先日SNS経由でこの記事を読みました。
非常に整理されており勉強になったとともに、僕ら自身が起業した当初も役員報酬で苦労した経験があったので、思い出とともに調べたことを整理したいと思います。
スタートアップの社長の給料は調達前20〜30万円、調達後は50〜100万円
上記のブログにも書いてある通り、スタートアップの社長の給料は調達前で20〜30万円、調達後は50〜100万円と言われています。nanapiのけんすうさんもブログで同様のことを書いています。
いきなり結論を書いてしまうと「20万〜30万」じゃないかと思います。都内では、30万あれば、だいたい快適に暮らせます。20万でも全然快適だと思いますが、社長とか役員になると、外との交流も必要なので、余裕を持って30万というのがいいんじゃないかと。
うちの会社でも、他の会社でもこのあたりが多かったので、そうかなあ、と。(中略)
もちろんこれは初期の話で、資金調達を億単位でするようになると、もう少し増やすケースが多いです。50万〜100万くらいにするケースが多いのかな?
ユーザベース、NewsPicksの創業者梅田さんもコメントで下記のようにコメントしています。
うちの場合は創業から下記のような感じです。重要なのは役員も含めて給与をオープンにして会社の成長と各自の報酬を含めた成長が連動する。すなわち「Growth Together」を会社の仕組みとして明確にする事の方が大切。
2008年〜2009年:10万円-20万円
2010年〜2012年:30万円
2013年〜2014年:108万円
会計ソフトfreeeを提供するFreee株式会社の佐々木さんはもっと尖っており、1〜2年目までは給料が5万円だったようです。
佐々木 すごいもらってました。楽だし(笑)。すごいぬるい人生送ってたんですけど。でも、僕は起業したときは、最初1〜2年目の自分の給料は5万円。
小野 月5万円ですか? 熱いですね! お小遣いじゃないですよね?(笑)。
佐々木 役員報酬は、1年間変えちゃいけないんですよ。だから、もう5万円と書いて。それはもう、年金事務所に行って「すいません。保険料一番安くしたいんですけど、いくらがいいですかね?」と言ったら、「5万円がいいんじゃないですか」と言われて。
駐車場のシェアリングサービスを提供するakippaでは18万5千円、社員番号5番目の副社長が20万円からスタートしたようです。
金谷 うちの場合は、前職がもともとみんな低いところを流れた人間なので、入ったときは18万5000円とかです。
副社長が社員ナンバー5番で、今、人事やってるんですけど。だいたい20万ぐらいですかね。それで、だんだん昇給していくというか、成果に合わせて上がっていくというかたちです。今はたぶん、けっこうもらってると思います。
ファッションコーディネートアプリを提供するVASILYはノリで決めて25万円だったそうです。
金山 僕ら、創業のときは2人とも25万。
小野 25万!?
金山 ノリで決めてました。当時30歳で結婚もしてましたけど、もう25万と。
先日のブログでも書いた中小企業庁が発表している資料にも、起業3年後の社長の給料について言及がありますが、月額20万円以下が約40%、月額40万円以下で約65%と上記の調達前の給料に近い水準となっています。
調達後に給料を上げる理由
調達後に給料を上げる理由について、両ブログで書かれていたことをまとめると以下のようになります。
社長のモチベーション・体調維持
資金を提供したVCにとって一番のリスクは投資先のスタートアップの社長が戦意を喪失して事業を投げ出してしまうことです。多くのスタートアップは事業アイディアの多くを社長に依存しており、その社長が抜けてしまうことはそのスタートアップが潰れてしまうことと同義であることが少なくないからです。
モチベーション維持に影響のあるものとして、社長自身が他の会社に転職すればもっと稼げてしまう、自分より給料をもらっている社員がたくさんいる、安いものばかり食べていると精神衛生上も体調管理上もよくないなどが挙げられています。
株の買い戻しイベントに備える
冒頭で紹介したブログでは株の買い戻しイベントに備えて社長にそれなりの資金力を備えさせるべきとありました。この点に関しては個人的には、①そもそも社長の手取りを100万円にしたぐらいだと、社員の離脱時に買い戻しはできてもVCからの買い戻しはきついこと、②株主間契約などで予め縛ることができそうの2点疑問が残ります。
①については簡単な計算でわかるのですが、ざっくりスタートアップの資金調達では、会社の価値を3億円と算定して、その10%をVCに渡すので、3000万円を会社に入れてくださいって感じになります。VCもステージに応じて投資した額に対するリターンは変わるのですが、買い戻しをするとなれば、当初の3億円3000万円という金額では買い戻しをさせてくれません。半分買い戻すとしても1500万円以上が必要になります。なのでいくら社長の給料をあげたところで結構厳しいんじゃないかなーというのが気になります。もちろんある程度給与があれば銀行借入ができるというのは言えるかもしれません。実際に知り合いの経営者で結構な金額の銀行借入を行い、株の買い戻しを行ったという話を聞きます。
②については共同創業者や社員に株を渡す際には株主間契約である程度縛りを入れることができます。近年では「1 year cliff, 4 year vesting」というスケジュールが一般的なようです。
その一定期間(=スケジュール)が、典型的には「1 year cliff, 4 year vesting」といわれるものでして、これは、
(1) 1年間働いたら、全体の4分の1が、会社の買戻権から外れる(=その後会社を去っても、会社から買い戻されることはなくなる)
(2) 1年間後は、1ヶ月経つごとに、全体の48分の1が会社の買戻権から外れる。
(3) 最終的に、満4年で、全部が会社の買戻権から外れる(晴れて、完全無欠の株主になる)。
ということを意味しています。
このような形で株の買い戻しについては、そもそものバリエーション的に社長の給料をあげても対処が難しく、対処するのであれば創業者間契約で縛るのがよいと思うのであまり給与には影響しないのかなーと個人的には思っています。
海外のスタートアップCEOの給料水準
海外のスタートアップCEOも同様な傾向にあるといえます。下記は調達額に応じたスタートアップ創業者の給与の平均を表したものです。日本と似たような環境にあるといえますが、上記で紹介したブログよりも調達金額に応じた金額が出ており参考になります。調達したから50万円-100万円というよりは、調達金額に応じて適切な給与を考えましょうという形になっています。このグラフを見る限りは1億円以上調達するまでは、月額30万円の年収360万円というのがスタートアップ社長の平均的な給与水準になりそうです。
画像出典:
上記の記事では、資金調達金額ごと以外にも製品の開発段階ごとや各都市ごとのスタートアップ創業者の給料のグラフがあるので興味がある人はぜひ見てみてください。
資金調達しないまま売却した僕らのケース
最後に思い出話をすると、創業1年目は、役員報酬には結構苦労しました。そもそもいくら儲かるのかわからないのに、役員報酬は一度決めると変更が極めて面倒なものです。
僕らの場合初年度は最初はセオリー通り月額30万円の予定で進めていたものの、(どうやら初月の調子がよかったので調子にのって40万円で設定したものの)思った以上に進捗が悪く、期中で月額10万円に減額することを決めて手続きを取りました。共同創業者の指摘で気づきましたが、30万円じゃなくて40万円だったんですね。。。
まとまってて面白い!これ、逆に最初から高いケースとか、いつも書いてる自己資本で行く場合、最初から調達してる場合とか、細かいケースも知りたい。あと、僕らは最初は初月が良くて調子乗って40万円でしたよ。 https://t.co/aDK3HelXJ8
— sho_osugi (@sho_osugi) 2017年6月3日
しかし役員報酬については減額でも原則的には認められていません。
役員報酬を事業年度の途中で減額したい場合、国税庁では「経営状況の悪化に伴なって、株主や債権者、取引先等との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じている場合」は特別に減額し、損金に算入することができるとしています。
しかし、事業年度の途中での役員報酬の変更は、減額であっても原則は認められてはいません。
このままだと会社経営的にまずそうなので上記の「経営状況の悪化に伴なって、株主や債権者、取引先等との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じている場合」に該当するとして、役員報酬を減額したことがあります。ちなみに役員報酬の増額はできますが、増額分は全て損金不算入です。今年は思った以上に儲かりそうだから役員報酬を増額して税金の支払いを少なくしようみたいなことはできない仕組みになっています。
2年目以後は事業年度開始後、3ヶ月以内に役員報酬の変更を行うことができるというルールに則り、事業年度開始3ヶ月の初速を見て、どの程度の売上になりそうなのかを予測し役員報酬を決定していました。
4年目からはだいぶ安定して利益がかなり出るようになったのでざっくり決めるようになりましたが、3年目ぐらいまでは最初の3ヶ月の動きを見て、かなり慎重に役員報酬を決定していたのが懐かしいです。
会社経営をしていると、銀行残高的に自分たちに給料が払えないなんてケースは少なくありません。その場合は会社に経営者が貸付を行い、未払金として計上します。nanapiのけんすうさんでもそんなことがあったのかと思うと当時を思い出して感慨深いです。
うちの会社でも、他の会社でもこのあたりが多かったので、そうかなあ、と。ちなみに払えない時は、払っていませんでした。会社への貸付という形になります。儲かったら返してもらえばいいわけです。
最後に
インターネット系のスタートアップはほとんどが人件費で消えていきます。そのため役員報酬をいくらにするのかは非常に重要な判断になります。少なすぎれば生活していけず、かといって多すぎると会社が成功する前に潰れてしまうという悩ましい問題です。役員報酬だけでなくスタートアップで起きる問題についてはセオリーはありながらも実際には自分たちの状況に応じて、自分なりに仮説立てて、最後はえいやで設定するしかないんでしょうね。