上映の需要は間違いなくある。そして当館には自慢の音響設備もある。新たなものを仕掛けようと探っていたタイミングでやってきたのが、ハリウッド版の『GODZILLA ゴジラ』(2014)でした。
そこで重低音用のサブウーファーを増設して、極上の音にして建物が揺れるほどの重低音が響く、「極上音響」ならぬ「極上爆音上映」をスタートさせました。
ーー極爆で『GODZILLA ゴジラ』観たかった!
ーーそれにしても、かなりの手間をかけているのに、極音や極爆はIMAXや4Dとは違って料金据え置きですよね。
- 遠山さん
- 遠山さん
- それには理由があって、うちはやけに音響にこだわってはいるのでマニア向け映画館と思われるかも知れませんが、普通に新作を上映するシネコンでもあるわけです。たまたま目にした新作を観たくてふらっと来ていただいたのに、極音だから、極爆だからプラスいくらですと言われても、「そんなの知らないよ」となりますよね。
今でこそ映画ファンには広く知っていただいていますが、普通の方は知るはずもありません。料金設定で鑑賞のハードルを上げるのは避けたいんですね。それに目の前の幾ばくかの利益を取るより、まずはご覧いただいて気に入ってもらえたらファンになっていただけるかも知れません。そうしたら結果的に支払い総額はアップします。
また、現在は多くの映画館で曜日や時間に応じての割引サービスが行われているが、立川シネマシティではこの手のサービスもポイントサービスも行っていない。
代わりに導入しているのが、半年600円、または年1000円の会費で平日1000円、土日1300円で鑑賞できる会員サービス「シネマシティズン」だ。
これはつまり、映画館に到着してから「明日なら割引なのに!」と気付いてしまってなんだか悔しい、そんな気分にならずに済む、ストレスフリーなサービス。しかも平日ならその場で半年会員に加入してチケットを買っても1600円。この時点で通常料金1800円より安い。しかも次回からは常に平日1000円。お得!
- 遠山さん
- 遠山さん
- 映画ファンの、観たいと思ったその気分を阻害してしまうものをできるかぎり排除していきたいんですね。いつでもお得な料金で、いつか貯まるポイントではなく今お得であること。曜日も時間も日付も性別も、「今観たい」という気持ちを妨げない、映画ファンの理想を実現したつもりです。そして価格を下げることで同じ作品でも何度も観てほしいという願いがあります。美しい音、気持ちいい音には麻薬的な魅力があるからです。
その他、記事には書ききれないが、大学や研究所が多い土地柄のためカルチャー層にアピールすると判断してミニシアター系の作品もかなりの本数を上映しているという話、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作(1985〜1990)を極爆でリバイバル上映して当時では絶対に体験できなかったサウンドに仕立て、満席を連発したエピソード、極爆史上最大のヒット作にして現在も断続的に上映中の『ガールズ&パンツァー 劇場版』(2015)の魅力、さらにはデジタル化によってこれまで以上に変化していくであろう映画館の未来にまで話は及び、遠山さんの映画マニアっぷりと、彼のような人がいる限り立川シネマシティでは今後も新たなアイデアに基づく企画を生み出し続けていくことを確信する取材となった。
極爆上映は3D映画以上に映画の中にいる感覚
日を改めて極爆上映で『キングコング:髑髏島の巨神』(2017)を、シネマシティズンに入会の上で鑑賞した(注:当記事で挙がるタイトルが怪獣映画ばかりなのは記者の趣味によるもので、実際にはもっと幅広いジャンルの作品が極音・極爆上映されています)。
結果、コングの雄叫びにドラミング、軍用ヘリの轟音、コングと怪獣たちの大激突、そしてエンドロール後の最後の最後に鳴り響く◯◯◯の咆哮と、客席にいながらにしてその場にいるかのように全身に響く重低音、と同時に大音量でありながらとんでもなくクリア。今では通常の映写スタッフの音響調整の腕も上がり、極音・極爆上映ではなくとも実はそのレベルで上映している作品もあるらしい。
近隣の方はもちろん、軽い遠出程度なら立川シネマシティがオススメ。まじで。
立川シネマシティ
住所:東京都立川市曙町2ー8ー5(シネマ・ワン)
東京都立川市曙町2ー42ー26(シネマ・ツー)
アクセス:JR立川駅から徒歩約5分、多摩モノレール立川北駅から徒歩約3分(シネマ・ワン)
JR立川駅から徒歩約6分、多摩モノレール立川北駅から徒歩約2分(シネマ・ツー)
電話:042-525-1251
定休日:無休
- 口コミ・写真など
※この情報は取材時の情報です。ご利用の際は事前にご確認ください。
取材・文・写真/田中元