人類共通のことと、そうじゃないことと。
ここ最近FacebookやInstagramで、妙にキレイに、またはちょっと不気味に、加工された顔写真がたくさん流れてて、気になっている方も多いんじゃないでしょうか。それは「FaceApp」というiOS/Androidアプリによるもので、これを使うと写真の表情を変えたり、見た目を若くしたり年取らせたり、性別を変えたりもできるんです。
このアプリの機能は、人工知能(AI)のひとつであるニューラルネットワークで可能になっています。ニューラルネットワークの手法では、コンピュータに数千、場合によっては数百万もの画像例を分析させ、特徴を学習させます。
ニューラルネットワークは今や日常生活の中でさまざま活用されていますし、顔認識技術もだいぶ前からあちこちで使われています。でもFaceAppを使ってみると、AIによる人間の顔の捉え方がまるで人間みたいであることが感じられます。全部細かいところまで仕組みがわかっているわけじゃありませんが、FaceAppのデベロッパーがこれまでに提示した理論やヒントから考えると、このアプリのアルゴリズムは、人間が他人の年代や女っぽさ・男っぽさといったものを判断するときに使うのと同じ特徴を捉えているようです。
「若さ」の秘訣
ゲティスバーグ大学の認知研究所所長で、FaceAppの開発には関わっていない心理学者のRichard Russell氏によれば、顔の年齢の受け止め方はいくつかのキーとなる変化に集約することができます、年齢についてのわかりやすい特徴は、パッと思い浮かべるとシワとかシミ、たるみ、白髪といったものがあります。が、FaceAppではこれらに加え、もっと微妙な変化も顔の画像に反映しています。
こちらはこの記事を寄稿したサイエンスライター、Christie Wilcoxさんのフィアンセ、Jakeさん。真ん中が元の画像、上がFaceAppの「OLD」フィルターで作った画像です。特に目元に注目してください。
「OLD」フィルターを使うと目が小さくなるだけでなく、目の周りの肌色が赤っぽくなるとともに、目の色は濁って、目が相対的に目立たなくなっています。顔のパーツと皮膚のコントラストが小さくなるのはマイナーな変化のように見えますが、Russell氏の研究でも、このコントラストが年齢の推定において重要な役割を果たしていることがわかっています。
逆に大人の顔を子どもの顔に変えるときは、また別の変化が必要になります。子供の顔では、たとえば目や口といったパーツが相対的に大きく、額は小さくなります。なのでFaceAppの「YOUNG」フィルターはそれらの特徴を反映しつつ、大人であることを明示するヒゲなどはなくしています。その結果、3つ目の画像ができます。
ただしFaceAppは、男性を幼くすることには長けているのですが、女性の場合あまりうまくいかないみたいです。
左と右で、見た目年齢が大してかわっていません。これはおそらく、大人の女性と少女の顔の違いは、大人の男性と少年の顔の違いほど大きくないからだと考えられます。Russell氏も「思春期を通じて、男性の顔にはより大きな変化が起こるのです」と教えてくれました。
人は年齢とともに、たとえば顔の下半分が相対的に大きくなるとか、目が小さくなるとか、あごが大きくなるとか、眉周りがたるむとか、いろいろな変化を経験します。ただこれらは、女性より男性においてはっきりと起こります。なのでAIが大人の女性を若返らせようとしても、相対的にできることが少ないのです。
男らしさ/女らしさとは
普段、顔の男性らしさ・女性らしさを決める要素は何だろう?なんて意識することはあまりありません。でもFaceAppのアルゴリズムは、人間が直感的に受けとめている男性らしさ・女性らしさを学習しているようです。男性の顔は眉が長く濃く、あごががっしりしていて、鼻が大きく、目はくぼんでいて、ヒゲが生えています。FaceAppはこれらの特徴を女性に付加することで、男性の顔へと変身させることもできます。
それからもっと微妙な変化もあるようです。Russell氏らによれば、人種や民族に関係なく、男性の皮膚は全身どこをとっても女性より色が濃く、赤みがかっているそうです。
「皮膚の色味に違いがある一方で、目や唇の色味には差がないため、女性の顔では男性よりもパーツのコントラストが強くなります。だからパーツが目立つのです」
なるほど、女性の顔では元々目とか口が目立つようになっていて、化粧によってさらにそれを強調しているんですね〜。
そこでWilcoxさんの写真に、「FEMALE(女性) 2」フィルターと「MALE(男性)」フィルターをかけてみましょう。
「FEMALE 2」フィルターでは、目が大きくくっきりさせられ、唇の色も違う口紅を塗ったように濃くなっています。この変化は「YOUNG」フィルターにも似ているのですが、より誇張されています。「FEMALE 2」フィルターをかけた画像は、上の「YOUNG」フィルターをかけた画像よりむしろ若く見えるほどです。一方「MALE」フィルターでは、目や口元のコントラストが失われてヒゲが生え、はっきりと男性に変化しています。
逆に男性に「FEMALE 2」フィルターと「MALE」フィルターをかけるとどうなるんでしょうか? 「FEMALE 2」フィルターでなかなかの美女ができあがったのはともかくとして、興味深いのは「MALE」フィルターの方です。女性をさらに女性化した場合とは違い、こちらはほとんど変化がありませんでした。
「魅力的な顔」は人によって違うはず…ですが
年齢や性別をいじるのはただ面白いだけだったんですが、FaceAppには「hot(魅力的な)」フィルターなるものもありました。これを使うと美男美女になれるってことだったんですが、その処理は皮膚の色を薄く、パーツの形を白人っぽくするものでした。つまり結果的に「美男美女=白人」という価値観を示してしまったため、「hot」フィルターは炎上し、現在では削除されてしまいました。
#faceapp is super racist. This is their "spark" aka "hot" filter. pic.twitter.com/LzkZT6aWwq
— Maureen Rose (@mo_hegs) 2017年4月25日
FaceAppは超人種差別主義。「spark」、別名「hot」フィルターがこれ。
#faceapp isn't' just bad it's also racist...filter=bleach my skin and make my nose your opinion of European. No thanks #uninstalled pic.twitter.com/DM6fMgUhr5
— Terrance AB Johnson (@tweeterrance) 2017年4月19日
#faceappは出来が悪いだけじゃなく、差別主義的だ。フィルター=皮膚を漂白して、鼻をいわゆるヨーロピアンに。ノーサンクス。#uninstalled
なぜこうなってしまったんでしょうか? Russell氏は、アプリの開発プロセスを理解しなければ原因はわからないと前置きしたうえで、いくつかの可能性を指摘しました。まず考えられるのは、アルゴリズムの学習に使った画像に人種的なバイアスがあり、「魅力的」な顔に白人が多すぎたのではないかということです。このアプリを開発したのはロシアの会社なので、それはたしかにありそうです。でもRussell氏いわく、アルゴリズムの学習プロセスとか、「魅力的かどうか」という評価基準を最初に作ったのが誰だったか、ということも影響してくるそうです。ただFaceAppの学習用データセットで魅力度の評価がどうなっていたのかは、公開されていません。
年齢とか性別と違って、顔の魅力度は人によって基準が違います。そこには、見る側の年齢、性別、性的指向などさまざまな要素が反映されることが研究でも証明されています。顔の左右の対称性など、ある程度共通した特徴はあるものの、眉の濃さとか顔のパーツの形に関しては人や時代によって評価が変わります。「魅力のある特徴は、ほぼつねに文脈に依存するのです」とRussell氏は言います。「ゴールドスタンダードはなく、客観的な指標もないんです」
リアルっぽいだけど本物ではない
またFaceappによる顔の変化はリアルですが、リアルっぽいからといって、実態の推定に使えるものではありません。というのは、上のJakeさんの本物の小学校時代の写真と、「YOUNG」フィルターを通したJakeさんを比べてみましょう。
上の写真と同じように、FaceAppで顔を老人化しても、それは実際の40年後の姿とは別ものになります。またはもし性転換してホルモン治療を受けても、FaceAppの異性フィルターをかけたときとは違う容姿になるはずです。
FaceAppは、我々の中のナルシストを楽しませてくれるアプリです。でもそれによって本物の過去とか、性を逆にした自分自身を見られるわけではありません。
とはいえ、ニューラルネットワークの応用はまだまだこれからです。このアルゴリズムを進化させれば、たとえば10年前に失踪した子どもの写真の現在の姿を正確に再現して捜査に貢献したり、事故でけがをした人の顔をよりうまく再建したりといったことにも役立つかもしれません。セルフィーフィルターは、ほんの始まりでしかないのです。
Top Image: CharlieMcBride/Flickr Creative Commons
Source: FaceApp, PLOS ONE(PDF), Perception(PDF), Current Biology(PDF)
Christie Wilcox - Gizmodo US[原文]
(福田ミホ)