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マナースタイル★MannerStyle★

ビジネスコンサル兼マナー講師が、「マナー」「礼儀」「作法」「しきたり」の由縁について、調べたことをまとめたブログ。単なる備忘録です。

太ももに頭を載せるのに、なぜ「ひざ枕」なのか

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天気が良かったので、家族で公園に行って遊んでました。

暑かったのが原因か、娘は鼻血を出してしまい、しばらく日陰で妻がひざ枕をして休んでいました。

普段ひざ枕をしてもらう機会が少ないからか、

「お母さんの太もも枕、とっても気持ちいい」

と、甘えていました。

確かに、ひざ枕はひざを枕にするのではなく、太ももに頭を載せるものです。

気になったので、帰ってからひざ枕の語源や由縁を調べてみました。

今回は、ひざについて書いてみます。

 

 

 

ひざ

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ひざは、脚の関節部分で、ももとすねをつなぐ部分の事です。

ひざの前面を膝頭(ひざがしら)や膝小僧(ひざこぞう)と呼び、ひざの後面をひかがみと呼ぶことがあります。

 

万葉集とひざ枕

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ひざ枕という言葉は、万葉集にも出てきます。

万葉集の810番目の歌に

いかにあらむ 日の時にかも 声知らむ 人の膝の上 我が枕かむ 

というものがあります。

どのようにか、いつの日にか、この音色を理解してくれる人の膝の上を、私は枕とするのかもしれません

という意味の歌です。

万葉集は、奈良時代後半に編纂された歌集だとされています。

万葉集が編纂された奈良時代から、太もも枕ではなくひざ枕と言われていたようです。

 

明確に区別されていなかった、「もも」と「ひざ」

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日本では昔から、脚の部分を呼ぶ名前に明確な区別がなかったと考えられています。

そのため、奈良時代頃も「もも」と「ひざ」は区別されていなかったと思われます。

鎌倉時代以降、少しずつ「もも」と「ひざ」が区別されるようになってきます。

鎌倉時代に書かれた『異本紫明抄』や『水原抄』という、源氏物語の注釈書があります。

この中には、

「ひざ頭」

「ひざの皿」

といった表現があります。

また、江戸時代に書かれた、『東海道中膝栗毛』という本があります。

この本のタイトルにも、「膝」という字が使われていますが、これは脚を意味しています。

膝栗毛というのは、栗毛の馬の代わりに脚(徒歩)で旅をするという意味になります。

 

ひざ枕の他にもある、太ももを指す言葉

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「ひざ枕」以外にも、太ももを指している言葉はあります。

たとえば、

「ひざ掛け」

「電車でカバンをひざの上に乗せる」

「思わずひざを打つ」

といったものは、全て太ももを指している言葉だと思います。

 

日本におけるコミュニケーションとひざの関係

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ひざは、足の裏の次に地面に設置することが多い場所だと思います。

「跪く(ひざまずく)」という言葉がありますが、これはかかとをあげ、つま先とひざをついて座る座り方の事です。

また、「正座」はつま先を伸ばして足の甲とひざをつく座り方の事です。

どちらも、神前や高貴な人物の前など、改まった場所で座る座り方です。

改まった場所では、ひざは地面につけるものなのかもしれません。

対して、人とのコミュニケーションでは、ひざとひざを近づけることが良しとされてきました。

「ひざを突き合わせる」

というのは、じっくり話し合うという意味ですし

「ひざを交える」

というのは、親しく語り合うことを意味しています。

日本人にとって、ひざは神や人と関わる際に、大切な意味を持った部位だったのかもしれません。

だからこそ、大切な頭を載せるのは「太もも枕」ではなく「ひざ枕」でなければならなかったのではないかと思います。

 

 

 

参考文献

新明解国語辞典 第七版

広辞苑 第六版 (普通版)

万葉集 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)

水原紫明抄 [20]