東方円菓譚
作者:水粘土
お菓子の準備はできましたか?あってもなくてもいいですよ。では、お楽しみください。
冬である。まあそれは今は置いておく。今考えていることは冬に関係ないし。紅魔館の主、レミリア・スカーレットは今、ある問題に直面し、その解決法を考えていた。
「───ドーナツが食べたい」
そう、彼女は腹が減っていた。腹が減っては戦は出来ぬという。
戦をするわけではない。ただ彼女はある意味空腹との格闘を繰り広げていた。
買いに行けばいいだけの話であるが、ところがそうは問屋が下ろさない。今は完璧で瀟洒なメイドが買い物に出かけているのである。加えて今は昼なのだ。先ほど冬であることを置いておくとしたが、それは今のこの燦燦照りを見れば置いておきたくなる気持ちもわかるだろう。そしてこれは彼女にとって重大な問題なのだ。
吸血鬼は日光に弱い。いつもなら日傘でも差して出掛けるのだがこうも突き刺すような日光にはお手上げである。まさにオテアゲ・ザ・グングニル状態であったその時彼女は一つの妙案にいたる。
召使いに行かせればいいのだ。うきうきしながら門の前で仁王立ちする中華風の女性に声をかける。
「おーいめーりーーん、ちょっとおつかいを頼みたいのだけどーー」
……しかし返事はない。首をかしげて数秒、答えに辿り着く。
寝ている。あの門番は主の目の前で寝ているのだ。
中国製門番に期待するのはやめ、他の方法を考える。
集中。神経を研ぎ澄まし、思考を1点に収束し思考する。それにふさわしい姿勢すなわち座禅。ブッダの如き体勢で深く思考の海に沈む。沈む、沈む。
また霧を出す?
→巫女が飛んでくる→ボツ
我慢して外に出る
→帰れてもドーナツを楽しめない→ボツ
図書室にくる泥棒を捕まえて買いに行かせる
→果たして帰ってくるだろうか→ボツ
むむむむ……と頭を捻っていると外で声が聞こえる。
「必殺の中国フリーーーズ!!」
外で美鈴が凍っている。どうやら氷精が遊んでいるようだ。
…しめた、と思った。
次の瞬間チルノは捕獲されていた。
運命は変わったのである。そういうものだ。
「……で、氷のトンネルを通ってきたと。お嬢様、私は時を止めているのですからもう少し待たれればお手を煩わせずに済んだのですよ?」
「そのとおりだったわ」
「そのドーナツは食べないのですか?」
レミリアは1つ取って拳で叩く。コンコンというおよそ菓子には似つかわしくない音が鳴った。
「このとおりカチカチに凍っちゃって食べられないのよ。どうすればいいかしら?」
「………………はあ……」
こうして吸血鬼の菓子は凍り、メイドは頭を抱え、門番も凍り、氷精はげっそりした。幻想郷は今日も極めて平和である。
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